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土人形、賢者に教えを請う  作者: 愛羅武勇伝
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〜ゴーレムに心は宿るのか?宿ると思いますか?〜

初めて書きました

 とある丘に豪邸が建っていた。周辺は花園で囲まれており、穏やかな小川は辺りの動植物に生きる力を与えていた。正に、自然と人工物が織り成す芸術作品と、そう表記すべき建物だった。ここまでの全ての説明が過去形であるのは、そう表記しなければならない理由があるからだ。


 ―――その屋敷は、以前までの美麗さを失い、劣化し、風化し、歪み壊れた瓦礫の塊と化していた。崩壊寸前でその原型は残っているが、それは美術品と呼ぶにはあまりにも穢れ、凄惨なモノとなっていた。

更にその陰鬱さの上に穢を塗りたくるのは、屋敷の内部で起きた惨状。

この屋敷に住んでいたのは、一人の高名な魔法使い。腐りきった自国の現状に革命をもたらす為に、彼は土人形の大軍を用いて反旗を翻した。

その結果がこれだ。

血濡れの廊下、おびただしい腐臭。床に散らばっている砕け散った陶器の破片は、主人を護らんと無感情に『処刑人』に突っ込んだ土人形達のもの。主人が人体錬成に手を染めていれば、割れた陶器ではなく、砕け散った人骨が遺されていたであろう。まだ原型を留めている土人形達は、戦闘用ではなく、彼の世話を焼く為に創られた物達。全員、その場に立ち尽くして動かない。執事の服も、メイド服も、時の流れで塵となり、残されたのは棒立ちのマネキンだけ。操り人形は、主人の命令無しには動かない。屋敷の土人形達は、永遠に立ち尽くす。もうこの世界からは消えてしまった、愛しくも何ともない主人の命令を待ちながら。


――――――ただ1個体を例外として。


陶器がぶつかり合う短い音を立てて、そのゴーレムは大地を踏みしめる。

「ご 主人…」

時折発せられる言語は、それが通常の土人形とは一線を画した存在であることの何よりも確実な証明。魂を吹き込まれ、様々な情報を取り込み続けたそれには自我が芽生えた。主が死亡し、たった二日、日が経過した後。

「私 は…」

かれこれ一週間、それは自立に成功した後、徒歩で前へ前へと進み続けている。眼の前が断崖絶壁の壁であろうと、川であろうと、関係なく前進する。濁流に流されたことも、山道で滑落したこともあった。

「どう、すれ ば…」

それの動力源は、土の魔力。地に足が降りているならば、永久に供給を受けることができる。更に土人形はその名の通り、土塊で完結した存在。土の魔力の供給が途絶えない限り、半永久的に風化せず、砕けても元に戻ることができる。…それが何だと言うのだ。ただ歩き続けるだけの存在に、何の価値があろうか。今の自分に疑問すら抱けぬ者など、土塊に等しい。実際、それは土塊だ。人の形をしただけの土塊。どうしても人に成りたいと言うなら成ってみろ。不可能以前に、人に成りたいと思えるかどうかも不明だが。灰の色をした曇天が土人形を嘲笑う様にただ荘厳に、広大に、傲慢に拡がっていた。

孤独。ただ孤独。その事に対しても、何の感情も抱けない土人形は、されるがままに世界に置いていかれようとした。


その手を取ったのは。


「どうすれば、ね…」


美しい事を誇りに思いだした女神が出鼻を挫かれる程の美貌を持ち。


「提案があるんだけど」


その美貌に呆れるほど長い人生を刻んだ。


 


「私が新しいご主人様になってもいい?」

エルフだった。

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