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第38話・映画は話さなくていい

「お兄ちゃん、おそーい!」

 繁華街の駅にある石像前。

 このフクロウは今でもちゃんと待ち合わせの役割を果たしてくれている。

「ゴメン、待った?」

「……お兄ちゃん、大丈夫?遅いって言われて待ったって会話できない人?」

 待ち合わせのテンプレが通じない、だと!?

 ユリは若干顔を引きつらせながらオレのことを可哀そうな物を見る目で……やめろ!その目で開く扉は開けたくない!

 お察しの通りユリとチャットを続け、すぐにふたりで出かけることになりました。

 だって昨日の今日ですからね!

 カテゴリSとは一体何だったのでしょう!

「平日だってのに人が多いね」

 周囲を見回すとユリのほかにも待ち合わせしている人がいるし、それ以外にも流れができるくらいの人数は歩いている。

 その半数以上が裸なのは目のしんどさが凄まじいけどね。

「え?これでも少ないよ?平日だし」

 オレ、ドガイ、ゴワイ。

「でも、よかった。服着てきて。お兄ちゃん、服族だと思って正解だった」

「服族?」

 ユリと繁華街に向かう階段を上りながら話しかけてくる。

「あれ?言わない?普段服を着てる人を服族って」

 あー、昔で言う裸族という感覚で服を着る人のことを服族って……言わないよ!?

 少なくともオレの時代ではね!

 ふぅ、いけない。

 これが老いというものか。

「初耳だけど。今後使っていこうかな」

「使わなくて良いんじゃない?からかう時に使う言葉だし?」

 なぜ使ったんだよぉ!?

 てか、さっきからコイツに振り回されてない?

 エリカとはまた違った振り回し方してくるから慣れないんだけど?

「でも、意外。お兄ちゃんに彼女ができるなんて。昔からワガママだったのに」

 懐かしむようなこと言ってるけど、学校上がる前のことを言われましても。

「よく覚えてるな」

「みんな覚えてるでしょー。ほら、行こ!映画始まっちゃうし」

 始まるまでまだ30分もあるのにユリはせかせかと歩いていく。

 初めてのデートは映画、古来よりの鉄板はまだ生きていたのだった。


 映画館に着くと既にロビーは賑わっており、券売機には長い列ができていた。

「こんなに?」

「だから言ったでしょ、早くって。少し始まっちゃうかもね」

「どうせ始まる前は宣伝でしょ」

 ぶっちゃけ、それを見るのがダルいんだよな。

「お兄ちゃん、分かってない!宣伝は次に見る映画を決めるための大切な時間なのに!」

 コイツと映画に来たのは間違いだったかもしれない。

 でも、プラン考えたのはコイツだしなぁ。

「ところで何の映画観るんだ?」

 内容も聞かずに誘いに乗ったオレもオレだけど、今回の目的は映画じゃない。

 ユリを治療するための距離に入ることだ。

 だから、できる限りコイツを喜ばせる方向にしないと。

「ウチあく3・ニンゲン!ご飯は3合です!」

「……なんて言いました?」

「お兄ちゃんがアニメ見ないのはわかった」

 知らないよー、見てないよー。

 映画がデート初手で有効って言ったの誰だ!?


「間に合ったね」

 どうにかチケットを買えて明るいうちに中に入る。

 平日、しかもアニメ映画なのに割と席が埋まっているのが本当に理解ができない。

「すみませーん、すみませーん。ほら、ここ」

 すでに座っていた人の膝の上を通り、席に着く。

 アレ、映画館の椅子ってこんなに安っぽい感じだったっけ?

 なんかビニール張りになってるけど。

 オレがなかなか座らないのを見てユリが首を傾げる。

「ブランケット、欲しかった?服族だから要らないかなって思ったんだけど」

 どういうことかと思ったけどそういうことか。

 半分以上全裸ですものね、それで椅子に座るんですもんね。

 そりゃ衛生面気になりますよね!!

「大丈夫。久々で驚いただけだから」

 ちょうどいいタイミングで光が落ちて薄暗くなる。

 これ以上突っ込まれないから助かった。

 映画の内容?

 全く頭にありませんよ。


「面白かったー!まさか悪魔がサムズアップしながら溶鉱炉に沈むなんて笑い無く観られなかったよねー!」

 笑っていいの?それ、笑っていいの?

 そもそも久しぶりに会った相手と続き物の映画見るヤツがあるか!

「そうだね」

 そんなことはおくびにも出さず、カフェラテをすするオレ、大人。

「これからどうしよっか?ご飯?カラオケ?」

 予定無しなのかよ!

「決めてなかったんだ?」

「うん、映画観たかっただけだし」

 もしかしてユリ、映画ひとりで観れない人?

「んー、お腹減ったからご飯いこっか。何か食べたいものある?」

「ラーメン!ここら辺に二郎あったかなぁ」

 確定。

 こいつ単純に遊びたかっただけだ!

 ひとりで遊ぶのできない系女子だ!

 幼馴染との再会で「実は私、あなたのことが……」的な速攻治療を考えていたオレがバカみたいだった!

 まぁ、それはそうだよねー。わかってた、わかってた。

 そんな簡単に行くならこの世界を救うことなんか小説で書かないよねー。

「お兄ちゃん、どうしたの?もしかして二郎苦手?」

「食べたこと無いな」

 有名だけど食べたことないものってあるよね。

「それならチャレンジしてみようよ。人選ぶけどね」

 それなら是非とも好きなやつと行っていただきたい。

 食えなかったらどうするんだよ。

「いーじゃないー。何事も経験だよー?」

 半ば強引に手を引いてラーメン屋に進んで行くのだった。


 結論。

 二郎、美味しいです。でも重いです。

 運よく空いている時間だったのか、並ぶことなく店に入ることができてすぐに食べることができた。

 オレは並。

 ユリは大盛りに呪文を唱えた結果、野菜がオレの倍の量乗っかっていた。

 それをぺろっと食べていたんだが、その細い身体のどこに消えたのか不思議である。

「お腹いっぱいだぁ」

 いっぱいじゃないと言ったらオレは2度と一緒にメシを食えないところでしたよ。

「そうしたら今日はありがとね。また行こ」

「お、おう」

 え?本当に映画とご飯だけ?

 このあと何かあるかと思っていたので少し肩透かしなんだけど。

「でも、よかった。彼女さんの手前来てくれないと思ってた」

「別に出かけるくらい……」

 言葉が、止まった。

 目の前にユリの顔があったからだ。

「許さないからね?私以外選ぶの」

 ……怖くない!?目から光消えてるし!

「じゃあね!また遊ぼー!」

 見間違えかと思うほどの変わり身の早さで元に戻る。

 こちらの返事も待たずに人混みの中に消えていくのだった。

 やべぇ、何がとは言わないけどやべぇ。

 もしかしてカテゴリって、闇の深さだったりするの?

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