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第2話・高級ホテルにベランダがあるかは知らない

「ハーレムを作ってくれないか」

「何言ってんのこのオヤジ」

「新井さん、感想が口から漏れています」

 おっといけない、いけない。でも普通総理と密会して頼まれごとがハーレム作れって誰が想像できるよ?

「だよねー。訳わからないよねー」

 さっきまで眉にシワを寄せていた牛頭総理。いきなり格好を崩して軽い口調になった。

「総理、威厳」

 エリカは表情も変えることなく総理に注意している。距離感、近くないっすか?

 そんな注意を気にすることなく総理は頭の後ろに腕を組んで背もたれに身を預けた。

「この部屋に居るの、キミたちだけでしょう?外面繕っても仕方ないじゃない」

 どうやらこの軽い態度が総理の本性らしい。一応オレ初対面なんだけど忘れてない?

「砕けるのも結構ですが、新井さんに状況説明をしてもよろしいでしょうか?」

 そうだ、ハーレムの件!

「そうは言ってもそれ以上でも以下でもないからなぁ。男ならハーレムって言われて嬉しくないわけないし」

 このオヤジは自分の価値感を押し付けてくるタイプのようだ。

「総理の価値観は尊重いたしますが、いきなり常識外の命令をされて動ける人間は多くありません。新井さんも当惑しています」

 当惑っていうか、帰りたくなっているだけですけどね。

「……もしかして橘くん、この世界の状況伝えていないの?」

「私から言うのは憚られますので」

 オレを置いて2人がドック・ファイトしている。せめてわかるように話して欲しいのだが。

「えっと新井くん、キミはこれからハーレムを作ってもらう、ここまではOK?」

 総理は明らかに面倒臭そうに説明を始めた。OKなわけないだろうが。

「総理。やはり私から説明します」

 見かねたエリカが眉をひそめながらオレに向き合った。助かる。あそこまで露骨な態度を取られたら内容よりも苛立ちが先に入ってくるわ。

「まずこの世界、遠からず人類は滅亡します。ここまでは良いですか?」

 良い訳ないだろ。

「えっと、なにかのドッキリですか?」

 一般人のオレがいきなり総理と面会していて、ハーレム作れ?そんなこと実際に頼まれているというよりも反応を見せ物にする企画のほうがよっぽどリアルだろ。

「そう思うよねー。でもね、これは本当」

「なぜそのような結果になっているのか、ご説明します」

 エリカはタブレットを取り出した。そこに映っていたのは円グラフ。

 興味がある2%・どちらとも言えない24%・興味がない74%

 なんなんだ、この数字。

「こちらは15歳から65歳を対象にした性行為に対しての嗜好調査の結果です」

 はい?そんな調査されたことないんだけど?

「新井くん、顔に出やすいって言われない?これから大変だねぇ」

 総理は面白そうにニヤついている。このオヤジ、ここで殴っても罰せられないとかないよね?

「不審に思うのは仕方ありません。順を追って説明いたします」

 エリカはタブレットをスワイプして、次の数字を見せた。

 10,547……?

「こちらは昨年、異世界に転生した人数です」

「なんのギャグです?」

 さすがに口から出てしまった。だって異世界転生なんてWEB小説の世界だろ。しかも今は徐々に飽きられてるし。

 しかし2人の表情は変わらない。

「事実だよ。この国だけで1万人以上の人が異世界に転生している」

 先ほどまでのふざけた様子からにわかに信じられない。まだドッキリを疑う。

「信じがたい情報をもうひとつ。新井ススムさん、あなたも異世界に転生する予定でした。しかししなかった。そのせいで今人類が滅びかかっているのです」

 コレ絶対ドッキリじゃーん。なんでオレが異世界転生しなかったことで人類滅ぶんだよー。

「新井くん、実はね、異世界転生は30年以上前から研究されていたんだよ」

 総理の説明は続いた。

 曰く、異世界に転生する人のことを政府は認識している。現実世界と異世界は比較的良好な距離感である。政府は転生してしまった人間の追跡調査まで可能。それ以外にも細々とした説明があったが概ねこんなところだろう。

「つまり、オレを轢いたトラック運転手もどんな世界に行ったかわかる、と」

「気になりますか?」

 エリカはタブレットをスワイプして、淡々とした声で読み上げ始める。

「北口健人、45歳。20〷年3月25日にトラックを運転中に新井ススムと衝突することで異世界に旅立つ。転移先は中世ヨーロッパに似た世界であり、大貴族のひとり息子として生を受ける。争いも無く穏やかな世界で、領土の主を引き継ぎ3人の妻、8人の子ども、そして45人の孫に囲まれながら穏やかな最期を迎えます」

 なんだ、その典型的なSSR転生は。

「ちなみにオレが転生してたら?」

 エリカは再びタブレットを撫でる。

「新井ススム。26歳。20〷年3月25日トラックに轢かれて異世界転生予定。転生後はゴブリン種に転生の後、住処が人間族の襲撃により家族は殲滅、唯一生き残るものの人間に洗脳されて同族潰しの人生を……」

「だー!」

 思わず叫び声をあげてしまう。なんで轢かれたオレがそんな悲惨な転生になってんだよ!

「なんで被害者のオレがそんな悲惨で、轢いたおっさんが幸せな転生してんだよ!不公平すぎるだろ!」

 当然の叫びと思っているのはオレだけのようで、ふたりは冷ややかな目をオレに向けている。

「新井くんの気持ちはわからなくはない。私だってそのような転生だったら嫌だろう」

 さすが総理、話がわかる。

「ですが、新井さんが転生しなかったせいで人類が滅びのステージに入ってしまったから頭を抱えているのです」

 あんだって、この秘書。

「新井さん、ここまで来る最中、外を見たかい?」

「い、いえ……」

 ここに来るまで密室に閉じ込められていたのは総理の指示ではなかったのか。

「結構。そうしたら窓から今の世界を眺めていると良い」

 総理は、部屋の奥にあるベランダに繋がる窓を指さした。エリカは頷く。これは見ないと話を進めるつもりはないんだろうな。

 諦めてベランダに出て街を見下ろす。15階という高さからだと視点がなかなか合わない。……。え?

「あの、ここって日本ですよね?」

「これで、今の世の中の異常性、わかって貰えたかな?」

 総理の柔らかな微笑みがムカつく。なんでそんなしてやったりみたいな顔してやがるんだ。

 異常性?わかるに決まってるだろ。

 なんで裸の人たちが普通にあるいているんだよ。

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