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 何か困っていることはないかと聞かれて、大丈夫だと答える。

「手紙が届いておりました。失礼ですが、中身を確認させていただいております」

「わかりました」

 キリーナ公爵家宛に手紙を寄越してくれるのは、姉しかいない。

 きっとリアナが出した手紙に返事をくれたのだろう。見られて困ることは何も書いていないので、それを承知して手紙を受け取った。

「それと、支払いはすべてすませておきました。これが受取書です」

 フェリーチェはそう言って、三枚の書類を差し出してくれた。

「ありがとうございます!」

 姉の薬の支払い期限は間近に迫っていたので、支払ってくれたと聞いて心から安堵した。

「……助かりました。本当にありがとうございます」

 受取書には、それぞれ日付とサインが記してあった。

 ホード子爵家もきちんと受け取ってくれたようなので、これで姉の結婚は確定しただろう。

 女性医師であるアマーリアの受取サインにはドクターと記されていて、少しどきりとするが、フェリーチェは余計な質問はしなかった。

「そろそろキリーナ公爵閣下の結婚が、周囲にも知れ渡る頃でしょう。結婚の条件にあったように、パーティに何度か、おひとりで参加していただきたいのですか」

 薬の支払い、そして借金の返済を終えたことに安堵していたリアナは、フェリーチェからの申し出に、はっとする。

 そう言えば結婚の条件に、それも記載してあったと思い出す。

 キリーナ公爵は、トィート伯爵から受けた恩を返すために、『悪女ラーナ』を娶ったのだ。

 だがあまりにもひどい妻だったので、一年で離縁することになっている。

 リアナはまだ、悪女を演じなくてはならない。

「……わかりました」

 ただ部屋に引きこもっているだけでは、契約結婚の条件を満たしたことにはならないのだ。

「どこにでも行きますが、姉の参加していないパーティにしてください」

 しあわせな結婚をしたと思っているリアナが、まだ『悪女ラーナ』として過ごしていることを知れば、姉は驚き、そして傷付くだろう。

 姉には会いたいが、もう会うわけにはいかない。

「わかりました。こちらで手配しておきます。ドレスも装飾品も、こちらで用意したものをお召し下さい」

 リアナが用意してもらったドレスを着ていないことに気付いたフェリーチェが、そう念を押してきた。

 パーティにはトィート伯爵の娘のドレスで参加しようと思っていたが、そう言われてしまったら、リアナはそれを承知するしかなかった。

「他に何か、希望はありますか?」

「はい。そのパーティが終わったあとで構わないので、修道院に行かせてもらえませんか? 子どもたちに服を届ける約束をしているのです」

「……修道院、ですか」

 フェリーチェはどうしてそんなところに、とでも言いそうな顔をしていたが、余計なことは何も言わずに、それを承知してくれた。

 彼は、パーティの日程が決まったらまた連絡すると言って、帰って行った。

 残されたリアナは、これからのことを思って、少し憂鬱になる。

(キリーナ公爵が離縁を決意するくらい、ひどい妻にならなくては。でも、具体的にどんなことをすれば良いのかしら……)

 悪女らしく、たくさんの男性を侍らせたら良いのだろうが、男性と話すだけで緊張してしまうリアナにはできそうにない。

 憂鬱だったが、やれなくてもするしかないと覚悟を決めて、先ほど受け取った姉からの手紙を手に取る。

 その手紙には、やはり帰りを待っていたのに、リアナが帰ってこないと知ったときの驚き。

 婚約してすぐに結婚してしまったことに対する驚きの言葉が綴られている。

 盛大に祝いたかったと書いてくれた姉の優しさが、胸に沁みる。

 そしてホード子爵家からの借金を返済してくれたこと。

 将来のために、姉にもお金を送ったことに対する感謝の気持ちが何度も書き記されていた。

 落ち着いたら帰ってきてほしい。

 そして一年後の結婚式には、絶対に参加してほしいと書かれていて、姉のために作ったドレスを思い出し、そのドレスを着て結婚式を挙げる姉のしあわせな姿を想像して、胸がいっぱいになる。

 姉のためにも、きちんと『悪女ラーナ』を演じ、姉と悪女を完全に切り離さないといけない。

(姉様のためにも、頑張るわ)

 そう固く決意した。


 そうして、数日後。

 フェリーチェが再び部屋を訪れて、二日後のクリーロ侯爵家のダンスパーティに参加することになったと教えてくれた。

 クリーロ侯爵は、キリーナ公爵の縁戚であり、このパーティには双方の知り合いも多数参加するようだ。

 しかも出席するのは、伯爵や侯爵出身の者ばかりで、姉やホード子爵家の者が参加することはないと聞いて、安堵する。

(でも高位貴族の方ばかり……)

 リアナは貴族学園に通っていないので、礼儀作法には少し疎い。

 何か失敗しないかと不安になるが、むしろその失敗でキリーナ公爵家に相応しくないと示せるかもしれない。

 失敗してもそれが良い方向に作用するかと思うと、緊張も少し薄れた。

 陰口や蔑みの視線くらいなら、耐えられる。

 キリーナ公爵はきちんと報酬を支払ってくれたのだから、リアナも自分の役目を全うしなくてはならない。

 前日に、メイドがドレスと装飾品を持ってきてくれた。

 真っ赤なドレスに、オニキスの髪飾り。

 なかなか目立つドレスだが、最高級の生地で作られているようで、肌触りはとても良い。


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