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【書籍化】身代わり悪女の契約結婚~一年で離縁されましたが、元夫がなぜか私を探しているようです~  作者: 櫻井みこと


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 礼を言って受け取り、さっそく封を切る。

 アマーリアからの手紙には、姉の往診に行ったこと。

 以前よりもかなり回復していて、気分の良い日は外出できるようになったこと。そして薬代金を支払ってもらったので、治療を継続していくことが書かれていた。

(……良かった)

 それを呼んで、ほっと胸を撫で下ろす。

 このまま治療を続けていけば、姉は完治するだろう。

 感極まって手紙を抱きしめたリアナの背を、院長が優しく撫でてくれた。

 それから院長と少し話し、子どもたちと遊んでから、また来ることを約束して、今度は町の仕立屋に向かう。

 昔から仕事を依頼してくれる仕立屋は、リアナが来たことを喜んでくれた。

 何でも刺繍の仕事が殺到しているが、かなり高度な技術が求められるようだ。なかなか基準を満たす腕の職人がいなくて困っているのだと言う。

 リアナがぜひ引き受けたいと言うと、大量の仕事を依頼してくれた。

 これでパーティに参加する必要のない日は、暇を持て余すことなく、一日中仕事をすることができる。

 引き受けた仕事の道具を馬車に積んで、キリーナ公爵邸に戻ろうとする。

 けれど馬車は、屋敷からかなり手前のところで止まってしまう。

「どうかしましたか?」

 窓から顔を出して御者に尋ねると、どうやらカーライズの帰宅と一緒になってしまったらしい。

「わかりました。もう少し待ちましょう」

 噂の悪女が顔を見せるわけにはいかないと、リアナはかなり長い時間、馬車の中でカーライズが帰宅するのを待っていた。

 その後、ようやく屋敷に入り、仕事道具を持って客間に帰る。

 姉の近況を聞くこともできたし、刺繍の仕事もたくさん受けることができた。

 次のパーティまでは、仕事に集中することができそうだ。

 仕事の順番を確認していると、いつの間にか夜更けになっていた。

 どうやら向こうが忙しくて、リアナの夕食はすっかり忘れられてしまったようだ。

 朝にスープを少し食べたきりだが、あまり食欲もなかったので、そのまま眠ることにした。

 これ以降もときどき食事を忘れられる日もあったが、とくに自分から要求することはしなかった。

 もともと食事の量と回数を減らしてほしいと頼んだのは、リアナのほうだ。

 部屋にいて、刺繍の仕事をして過ごす日々。

 その賃金は貯めておいて、ここを出て行く日に備えるつもりだ。

 たまに窓の外にカーライズの姿を見ることはあったが、彼はいつも昏い瞳をしていた。

 それを見る度に、まるでリアナの心も傷付いたように痛む。

 毎日寝る前に、両親の冥福と姉の回復を祈るのが習慣になっていたリアナだったが、いつしかカーライズのためにも祈るようになっていた。

 どうか彼の痛みが少しでも和らいで、しあわせになる日が訪れますように――。


 キリーナ公爵家での暮らしは、こうして静かに過ぎていった。

 いつしか季節は巡り、夏になっていた。

 庭から見える花もいつの間にか植え替えられ、夏らしい色とりどりの花が咲き乱れている。

 リアナはいつものように、窓の近くに椅子を置いて、庭の花を眺めながら刺繍をしていた。

 刺繍の仕事はずっと途切れずに続いている。

 凝ったものが多いせいで報酬もなかなか良くて、これからの生活資金も少しずつ貯まってきた。

 パーティも、あれから何度か参加している。

 華美なドレス、派手な化粧であちこちのパーティに参加するリアナの姿は、公爵家に嫁いだのに、遊び回っている悪女として評判になっていた。

 もしリアナが夫のカーライズと参加していたのなら、こんな噂になることはなかっただろう。社交も、貴族の大切な仕事のひとつだ。

 でもリアナは教養もなく、男性にばかり話しかけ、パーティのために新しいドレスを仕立てて散財している。

 たとえトィート伯爵に恩があったとはいえ、彼の愛人であったような女を妻に迎え入れたのは、失敗だったのではないか。

 彼もそのうち耐えきれなくなって、離縁するのではないかと噂されていた。

 パーティの片隅でそんな噂話を聞いたリアナは、計画が上手くいっていることに安堵した。

 このまま離縁しても、カーライズに同情が集まるだろう。

 けれど、トィート伯爵の大切な娘の名に、さらなる悪評を付け加えてしまったことに対する罪悪感はあった。

 もともとラーナと呼ばれていた姉にも、何だか申し訳なく思う。

 姉が『悪女ラーナ』だった頃は、世間の評判が悪かっただけで、姉本人はただ孤独なトィート伯爵に寄り添っていただけだ。

 悪女と呼ばれるのにふさわしいことをしているのは、リアナだけである。

 姉も随分回復して、来年の春に執り行われる結婚式の準備で忙しいと聞く。

 食事はきちんと食べているだろうか。

 忙しくて薬を飲み忘れていないだろうかと気になるが、姉に会いに行くことはできない。

 世間に広がる『悪女ラーナ』の噂が姉に伝わっているかと思うと怖くて、手紙を出すこともできずにいた。

 そんなある日。

 いつものようにひとりでパーティで、リアナはカーライズの元婚約者のバレンティナが、新しく婚約したことを知った。

 彼の異母弟がカーライズによって訴えられ、地方に追放になったあと、彼女はカーライズとの再婚約を望んでいたようだ。


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