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第34話・魔女の隠れ家

「書類作成があるので少々ひとりで作業しますね」

 エリカはそう言うと自分の部屋に引きこもってしまう。

 昨日の話を踏まえると作業があるというよりもひとりになりたいってニュアンスが強いんだろうな。

 嫌な気持ちはしない。ただ寂しいだけ。

 同じ部屋に居るのもなんとなくいたたまれなくなり外に出かける。

 2日連続の外出、さすがに今日も城崎のところに行くわけにもいかない。

「あれ?こんなところにカフェなんかあったっけ?」

 マンションを出て歩くこと10分くらい、見慣れぬ外観の店が建っていた。

 大きな窓と三角看板があったので店なのはわかるけど、全体的に暗い雰囲気だし……何より看板に書かれた文字よ。

『魔女の隠れ家』ってなんだその厨二病満々な名前は!

 いや、オレは入らないぞ!でも、ここら辺にカフェなんてないからなー。仕方ないなー。決して左腕がうずいたり、右目に封じられた伝説のなんかが反応したわけじゃないんだからなー。

「いらっしゃいませ、生贄はひとりでしょうか……?」

 店に入ると、長いローブを着た女の人が猫背気味に尋ねてくる。

 オレはなんでこんなにコンカフェに縁があるのだろうか?

「ここって入会金とかあります?」

「あ、初めてのお客さまでしたかー。いいえ、店長が少しこじらせたカフェですのでー。……こちらへどうぞ」

 変わり身の早いお姉さんにプロ意識感じてしまう。時給はいくらなんだろうか。

「こちらへ……要望が決まりましたらお申しつけください」

 メニューを開くと内容が紅茶、コーヒー、ジュースにケーキと本当に一般的なカフェのメニューで逆に拍子抜けしてしまう。

「あら?奇遇ね」

 聞いた覚えがないとも言えない声が耳に入ってちらりと見てすぐに見間違いだと判断してメニューに目を戻す。

 居ない、居ない。ゴスロリの女の子なんて見えてない。

「あら、そういう態度を取るんだ?えっと……ショートケーキとザッハ・トルテ、マンダリンとパンケーキ5段詰みを。この人のツケで」

「やぁ、奇遇ですね。注文、全部キャンセルで」

 人にたかるにしても食い過ぎだろうが。

「よろしい。……ザッハ・トルテはお願い。もちろんこちらの注文につけておいていいから」

 当たり前じゃ。

 人の道に戻ったアリスが紅茶のカップに口を付けた。

「奇遇ね、こんなところでどうしたの?」

「オレの家、近いの知ってるよね」

 この前、合法侵入してたじゃないか。

「そんないちいち覚えてるわけないじゃない。ここのケーキ美味しいのよ」

 本当だかウソだかわからない言い分は却下です。

「どっちでも良いけどさ。なんでわざわざ?」

「すみれお姉さんのお礼、言ってなかったから」

 そういえば、コイツとすみれは幼馴染とかあったね。

「それで?お礼を言いにくるほど殊勝な性格してないでしょ?」

「私のこと、どんな目で見てるのよ。まぁ、事実だけど」

「黒き帽子でございます。ザッハ・トルテとも言いますので間違ってません」

 ローブ姉さん、良いキャラとタイミングしてるなぁ。

「紅茶のお替りお願い……あなたも何か頼んだら?」

「オレは……この、黒い髄液ってやつ」

「それ、サイフォンコーヒーです。……仰せつかりました」

 ちゃんとコーヒーでよかったわ。

「一応、前に進めたようなので労いに来たのよ。ちゃんと攻略できて偉いって」

 アリスを見ると相変わらず人のことをバカにしたような態度で話してくる。

 こんな態度で社会生活を送れているのだろうか。

「なぁに?じっと見て……まさか、私に欲情を……?」

 うん、コレは送れてないわ。

「私のことを描写できないほどの歪んだ性癖の発散に使うのね、そうなのね!」

「あの、妄想から帰ってきてもらっていいっすか」

 オレに変な癖があるかどうかはナイショ。

「なによ、乗ってくれても良いじゃない」

「黒い髄液です。砂糖とミルクは?変な性癖の話は私が加わっても?」

「お願いします。仕事してください」

 この魔女さん、ダメな人ってことがわかった。

「良いじゃない、今後の攻略の参考になるかもしれないわよ」

 大っぴらに話していい話題じゃないの知ってるでしょ?

「仕事は仕事と分けるつもり」

 治療のことでエリカとギクシャクしてるのにこれ以上頭抱えることを増やしたくないんだよ。

「あら、ちゃんと仕事として向き合ってるのね、偉い偉い」

 マジでコイツしばくのアリだよね?

「ていうか、キミはなんでNRのこと詳しいの?」

 この前オレの部屋に居た時、明らかにオレよりも情報を持っていた。

 そんなアリスがわざわざオレに会いに来たってことは何か教えに来てくれたのかも知れない。

「……なにか期待しているようだけど。私は何もできないわよ?」

 オレの期待を早々に砕いてくるスタイル、嫌いじゃ……いや、嫌いだわ。

 でも変だな?

 何も話せない、じゃなくて何も”できない”って?

「姉さんのことには気付かなかったのに、意外と鋭いのね。そう、できない。こう見えて行動が制限されてるの」

 行動を、制限?

「紅茶のお替わりいかがですかー」

 ローブ姉さん、空気読んで!

「いただくわ……こういうこと。あなたに重要なことを話そうとするとこうして邪魔が入る。よほど私は嫌われたみたいね」

「そんな偶然あるわけないじゃない」

 飲み物のお替わりを勧められたくらいで?この子ちょっと被害妄想が過ぎるでしょ。

「偶然?あなたに会うまで都合21回邪魔されてるのに?パパを無理に買い物に連れて行ってやっと会えたのに?」

 いや、知らんて。

 ていうか、城崎と一緒に会った時って初対面じゃ……。

「嫌われたって、誰に?」

「それがわからないから困ってるの。あえて言うなら女王感染者、じゃない?」

「紅茶持ってきましたー。なんです?もしかして女王さまとあられな子豚さんだったんですか?」

 目を輝かせるんじゃないよ、そのネタつい最近やったし。

「そろそろ行くわ。気を付けてね。早くこの世界を攻略しないと、取り返しがつかなくなるから」

 アリスはすっと立ち上がるとそのままトイレに向かった。

「締まらない退場だことで」

「そりゃそうですよねー。あのお客さま、16杯目の紅茶でしたから」

 飲みすぎだろ!?

「彼女、いつから居たんです?」

「開店から、ですかねー。ここのところ毎日同じ席で紅茶を飲んでましたよ」

 その話を聞き、邪魔されていたという言葉があながち嘘で無いように感じてきた。

「毎日……いくらかかったんだ」

「えっと、780円ですよ。ウチ、お替わり自由なので!」

 むしろこの店の経営が大丈夫ですか!?

「なのでお客さまもぜひ通ってください!潰れてほしくないので!」

「き、気が向いたら……」

 こんなダークなところ、頻繁に来たくないっていうのが本音。

「きっとですよー、紅茶、サービスしますから!」

 元々お替わり自由でしょうが。

 怪しい喫茶店で遭遇したゴスロリ少女とローブお姉さん。

 店を出る前、オレもトイレに行こうと扉を開ける。

(……あれ、アリス、トイレから出てたっけ?)

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