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第23話・くのいちの不法侵入

 昨晩の城崎家での食事会。

 一緒に居たすみれとの距離を縮める目的であったが正直手ごたえは無かった。

 ろくに話せはしなかったし、掴めた情報なんて城崎とすみれが家族ぐるみの付き合いをしていたという情報だけ。

 その上で、すみれは何度も横を見て城崎を確認していた、というのは見ている。

 NR症状が起きたことで性欲……つまり恋愛も興味が無くなった世界において、そんなことがあるのかわからないけど。

 もしかしてすみれは城崎のこと好きなんじゃないか?

 それを城崎も知っている?

 そうであるなら、昨日わざわざエレベーターまで連れ立って城崎が言ってきた言葉に納得ができる。

『 彼女を治療できるなら他の人も必ず口説けますよ』

 その言葉は、すみれが自分のことを好きと知っているから出てきた、いわゆるモテ男のマウントだったんじゃないか。

 好きな人がいる相手とおせっせできるなら、誰でもNTRますよって。

 もしそうなんだとしたら、これから殴りにいこうかー。

 うん、これもいろいろな意味でセンシティブだからこれ以上は止めよう。

 ベッドから転がると、すでにエリカの姿は無い。

 今日も今日とてメイドさんしているんだろう。

 そういえばデート審査どうなったんだろう。

 城崎と会ったことでうやむやになってしまった。

 喉が渇いた、何か飲み物はっと。

 部屋から出てキッチンに向かう、リビングになんか黒いものがすわってるなー。

 冷蔵庫を開けると、飲みかけの牛乳。

 やっば、賞味期限昨日までじゃん。

 コップにすべて注ぎ、リビングのテーブルに戻る。

「あなた、リスクマネジメントしっかりしたほうが良いんじゃない?」

「え……あ、アリス!?」

 危うく牛乳を床にこぼすところだった。

 椅子に腰を下ろして、ティーカップで紅茶を飲みながら本を開いているアリスがため息を吐く。

「どうやってここに入ったの」

「ドア以外入る場所ある?」

 そういうことじゃねぇよ。

「冗談よ、でもこんなに気付くの遅いとは思わなかった」

「すまんな、鈍くて」

 普通こんなどうどうと不法侵入してると思わないじゃないか。

「違うわよ。まさか2時間も起きてこないとは思わなかったの」

 スマホで時間を確認したらすでに11時。

「いい大人がこんな遅くまで寝てるなんて……」

 ……なんか、ゴメン。

「まぁ、いいけど。さ、私がこうして訪ねてきてる幸運、感謝なさい」

 前言撤回。これ通報案件だった。

「もしもし、警察ですか」

「きゃぁぁあ!犯されるぅ!」

 即スマホを切る。

 なんてヤツだ、盗人猛々しいを通り越してるぞ!

「何するのよ」

「こっちのセリフだ」

 この世界での罪状も変わっちゃいないだろう。

 ていうか、コイツ昨日とキャラ違くないか?

「人間ですもの」

 オレの心を読んだように、ムカつくことを言ってくるアリス。

「不法侵入って犯罪ですよ」

「女の子を無理矢理連れ込んでイタズラしようとするの、今の世界でも犯罪だけど?」

 してねーし!お前が勝手に……ん?「今の世界」?

「キミは、もしかして、前の世界の常識が?」

 アリスは満足したかのようにドヤ顔をしながら頷いた。

「どう?私と話ができる幸運、理解した?」

 どうやら、ゲームで言うなら何かしらのイベント発生した、のかな?悔しいけど。

「まず、どうやってここに入ったの?」

 改めてになるけど、この居直りゴスロリには問いたださないと。

「エリカさんが入れてくれた」

 帰ってきたらエリカにお説教です。

「彼女を責めないであげて、お腹を空かせてひもじそうに泣いている私を見捨てることができなかったの……」

「実際は?」

「フロントの自動ドアの横に隠れてたの。不用心ね、玄関開けてるなんて」

 やっぱりエリカ、お折檻です。

 折檻っていっても、やらしい意味しかないからな!

「ちょっと。私の前で変態な妄想しないでくれる?」

 してねーし!描写するとレーティング引き上がることなんか考えてねーし!

「聞きたいこと無いなら帰るわよ」

「どうぞー」

 もともと呼んでないから。

 すみれを城崎からどう意識向けたらいいか考えなきゃならないし。

「なんで止めないのよー、私が居なくなってもいいの?いいのね?それで世界が滅んでも知らないんだから!私は未来から来た異次元人なのよ!」

 作り込みが甘い。

 未来なのか異次元なのかはっきりしろ。

「……ふぅ、取り乱したわね。紅茶が無ければ危なかったわ」

 いっそ、そのまま出てってくれよ。優雅に飲んでんじゃねぇ。

「実際私に聞きたいこと無いの?すみれ姉さんの好み、とかね」

 なぜそれを!?

 城崎か、城崎なのか!あのオヤジ、口が軽いったらない!

「失礼な想像してるみたいだけど。知りたいの、知りたくないの?」

「聞かせてください」

 背に腹は代えられぬ。情報の横流しでもしてもらわないと詰むのは事実だからね。

「それなら私はすみれ姉さんの情報を渡す。代わりにあなたは何をくれるの?」

 は?

「タダで手に入るものなんてないから。さ、何くれるの?」

 警察に通報しない、では取引にならないのか真剣に考えてしまう。

 コイツに渡せるもの?何かあるか?

「考えておいてくれるなら何でもいいわよ。例えば、この世界をちゃんと救ってくれる、とかね」

「城崎さんも口が軽いったら」

 いちいち匂わせなくても、ちゃんと治療は進めるっての。

「あら?パパは私に何も話してくれてないわよ。この世界のことも、NRのことも」

 その言葉に目を広げてしまった。

 この世界、はまだいい。「NR」のことは城崎には話していないはずだ。オレがNRという単語を知ったのは城崎と会ったあと。放せるわけがない。

「その言葉、どこから?」

「やっと私の重要性を理解した?でもダメ。次に鳴る電話で話が進んじゃうから」

 アリスの言葉が終わった直後、狙いすましたようにスマホが鳴った。

 表示にはエリカの名前。

「出たら?時間切れのアラームに」

 コイツのこと、嫌いだ。

「もしもし」

『ススムさん、赤羽さんが行方不明です!』

 はぁ!?昨日一緒だったろ!

「さ、カテゴリEなんだから。ちゃんと攻略してね」

 両手で頬杖を付いたアリスは、静かに微笑んでいた。

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