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【書籍化】身代わり悪女の契約結婚~一年で離縁されましたが、元夫がなぜか私を探しているようです~  作者: 櫻井みこと


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 姉は、憔悴した顔で眠っている。

「……どうして」

 思わずそう呟き、リアナは爪が食い込むくらい、両手をきつく握りしめる。

 散々苦労してきた姉が、ようやくしあわせになろうとしている。それなのに、どうして姉がそんな病気にならなければならないのか。

「私だったらよかったのに」

 涙が頬を伝う。

 声を上げそうになって、リアナは急いで部屋から出た。姉が起きてしまったら、泣いているリアナを見て、不安になるだろう。

 泣きながら自分の部屋に駆け込み、声を押し殺して泣いた。

(お父様、お母様……。姉様を、助けて……)

 けれどどんなに呼んでも、父と母が答えてくれることはない。

 どのくらい、そうしていただろう。

 泣くだけ泣いたら、気持ちも少し落ち着いてきた。

 今、姉を助けることができるのは、自分だけ。

 これからどうしたらいいのか、冷静に考える。

 ナージェに姉の病気のことを打ち明ければ、彼は何としても薬代を用意してくれるだろう。

 悪女だと信じているリアナには辛辣だが、姉のことは心から愛している。

 だが薬代のためとはいえ、また多額の借金を背負うことになったら、王家は爵位と領地の返還を許さないだろう。

 そして継ぐべき爵位も領地もなくなってしまえば、ホード子爵はふたりの婚約を解消させる可能性が高い。

 もともとナージェの熱意にほだされただけで、ホード子爵はカロータ伯爵家の未来を危ぶんでいた。

 病気を治すだけではない。姉の未来のしあわせも守ろうと思えば、彼らに頼ることはできない。

 姉を救えるのは、自分しかいない。

 リアナは涙を拭いて、顔を上げた。

 途方もない金額だが、それこそ五年前の姉と、年齢も必要な金額も同じである。

「絶対に、姉様を完治させてみせる」

 姉のためなら、何でもする。

 そう強く決意した。

 幸いなことに、姉はぐっすりと眠っていて、なかなか目覚めなかった。

 リアナはその間に顔を洗い、化粧をして、泣いた跡を誤魔化す。それから部屋に戻ると、ようやく姉が目を覚ましたようだ。

「姉様、大丈夫?」

 すぐに駆けつけて、様子を伺う。

「ええ、平気よ。お医者様は?」

「忙しいようで、先に帰ったわ。姉様は色々とあって、疲れが溜まっていたみたいね」

 不安そうな様子の姉に、リアナはそう伝えた。

「疲れ?」

 もしかしたら大きな病気かもしれないと思っていたらしく、姉はその言葉に安堵した様子だった。

 その姿に罪悪感を覚えるが、本当のことを伝えたら、姉はけっして治療を受けてはくれないだろう。

 だから動揺を押し隠し、リアナは明るく告げた。

「そうよ。五日後にまた来て下さるわ。疲労に良く効くお薬を持ってきてくださるから、必ず飲んでね」

 薬と聞いて、姉の顔が曇る。

「ただの疲れなら、薬は必要ないわ」

「だめよ。疲労を甘く見てはいけないと、お医者様も仰っていたわ。それに、そんなに高くない薬だから大丈夫。私の裁縫の仕事で支払えるくらいだから」

 薬と言っても足りない栄養素を補給してくれるようなもので、一年くらい飲み続ければ必ず体調が良くなるからと、懸命に説得した。

「でも、借金もまだ残っているのに……」

 一年後の結婚式までに、残った両親の借金をすべて返さなくてはならない。姉は、それを一番気にしているようだ。

「心配しないで。最近は、刺繍がよく売れるの。作るのが追いつかないくらいよ。姉様のことが心配なの。だから、私のために必ず飲んでね」

 そう言って、ようやく承知してもらった。

 医師は、一年ほど飲み続ければ完治するのではないかと言っていた。

 そして姉の結婚式も一応、一年後に予定されている。

 結婚式までに必ず姉の病気を治してみせる。

 元気になって、愛する人としあわせな結婚をしてほしい。

(そのためなら、私は何だってするわ)

 もう少し休むようにと言って姉の部屋を出たリアナは、これからのことを考える。

 体力をつけるためにも、もう少し栄養のあるものを食べさせた方が良いだろう。

 姉は華奢で、とてもか弱く見える。

 リアナは同じものどころか、姉よりも食べる量は少ないのに、なかなか大人びた体型になってしまった。

 そのせいで年齢よりもかなり上に見られ、だから自分だけ遊び回っているのではないと、ナージェに誤解されてしまっているのだろう。

 でも、今はそれが役に立つかもしれない。

(食事代を今よりも少し多めに……。あとは……)

 リアナは、これからの予定を改めて書き出してみる。

 まず、五日後にまた女性医師のアマーリアが往診に来てくれる。それまでに、三十日分の薬代を支払わなくてはならない。

 もし薬の効果があれば、それを一年ほど飲み続けることになるだろう。

 最初の三十日分は、今までの蓄えや、所有している僅かな宝石類を売れば、何とかなるだろう。中には母の形見の品もあるが、姉の命には代えられない。

 それに、カロータ伯爵家に代々伝わる宝石などは、すべて後継者である姉が所有している。それだけ残してあれば、両親も納得してくれるだろう。


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