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第25話・秘密会議

 いつものスイートルーム。

 そこには牛頭と巌、そしてアリスがいる光景は既に見慣れたものになっている。

「こう頻繁に呼びつけるくらいなら、ある程度まとめて報告を入れてくれないか。こう見えて私も暇ではない」

 ここ数日、アリス主体で呼び出される不満を隠そうともしない。

「だいたい、この娘が情報提供者であろうと、イレギュラーであろうと何もできないことに変わりが無いじゃないか。だったらNRに対しての研究に時間を充てたほうが有意義だ」

「どうせ何もわからないのに?」

 アリスがあざけるような微笑みを浮かべながら紅茶に口を付ける。

 その視線は巌に向けようともしない。

「きさ……」

「巌ちゃん、ストップ。アリスちゃんも言葉が過ぎるよ。成果が出るかは運次第、少なくとも行動をしている人間に対して、ちょっと言い過ぎなんじゃない?」

 怒気を含んだ言葉を発する前に巌を止めた牛頭であるものの、その意見が変わらないことはアリスをたしなめたことからも明らかである。

「それを言ったら治療者も行動はしてるじゃない。行動しているのだから、なんの結果も出さなくても認めてあげるの?」

 アリスから出た言葉に押し黙る両者。

 結局、治療者である新井ススム頼りになっている自覚があるのだろう、口を閉ざすことしかできなかったのだ。

 しかし、結果を出さない自分たちを認めないということは、ススムが結果を出さなかった時に容赦はしないことへの裏返しでもあった。

「この前、治療者に会ってきたわよ」

 その言葉に目を怒らせる巌。

「軽率な。キミがやすやす接触したらどうなることか」

「失礼ね、私も被治療者。遅かれ早かれ彼と接触の可能性はある」

「尚早だ」

「で、会ってみてどう感じた?」

 このままでは口論に発展しそうな気配を察したのか、牛頭が口を挟んで話題を変える。

「……パッとしないわね。このまま攻略ができるのか不安だわ」

 表情を変えることなく、アリスは再び紅茶を口に運ぶ。

 その言葉に牛頭は眉を上げて肩をすくめる。

「それならどうするの?キミでしょう、彼に治療の可能性を見出したのは」

「正確には違うんだけど。女王感染者に繋がりがありそうだったからピックアップしただけ」

「無責任だ」

 アリスの言い草に巌は腕を組んで吐き捨てる。

「やはり、症状が出ている者、すべて検査をして割り出したほうが」

「割り出せたらこんな七面倒なことしないわよ。1回に攻略できる人間はひとりだけ、その攻略にかかる時間もどれだけかかるかわからない。回りくどい方法でも、彼が見つけ出すまで頼るしかないのは再三説明したでしょう?」

 巌を睨みながらかみ砕くように説くアリス。

 その子どもに向けるような言い方に気分を害したのか巌は席を立った。

「私は戻る。どうやら私の幼稚な頭では高貴な方との会話に耐えられないようだ」

「強硬手段はやめてね。あなたの孫娘にもどんな影響が出るかわからないんだから」

 アリスの言葉を最後まで聞かず、巌は扉の外に消えていった。

「……協力は感謝している。でも、彼の気持ちも思いやってくれないかな。ボクも彼も、別に遊んでいるわけじゃない」

「少なくない人間の命と天秤なのだから。あなた方は運が悪かった。そのことは認めるけど、その泣き言は当事者じゃないから言えることでしょ」

 アリスの遠慮ない言葉に今度は牛頭が押し黙る。

「早く、女王感染者が見つかれば」

「それ以前の話よ。彼には、早く気付いてもらわないと」

「そのことなんだけど。先に伝えることはできないの?」

 アリスは空になったカップを置いた。

「無理ね。伝えたとしても信じない、それどころか伝えることすら阻まれる。実際さっき会ってきたのに明確に邪魔をされた」

「会ってきた?さっき?」

「必要だったから。渡せる情報を渡そうとした、でもできなかった。間違いなく彼よ、この世界を変えるのは」

 牛頭は口を開かない。

「彼がこの世界の仕組みに、自ら気付くしか方法が無い。私の接触はこれで意味を成さないもの以外できなくなった……もしかしたら私が攻略先になれば別でしょうけど」

「言葉を気を付けてくれないか。攻略、ではなく治療、ね?」

 牛頭は強い口調でアリスに告げる。

「ごめんなさい、でも彼にも言っちゃった」

「……なら何も言うまいよ」

 呆れたように冷めた紅茶に口を付ける牛頭。

「ところで最初の攻略は順調なのかな?」

 軽い口調で尋ねる牛頭。先ほどたしなめた攻略という言葉を自ら使っているがそれを咎める者はいない。

「こんなのチュートリアルでしょう?カテゴリEなのだから」

 にべもなく答えるアリスに首を振る牛頭。

「自分の幼馴染が攻略対象でも顔色ひとつ変えないとは恐れ入る」

「逆よ。少しでも早く救われる可能性があるから安心してるの」

 その言葉を受けてじっとアリスの顔に視線を注ぐ。

「なによ」

「いや、なんだろう。可愛いところもあるじゃないか」

 牛頭の反応には答えず、ティーポットの紅茶を注ぐのだった。


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