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【書籍化】身代わり悪女の契約結婚~一年で離縁されましたが、元夫がなぜか私を探しているようです~  作者: 櫻井みこと


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 これを着て、いつもよりも少し派手な化粧をすれば、完璧な悪女が出来上がるに違いない。

 気後れしてしまうが、これは舞台衣装のようなものだと、自分に言い聞かせる。

 リアナはパーティ会場で、『悪女』を演じるだけだ。

 当日は朝から準備に追われた。この日ばかりは朝からメイドが着て、リアナの身支度を手伝ってくれる。

 銀色の髪も綺麗に磨かれ、光り輝いていた。

 フェリーチェが最終確認をしてくれて、リアナは結婚後、初めて屋敷の外に出る。

 大型の馬車にはキリーナ公爵家の紋章が刻まれていて、すれ違う馬車は皆、道を譲ってくれた。今までは他の馬車が通り過ぎるまで待つしかなかったので、そんなことにも驚いてしまう。

 やがて馬車は、今夜の会場であるクリーロ侯爵家に到着した。

 エスコートはいないので、御者が馬車から降りるのを手伝ってくれる。

(ここが、パーティ会場……。皆、上品で綺麗だわ)

 上流貴族らしく、華やかで美しい装いだが、どこか品があって洗練されている。

 そんな中、真っ赤なドレスを着たリアナは、とにかく目立っていた。

 彼女たちは皆、リアナを見ると嫌悪を隠そうともせず、ひそひそと陰口を言う。

 最初からこちらに聞こえるように言っているのか、小さな声なのに、内容はよく聞こえてきた。

「いくら恩があるからと言って、キリーナ公爵夫人があのような女性だなんて……」

「あのドレスの下品なこと。見るのも不快だわ」

 年齢が上の女性は、そんなことを言って眉を顰めている。

「カーライズ様が可哀想だわ。よりによって、あんな女と」

「婚約者もいらしたのに、お気の毒な……」

 そして若い令嬢たちの、嫌悪に満ちた視線と言葉。

 けれどリアナは、カーライズに婚約者がいたという話に驚いていた。

(キリーナ公爵には婚約者がいたの? それなら、どうして契約結婚なんか……)

 結婚をする必要があるのならば、その婚約者と結婚すれば良かったはずだ。

 どうしてわざわざ大金を支払ってまで、評判の悪い悪女と結婚する必要があったのだろうか。

 しかも、一年後には離縁する予定である。

「でも、その婚約者の方は……」

「そうでしたわね。だから結婚相手など誰でも良いと、自暴自棄になってしまわれたのかしら……」

 リアナの疑問は、会場中から聞こえる噂話を聞くと、解決した。

 どうやらカーライズには、本当に婚約者がいたようだ。

 それはカーライズの父方の親戚である、マダリアーガ侯爵家の娘のバレンティナで、なり長い期間婚約していたらしい。

 けれどその婚約は、カーライズの父親によって破談にされていた。

 先代のキリーナ公爵夫妻、つまりカーライズの両親はとても不仲で、カーライズが生まれたあとは、ふたりとも屋敷を出て愛人と一緒に暮らしていたようだ。

 あの広大な屋敷には、幼いカーライズだけが残されたことになる。

 それぞれ愛人との間に子どもも生まれていて、母親と離縁した父親は、カーライズではなく、愛人との間に生まれた異母弟のブラウリオにキリーナ公爵家を継がせようと考えた。

 けれどカーライズの父は、婚約者の父であるマダリアーガ侯爵に、彼の娘を必ずキリーナ公爵家の後継者に嫁がせると約束していたようだ。

 そこでカーライズの婚約を勝手に解消して、婚約者のバレンティナと異母弟のブラウリオを婚約させてしまった。

 父親同士の仲が良いこともあり、バレンティナとブラウリオはもともと顔見知りだったようだ。

 彼女も、後継者が変わると聞かされて、あっさりと異母弟に乗り換えていた。

 けれど後継者を変更しないまま、父親は急死してしまう。

 医師の見立てでは心臓の病だそうだが、異母弟のブラウリオは納得せず、カーライズが父親を殺したのだと訴えたようだ。

 争いは長い間続き、その際、トィート伯爵がカーライズに手助けをしたこともあった。

 彼に恩があると言っていたのは、そのことのようだ。

 最後にはカーライズの無罪が証明され、彼はキリーナ公爵家を継いだ。

 そして自分を父親殺しにして爵位を奪い取ろうとした異母弟を許さず、名誉毀損で訴え、異母弟は地方に追放されたようだ。

(でも、追放されたのは異母弟だけ。元婚約者がまた再婚約しようと、何度もキリーナ公爵に接触してきた……)

 父方の親戚だけあって、元婚約者のマダリアーガ侯爵もキリーナ公爵家には多大な影響力を持っている。

 このままでは、またバレンティナと婚約することになるかもしれない。

 けれどカーライズは、元婚約者もその父親も信用していなかった。

 裏ではまだ異母弟と繋がっていて、いずれキリーナ公爵家を乗っ取るつもりだと考えている。

 カーライズの友人たちは、気の毒そうに、そんな彼の心境を語っていた。

 両親の愛を受けたこともなく、それぞれ愛人と暮らしている両親。

 さらに父親は、自分の婚約者と地位を奪って異母弟に与えようとしていた。

 母親はあっさりと子どもを捨てて、愛人のもとに走った。

 あんな昏い瞳になってしまった理由は、ここにあったのだ。

 カーライズは誰も信用していない。

 けれどキリーナ公爵家の当主として、結婚しないわけにはいかない。

 まだ爵位を継いだばかりの若い当主では、親戚たちの圧力に逆らえない部分もあるだろう。

 このままでは元婚約者と再婚約させられてしまう。

 そう考えたカーライズは、こうして偽装結婚することにしたのか。

 一年後にリアナと離縁して、それからどうするつもりなのかはわからないが、一度結婚さえしてしまえば、元婚約者との関係を完全に絶つことができるのだろうか。

(そんなことがあったなんて……)

 壮絶な話に、リアナは言葉を失った。

 せめてリアナとの契約結婚が、彼の役に立てればと思う。

 そんなキリーナ公爵家の縁戚だらけのパーティにひとりで参加したリアナは、会場中から注目されていた。


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