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【書籍化】身代わり悪女の契約結婚~一年で離縁されましたが、元夫がなぜか私を探しているようです~  作者: 櫻井みこと


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 トィート伯爵のことを、信用していたわけではない。

 ただ行き先のなかったカーライズは、彼に与えられた部屋で、一日過ごすようになった。

 父親が急死したのは、そんな生活を続けていた日のこと。

 あと数日で学園を卒業する頃だった。

 トィート伯爵家の一室で、ぼんやりとしていたカーライズは、突然警備兵に拘束された。

 急いで戻ってきたトィート伯爵が、自分の屋敷に無断で押し入るとは何事かと一喝してくれなければ、そのまま連行されていたかもしれない。

 父親は、屋敷の寝室で亡くなっていたようだ。

 異母弟のブラウリオは、父親が苦悶の表情をして亡くなっていたことから、毒を盛られたのではないかと疑った。

 そしてあと数日で貴族学園を卒業し、廃嫡される予定のカーライズが、父親を毒殺したと訴えたのだ。

 たしかに、カーライズの廃嫡と後継者変更の手続きはまだ終わっていない。

 こんな状態で父親が死んでしまえば、どちらも手続きが出来ず、キリーナ公爵家はカーライズが継ぐことになる。

 疑われても仕方のない状況ではあった。

 けれどカーライズには、父親を殺してまでキリーナ公爵家を継ぎたいという意志はない。

 それなのにブラウリオは、婚約者であったバレンティナの名前まで出して、カーライズが犯人だと訴え続けた。

 学園生活で、他の人にはまったく興味のないカーライズが、婚約者のバレンティナにだけは話しかけ、笑顔を見せるのは、学園でも有名な話だった。だから、それを信じる者も多かった。

 調査のために、カーライズは警備騎士団に呼び出され、そこに数日間拘束されることになった。

 バレンティナは、わざわざそこまでカーライズを訪ねてきた。

 そして悲しそうな顔で、こんなことをしても私はあなたのもとには戻らない。婚約者だったから、親しくしていただけだと告げた。

 背後にはブラウリオもいて、勝ち誇ったような顔をしていたことを覚えている。

 父親を殺して爵位を簒奪しようとしたのであれば、追放刑、もしくは死刑さえも考えられる。

 けれどカーライズは、自身がどうなろうと構わなかった。

 きっと自分は、生まれてきたこと自体が間違っていたのだろう。

 自暴自棄になっていたカーライズを救ってくれたのが、トィート伯爵だった。

 彼はカーライズを町で拾い、屋敷に泊めていたこと。

 ほとんど部屋から出ずに、屋敷にも学園にも行っていないことを証言してくれた。

 さらに、医師や知人などから情報を詳細に集め、キリーナ公爵が心臓に病を抱えていたこと。

 そんな状態で毎日のように飲酒していたことから、突然発作を起こして亡くなったのではないかという調査結果を提出してくれた。

 実際、父親の遺体からは毒物が検出されておらず、むしろトィート伯爵が集めた証拠通りに、心臓が悪かったことが証明された。

 警備騎士団でも、カーライズを犯人として拘束していたわけではなく、むしろ事件が解決するまで保護する色合いが強かったようだ。

 こうして長い時間は掛かったが、カーライズの無罪は証明された。

 父親は病死であり、遺書も残されていなかったことから、生前の口約束だけでは廃嫡も後継者変更もできず、カーライズがキリーナ公爵家を継ぐことが決定した。

 異母弟のブラウリオはしつこく、カーライズは父親の子どもではないから、爵位を継ぐ資格はないと食い下がっていた。

 どうやら父親から生前、そう言い聞かせられていたらしい。

 けれど異母弟のように瓜二つではないだけで、カーライズも父親に似ている部分はある。

 母親の親族も、間違いなくキリーナ公爵の子どもだと証言してくれた。

 こうしてカーライズは廃嫡寸前で、キリーナ公爵当主に返り咲いた。

 敵は、最初のうちに徹底的に潰しておいた方がいい。

 トィート伯爵にそう助言されたカーライズは、明確な証拠もなく、父親殺しの犯人だと決めつけられ、キリーナ公爵を継ぐ際に支障をきたす可能性があると、異母弟のブラウリオを訴えることにした。

 たしかにトィート伯爵が言っていたように、ブラウリオは簡単に爵位を諦めないだろう。

 またバレンティナのことを引き合いに出されるのも不快だし、もしかしたらカーライズ自身を狙ってくる可能性もある。

 ブラウリオはただの意趣返しだと甘く見ていた様子だが、今のカーライズはもうキリーナ公爵家の当主である。

 前公爵の庶子でしかないブラウリオとは立場が違う。

 裁判の結果、ブラウリオは有罪となり、地方に追放されることになった。

 ようやく決着がついたと思ったその直後、トィート伯爵は亡くなってしまった。

 最後に体調を崩した彼の見舞いに行き、恩を返したいと言ったとき、トィート伯爵は、自分の愛人をよろしく頼むと言ってきた。

 彼には若い愛人がいたのだ。

 両親のこともあったので、カーライズは愛人という存在にあまり良い感情を抱いていない。

 だから、トィート伯爵の最後の頼みにも、何も答えることができなかった。

 悩んでいるうちにトィート伯爵は亡くなってしまった。

 彼の頼みを快諾できなかったことを後悔するが、彼の愛人の評判はあまり良くなく、さらに遺産の一部をもらったというのに、まだ遊び歩いているらしい。

 しかも彼の亡くなった娘の名を騙り、あのトィート伯爵を振り回すほどの我が儘な女性だそうだ。

 母親、そして婚約者だったバレンティナを見てきたカーライズは、トィート伯爵の愛人もまた、自分のことしか考えていない、自分勝手で我が儘な女性なのだと結論を出した。

 そんな女性に夢中だったトィート伯爵が、バレンティナを愛していた頃の自分と重なって、いたたまれないような気持ちになる。

 ブラウリオが追放刑になったあと、彼の婚約者だったバレンティナは、ブラウリオとの婚約を解消し、カーライズに再婚約を求めてきた。

 自分に夢中だったことを知っているので、カーライズはその申し出を喜んで受けるものだと思っていたらしい。


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