花火と煙草
三題噺もどき―さんびゃくにじゅうさん。
ジワリと、汗が拭きだす。
夜とは言えど、夏は暑い。
少しでも涼しくなるようにと思って、窓を開けたり扇風機を回したりしているが、たいして効果を感じられない。
「……つ」
1人暮らしなのをいいことに、ハーフパンツにキャミソールのみという、かなりラフな格好をしているのだが。それでも暑い。
むき出しの面積は広いし、風の当たる藩士は広いはずなのに、暑さは変わらない。
むしろ、酷い気がする。
「……」
そりゃまぁ、夏の熱に温められた空気をかき混ぜているだけだから、たいして変わらないかもしれないが。
最近たまに耳にするんだが、ハンディファンだって大した意味はないと聞く。
まぁ、あれも熱を巻き込んで顔に当てているようなもんだからなぁ……。
事実かどうかは知らないが。
「……ふぅ」
かと言って、クーラーなるものをつけるのも少々、気が引けるというか。
電気代が上がっているこのご時世、電力消費を上げたくはない……。
常に通帳がかつかつなので、削られるところは削りたいのだ。
これは削るべきではないと思ってはいるが、どうしても気が進まない。
「……っぃなぁ」
薄いキャミソールの襟元を、指でつまんで、ぱたぱたと空気を送ってみる。
こんな格好、他人に見られたわ終わりな気がするんだが……。
見られないとも限らないが……なにせ風通りが一番いいのがここしかない。
「……」
三階建てのアパートの、小さめの窓。
その窓際に、落ちないように腰を掛け、足も片方乗せて。横座りというのかこれは。
缶チューハイ片手に、外を眺めていたりする。
「……」
落ちる可能性もなくはないが、小さめの柵が取り付けられているので、たいして心配はあるまい。
ま、単に危機感というものが、欠如しているだけかもしれないが。
「……」
こくり―
と、一口飲む。
外には、霞むような夜空が広がっている。
街灯が少々多めのこの辺では、たいして綺麗には見えない。
住宅街ではあるが、少し外れると町―というかまぁ、たくさんの店が並んでいるので。その光のせいもあって、夜空は霞む。
まして、今日は―
「ぉ……」
ドン――!!
という音と共に、花が咲く。
今日は町で、花火大会があるらしい。
というのを、小耳に挟んだのでこうして、待機していたのだ。
ついでに、涼もとれたらいいなぁと思ったが。
「……」
次々に上がる、光の花。
音共に広がり、散っていく。
多分、もっと近くで見れば、パラパラと散っていく音も聞こえるかもしれない。
今日は、その音は聞こえない。
―昔は、その音も聞いていたんだけど。
「……」
ぼうっと、花火を眺めながら。
少しずつ、確実に、熱にやられていたらしい、思考は。
余計なことを考え始める。
「……」
きっと、あの花火大会には、いろんな人が来ているんだろう。
家族連れはじめ、友達同士や同僚できていたりもするかもしれない。
―そして、恋人たち。
「……」
いつもなら、去年までなら。
私もあの花火を、もっと近くで見ていた。
でも、今は。
「……」
別に、行こうと思えば、1人でも行ける。
仕事仲間に、誘われなかったわけでもない。
「……」
でも、どうしても。
今は、周りにあふれる幸せを、素直に受け入れることができない。
どうしても、劣等感のようなものが、胸中にあふれて、みじめな思いをしてしまう。
「……」
夜空を彩り続ける花火。
その光は、部屋の中にまで入ってくる。
少しでも、花火がよく見えるようにと思って、電気を消した真っ暗な部屋。
「……」
ふぃ―と、視線を部屋の中にやる。
1つの箱が視界に入る。
「……」
あの人が、付き合っていた頃に吸っていた煙草。
吸いもしないのに、コンビニでわざわざ、高いお金払って買って。
未練がましいと言えば、そうなんだけど。
「……」
窓際から離れ、その箱に手を伸ばす。
近くに置いてあった、ライターもついでに手に取る。
ぴりりと、フィルムをはがしていく。
「……」
ぺたりと。床に座り込みながら、一本取り出してみる。
あの人がしていたように。
口にくわえて。
先に火をつけて。
見よう見まねで、息を吸う―
「――っごほ!!」
思いきり吸った、何かが気管に入り込んだのか、思いきりせき込んだ。
煙草を口元からはなし、落とさないようにだけ気を付ける。
思わず涙目になったのか、視界が少し歪んでいる。
「んぐっ、ごほっ、っつ」
外では、花火が終わったのか、音はなく。
ただ、虚しい咳の音だけが響いていた。
お題:煙草・劣等感・未練がましい