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第9話・初夜の朝寝坊とごま塩

 朝。

 さわやかな朝。

 まるでここ数日のことが夢だったかのように心地よい疲労感に包まれている。

 疲労感に包まれている時点で昨日の出来事が本当だった事実なんだろうけど。

 スマホを見ると、11時。

 11時!?寝すぎた!?

「でも、なんの予定も無いし……」

「今日、総理と面会がありますよ」

 あ、エリカさん。ちーっす……じゃなくて。

 同じ布団の中に一糸纏わぬ橘エリカ嬢が寝ていた。

「昨日のこと、現実だったんだ」

「正確には日付は変わっていた気がしますが」

 そこらへん曖昧にしません?

 エリカはオレの視線を、具体的にはデコルテよりも下、へそよりも上の部分を見つめる視線を感じてか自らの身体を手で覆い隠す。

「あの、見ないでもらえますか?」

「昨日散々見たん……痛い!?」

 グーパンが飛んできました、理不尽です。

「明るいところと夜と、同じと思わないでください」

 そっけない言い方だけどわかりやすく目を閉じて横を向く。

 えっと、ツンデレ?これって死語?

「初めての時は痛いと聞いていましたが、意外とすんなりでした。まさか新井さんのサイズが平均以下」

「泣くよ?」

 早いと小さいは男に言ってはいけない。

 これ、テストに出るんで女性陣は覚えておくように。

「冗談です。丁寧にほぐしてくれたからでしょう」

 真顔で言うな、恥ずかしくなる。

 これだけ聞くとオレが頑張った風に聞こえるかも知れないけどお互いに勝手がわからず四苦八苦した結果というのが現実というもの。

 どんな風に初夜を迎えたか書いてしまったら、この小説がBANされてしまう可能性が非常に高いので、またの機会は無い。

「総理と面会って?」

 思い出したようにさっき言われた嫌なイベント内容をエリカに尋ねる。

 エリカは気まずそうに頬を指で掻く。

「昨日、補佐官の変更を総理に連絡入れたので……」

 うーわー、そんなこともあったぁ。

「今から断ることは?」

「おそらく、難しいかと。総理は1度決めたことを覆すことは無い方ですので……」

 空気が一瞬でお通夜。

「ちなみに、面会は何時から?」

「13時から……あれ、今何時でしたっけ?」

 スマホを見せる。11時15分。

「シャワー浴びて、ご飯を……新井さん、ご飯は無しでも大丈夫ですか?」

 つまり食べてる時間は無いってことね。


「お迎えに上がりました」

 どうやら迎えの時間には間に合ったのだろう、マンションのロビーに降りた時、ピタリとリムジンが横付けになった。

「ありがとうございます。それではお願いします」

 オレらふたりは後部座席、ボックス席に座る。

 昨日のことの話をしようと思ったが、運転席にどれくらい聞こえるのかわからない以上、聞かれてもいい話にするしかない。

「なんでオレが治療できるってわかったの?」

 常識が変わったことがわかった、何が変わったかがわかった。

 しかし、そのあと治療方法がわかった理由がわからない。

 いくら状況が常識の外とはいえ、人間の体液を治療に使うなんて発想、考えられないだろう。

 オレの質問に対してエリカは顔を曇らせた。

「それが……わからないんです」

 ウソでしょ?

「誰かが言い出したことなんです。しかも記録を残していたにも関わらず、そのログが消されていたんです」

 つまり出所のわからない情報でアンタ被検体になったってこと?

「蜘蛛の糸を掴むようなものですよね。仮に失敗しても命にかかわることはありません」

 それはそうだけど。

 オレだったら絶対嫌なんだが?

「そんな顔されるとどう返したらいいのかわからなくなります」

 苦笑いを浮かべるエリカに、オレも釣られてしまう。

 ……そうは言っても、昨日直接治療したからなぁ、などと口走ったらどんな反応されるのだろう。

 うん、やめておこう。

「総理ってどんな人?」

 重くなってしまった空気を変えるために振った話題。

 このまま面会になったらエリカが補佐から外されてしまうことになることを思い出した。

 なんだったらこっちの方が重要だ。

「先日お会いいただいた通りの人です。決めたことはやり抜く、そこに善も悪も無い」

 それだけ聞くと血も涙もないように聞こえるけど、政治家なんてそんなものか。

「今回、新井さんが秘密裏に治療に回ることも総理の独断です。ごく一部の人間しか知りません。そのため、失敗したら全責任は総理が負うことになります」

 オレの責任が重大なんだけど、そこを気にしても。

 失敗するときはしちゃうし。

「そうは言ってもそこまで私は総理のこと、詳しくないんです。今回の被検体になることで手に入れた肩書ですので」

 さらりと言われたその言葉は調子と反対に重いものだった。

「橘さん、それは……」

「着きましたよ」

 オレの言葉を遮るように運転手の声がスピーカーから流れる。

 エリカのお役目、最後かもしれないな。


 この前会ったホテルの駐車場、またエレベーターに乗って15階に。

 部屋に行ったらそのまま事務説明でエリカとおさらばだと思うと着いてほしくない。

「新井さん、必ず治療を成功させてくださいね」

 エリカは階数表示を見たまま、背中越しにそんなことを言う。

 なんて返したらいいかわからないまま、エレベーターは目的階の到着を告げるのだった。


「こんな戯けた施策、国会で通るわけがないでしょう」

 部屋の扉を開けた瞬間、響いた怒声。

 総理の声ではないようだ。

「あー、いらっしゃい。早く閉めて、声漏れちゃうから」

 相変わらず軽い調子で話してくる牛頭総理。

 良かった、座ってくれてるから見えない。

 その机の前に立つ大柄な男。

 総理の言葉にこちらに振り向いた。

 白髪の入り混じった坊主頭、顔は梅干のようにシワが刻みこまれている。

「総理、コレですか。例の元凶は」

 初対面の人間を「コレ」呼ばわるするヤツがまともなわけない、屠れ!殲滅してしまえ!

「巌ちゃん、そうカッカしないで。その問題について話すために来たんでしょう?」

「ダレ?」

「最大野党党首、巌忠興さんです。テレビとかで見たことありませんか?」

 エリカにこっそり尋ねた。知らん。

「元凶である細菌を野放しにしてるなんて。総理、とうとう引退の時ですか?」

「さ、メンバーは揃った。これからの人類について語ろうじゃない」

 総理はぽんっとひとつ手を打った。

 話し合いになるの?コレ。

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