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【書籍化】身代わり悪女の契約結婚~一年で離縁されましたが、元夫がなぜか私を探しているようです~  作者: 櫻井みこと


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「どなたからですか?」

「キリーナ公爵家の当主、カーライズ様だ」

 リアナは驚き、目を瞠る。

 悪女と噂される自分の元に、まさか公爵家からの縁談が持ち込まれるとは思わなかった。

 年の離れた公爵から後妻に望まれるのならまだしも、キリーナ公爵家の当主であるカーライズはまだ爵位を継いだばかりで、年齢もナージェとそれほど変わらないはずだ。

「どうして……」

 それほど不相応な縁談を、喜べるはずもない。

 警戒するリアナに、ナージェは淡々と説明してくれた。

「カーライズ様は、トィート伯爵と顔見知りだった。彼の生前、『ラーナ』との縁談を持ちかけられたこともあったそうだ」

 トィート伯爵が、姉の縁談を探していたことは知っていた。

 けれどまさか、公爵家にまで声を掛けているとは思わなかった。彼は本当に、姉を娘のように思ってくれていたのだろう。

 もし姉が自身の愛人と呼ばれ、蔑まれていたと知れば、すぐに噂を訂正し、姉の名誉を回復させてくれたに違いない。

 そんな噂をトィート伯爵の耳に入れる者はいなかった。

 だから姉が、きちんと訴えるべきだったと、今なら思う。

「表向きは、恩あるトィート伯爵に報いるため、生前彼が勧めた縁談を、承知したことにするようだ」

 リアナの後悔も知らずに、ナージェは言葉を続けた。

「表向き?」

「そう。彼に、結婚する意思はない。けれど公爵家の当主として、妻を娶る必要があった。そのために、条件を満たす相手を探していたようだ」

 どうやら契約結婚らしいと察して、リアナは少しだけ落ち着いた。

 そうでなければ、公爵家の若き当主が、悪女と噂されている自分に結婚を申し込むはずがない。

「その条件とは?」

 冷静にそう尋ねたリアナに、ナージェは少し驚いた様子だった。けれど気を取り直したように、手元にある書類を読み上げる。

「婚約後、すぐに結婚すること。結婚式、披露パーティは不要であること。契約期間は一年間。その後、速やかに離縁に応じること」

 さらに、結婚期間中はキリーナ公爵邸に住んでもらうことになるが、カーライズとは接触しないこと。

 夜会、パーティなどでもエスコートはしない。

 ただし、ひとりで参加するのは自由。できれば、今まで通り派手に遊び回っていてほしいらしい。

(恩のあったトィート伯爵の願いで仕方なく妻を娶ったけれど、噂通りの悪女で、一年で離縁した、ということにしたいのね)

 結婚して同じ屋敷に住みながら、顔も合わせたくないようだ。しかも、たった一年で離縁するつもりらしい。

 いくら相手が噂の悪女でも、かなり自分勝手な申し出だ。

 現にナージェも、説明しながら苦い顔をしている。

「キリーナ公爵夫人となり、贅沢に遊び暮らせるだろうが、その期間は一年間だけ。しかもそんな理由で公爵家に離縁されてしまったら、もう二度と社交界に出られなくなるだろう」

 一応説明をしてくれているが、リアナにこの結婚を強制するつもりはないようだ。

 むしろ高望みなどせずに、普通の相手とまともな結婚をしろと言いたいらしい。

 リアナを嫌っているのは間違いないが、それでもどんな相手でもいいから放り出すようにして嫁がせるつもりはないようだ。

 けれど、ここまで身勝手な条件を結婚相手に求めるのであれば、きっと見返りもあるだろう。

 しかもキリーナ公爵家といえば、かなり裕福である。

「見返りは?」

 そう尋ねると、ナージェは呆れたような顔をしながらも、一枚の紙をリアナに差し出した。

「結婚が成立すれば、すぐにこの金額を支払うそうだ」

 予想を遙かに超えた額に、リアナは息を呑む。

(こんなに?)

 そこに記された金額は、さすがに女性ひとりの人生を左右することになるとわかっているからか、かなりのものだ。

(これだけあれば、姉様の薬が買える……)

 それどころか、残った借金を支払い、さらに姉の新生活のための資金も残せるかもしれない。

 姉の命を救えるのならば、リアナの将来などどうなってもかまわない。

 むしろ、姉が結婚したら修道院に入って、子どもたちの面倒を見て暮らそうと思っていたくらいだ。

 食い入るように書類を見つめていたリアナは、顔を上げてナージェを見る。

「このお話、お受けいたします」

 きっぱりとそう告げる。

 両親が亡くなったあの日から今まで、姉はずっとリアナを守ってくれていた。

 だから今度は、リアナが姉とカロータ伯爵家を守る番だ。

 そのためなら、愛人という扱いでも良いと考えていたリアナにとって、契約結婚はむしろ好条件だった。

 でも、その答えは彼にとって予想外だったらしい。ナージェは驚いた様子で、リアナを見つめた。

「いくら相手が公爵家でも、こんな条件の結婚を受けるというのか?」

「ええ。私にとっても都合が良いの。早く話を進めてくれると嬉しいわ」

 姉が薬を飲み始めてから、もう十五日ほど経過している。

 最初は効果が出るのか不安だったが、最近は少しずつ体調は良くなっている様子だった。

 食事の量も増え、寝込む日も減ってきた。

 薬の効果が得られたことは、リアナにとって朗報だった。

 姉も薬の効果を実感しているようで、リアナが言わなくてもきちんと服用しているようだ。

 このまま治療を続ければ、きっと姉は回復するだろう。

 だから何としても、十五日後までに一年分の薬代を用意しなくてはならない。


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