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第30話・一休みと次のターゲット

「そういえばオレって治療続けていいの?」

 城崎と別れ車で移動中、頭によぎった……というかすっかり忘れていたことをエリカに聞いてみる。

 牛頭総理からオレが異世界転生をしなかったためにこの世界から性欲が消えたらしく、その責任を取って性欲の無い相手を発情させておせっせすることで治療しろって謎命令を受けた。

 それだけでもアホの極みなのに、そこに面倒な邪魔者、ごま塩……名前、なんだか忘れたごま塩がオレなんか信用できないって文句をつけてきた。

 信用できないって意見にはごもっともなんだけど他人から言われるとムカつくってことあるなじゃい?

 そのあと売り言葉に買い言葉、なんか10日でひとり治療するって言っちゃったもんでどうにかこうにか作品時間10日以内ですみれを治療した……ってあらすじ説明だったわけですが。

「その確認のために今から総理の元に向かってます」

 聞いーてなーい!知ーらなーい!

「遅かれ早かれ報告しなければいけないことですので」

 それはそうだけど、心の準備ってものがですね。

「大丈夫です。ちゃんと赤羽さんの治療は報告済みですので。結果を出しているのですから」

 それはそうですけどぉ。

 んなことよりエリカが真面目な顔でオレがおせっせ……じゃない、治療した報告書を作っている光景想像すると面白くない?

「しかし、総理も暇なの?こんな急に会いに行って時間あるんだ?」

 オレの呑気とも言える言葉に、エリカは深々とため息を吐いた。

「昨日の内にアポを取っていたんです。そのためこの時間から面会なんですよ」

 ……そうですよねー。

 オレと違って暇じゃないですよねー。

 どうにも感覚がズレていていけないな。

 あれよあれよとしているうちに総理といつも会ってるスイートルームに着いた。

 今さらなんだけど、もう別のところでも良くない?

「キミはいつでも思ってることが口に出ているの気付かないねぇ」

 マジで?総理の前でも口に出してた?

「出てる、出てる。そんなお口のチャックがガタガタでよく今回の治療に成功したもんだ」

 本人を目の前にして堂々とディスってくるアンタに言われたくない。これはちゃんと想像に収まっているようだ。

「報告書はお読みいただきましたでしょうか?今回、期間内にターゲットの治療を完遂しております。継続と認識してよろしいでしょうか」

「うん、いいよー」

 軽い!?

「そもそもボクは発案者、反対しているのは巌ちゃんだけ。まぁ知っている人間が少ないから反対派がいないだけだけど」

 こんな治療方法を公表したら確実に反対の方が多いだろうからなぁ。

「だから、新井くんには治療続行してもらいたいし、さっさと次に移ってほしいくらいだよ」

 労え!初めての治療成功だぞ!

「あの、いいっすか?すみれが急に休むって店に連絡あったみたいなんですが。なんか知ってます?」

 いくら何でも治療直後に休んだなんてオレに責任があるんじゃないかって考えちゃうじゃない。

「それは私も気になっていました。お応えできる範囲で構いません、お伺いしてもよろしいですか?」

 ありがたいことにエリカも追って聞いてくれた。

「今回のターゲット、赤羽すみれへの治療行為がイレギュラーだったからね。ほら、彼女マイノリティでしょ。ある意味、無理矢理治療したようなものだから経過を追うために接触したんだ」

「そんなこと初耳です」

 オレだけではなくエリカも聞いていない状況だったのか。

「ごめんね。むしろこんな結果になるかボクたちも知らなかったから驚いてて。事後報告になってしまったことは謝るよ」

 軽い調子で言っているが、そもそもNRがわからないことばかりの状況だ。

 しかも直接治療したのは今回が初めて……になるはず。

「赤羽さんは今どちらに?」

「検査のためにとある施設に入院して貰ってるよ。新井くんが居た病院以外にも協力してくれているところがあるからね」

 なんだ、お見舞いに行こうと思ったのに。

「その場所をお聞きすることは?」

 エリカの問いかけにゆっくり首を振る総理。

「残念だけど。治療者であるキミたちと接触した結果起きることが想定できるまでは治療者との接触は控えてもらいたい」

 治療したらもう会うなってなかなか条件としてシビアじゃない?

「他に何か聞きたいことは?」

 総理は受け入れるようなことを言っているが、なぜか「質問はこれ以上するな」と聞こえるのは気のせいだろうか。

「ありません。……今後の指針は質問にあたりますか?」

 エリカは意外なほどにすんなり引き下がる。

 オレよりも総理との付き合いが長いのだ、性格はわかっているのだろう。

 こうなったら、もう何を聞いても答えてくれないと知っているかのように。

「今後の指針も何も、キミたちはターゲットを決めて、治療する。その中から女王感染者を見つけ問題を解決する。それを繰り返してもらうだけだよ」

 総理の言葉を聞いてオレは違和感を覚えた。

 具体的に何が、と聞かれても困る。

 だけどなんだろうか、この魚の小骨のような、歯に挟まったいちごの種のような不快感は。

「わかりました。それでは本日中にでも治療対象を選定して報告を……」

「それについては問題ない。今回は治療対象をこちらで決めた」

 言ってること手のひら返し過ぎるだろ、くそジジイ。

「総理、それはその方が女王感染者である可能性が高いという理由でしょうか?」

「いや、100%女王感染者じゃないことは確定している」

「ならばなぜ」

「それは……」

 話の最中、キッチンからスーツ姿の男性が出てくる。

 いつも紅茶を出してくれる人、だよな?

「ここからは私から話します。今回治療してほしいターゲット……私の妻の治療をしてほしくて」

 百合の次は人妻って。

 なんでこう癖が歪んでる流れになるんだよ!

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