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第14話・ターゲット視認と辱め

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 オレとエリカがメニューを見ているときにサイバーなコスチュームを着たメイドが注文を取りに来る。

 正直食べたいものは無いけど、注文もせずに居座るわけにもいかない。

「そうしたら、このオムライスセットを」

「私もそれで」

「お飲み物、いかがなさいますか?」

 セットの飲み物を聞かれるとコーヒーを頼んだ。

 エリカも倣って同じものを頼む。

 正直、飯を食べに来たわけでは無いのだ。

 値段も見ずに頼んだが、1,800円はボリ過ぎだと思う。口には出さないけど。

「ところで、この症状のことって他の人に話しちゃダメなんだっけ?」

 正直、関係性さえ組めるのであれば、なぜそんなことをしているのか話したほうが間違いなく治療ができると思うんだが。

 オレの質問にエリカは顔色を曇らせた。

「以前話した通り、基本的にはお伝えしないほうが良いと思います」

 あなたの常識は間違っています、なのでセックスしましょう……なんて言われたら警察に通報されること請け合い、なんならその場で殴られても文句は言えない。

 ただ、それは「この症状を伝えてはいけない」という決まりはないということだ。

「そんな確認をしても意味ありますか?」

 エリカの目は細くなり、明らかに怪しんでいる。

 大丈夫だよ、そんなホイホイ言わないから。

「お待たせいたしました!オムライスセットおふたつです!」

 そんなことを話していると注文したオムライスが届く。

 お盆の上にはオムライスとサラダ、コーヒーがテーブルに置かれていく。

 これで1,800円……。

「ありがとうございます。では……」

「お待ちください、お嬢様!」

 エリカがスプーンを取ってオムライスを食べようとすると、メイドがすごい勢いで止めに入る。

「まだ完成してません、仕上げがあります!」

「そ、そうなんですか?」

 露骨にきょどっているエリカ。

 あー、こういう場所ってあるよねー。

「はい、まだ美味しくなる魔法がかかっておりません!それではお嬢様、ご一緒に!」

「え?え??」

 メイドさんはケチャップ片手に構え、エリカを促す。

「サイコロジカル、萌え萌えきゅーん!」

 精神的サイコなのか論理的ロジカルなのかはっきりしてほしいものである。

「も、もう一度お願いします……」

 エリカ、わざわざ乗らなくてもいいのに。

「仕方ありませんねぇ。サイコロジカル、萌え萌えきゅーん!」

 このメイドさん、なんかいい性格している。

「さ、さいころじかる、もえもえきゅーん……」

 顔を真っ赤にしながら美味しくなる魔法をオムライスにかけるエリカ。

 メイドはオムライスにケチャップで「エリカおじょうさま」と文字を書いていく。

 こういうのを見るといつも思うんだけど、ケチャップで文字書くと量が多すぎない?

「次はご主人様の番で……」

「オレは大丈夫です」

 さらりと断ったオレを見る、エリカの絶望に満ちた目からしか取れない栄養ってあるよね。


「辱められました。もう誰も信じません」

 ケチャップ過多なオムライスをスプーンでつんつんしながら弄んでいる。

 食べ物で遊ぶんじゃありません、とても言えませんけど。

「もう二度と、あのような言葉は発しません……」

 エリカー、そういうのってフラグっていうのを今後学ぼうねー。

 そんな折、エレベーターが降りてきて、中から写真で見た顔がこれまたサイバーなメイド服で出てきた。

「おはようございます、よろしくお願いしますー」

 受付のメイドに話しかけたその人こそ、今回のターゲット「すみれ」だ。

 天使の輪が出るほど手入れのされた黒髪ボブヘア。

 顔立ちは幼く、化粧をしていなければ未成年と思ってしまうだろう。

 身長は150あるかないか、そのことも幼さに拍車をかける。

 スタイルは小柄ながら出るところは出ている、そのことが少女では無いことを主張して……。

 冷気を感じて視線を戻す。

 エリカがこちらを睨ん……見つめていたのだ。

「何?」

「別に」

 なんか怖いなぁ……。

 来店前にこの店のホームページを調べたところここでの名前も本名である「すみれ」と名乗っているらしい。

 普通名前変えると思うのだが、それは本人の勝手だろう。

「新井さん、彼女です」

「うん、そうだね」

 出勤してきたとはいえ、じゃあお話を、とはいかない。

 面識のない人間がコンカフェで女性と仲良くなろうとしたときに一番やってはいけないことは「客」になることだとどこかで聞いたことがある。

 ファンとアイドルは結婚できないように、最初に「客」認識されてしまうとどれだけ好感度を上げても太客になってしまうだけ……泣いてなんかないやい。

「新井さん、どうしましょう。このまま眺めるだけですか?」

「うん、今日はね。それよりも早く食べよう」

「私はもう食べ終わってます」

 急ぐのはオレか。

 残ったオムライスを食べ切ると、会計のために伝票を持って受付に向かう。

「もうお出かけですか?」

「はい、おいくらですか?」

 伝票を渡すと、レジに打ち込む。

「おふたりで5,600円です」

「領収書いただけますか?」

 コンカフェで領収書切るなよ。


 会計の後、雑居ビルの前に立つ。

「こんな高いオムライス初めてです」

 エリカの目は誉めるものではなく、明らかに誹る目だった。

 むしろ自分ひとりがあのセリフを言わされたことに対しての恨みかも知れないが。

「どうするんです?ただターゲットを見てそれで終わりですか?」

 オレがすみれを凝視していた時と同じ目線でジトっと睨んでくる。

 これはランチ料金が高かったことは関係ないだろう。

「もちろん違うよ。エレベーター見てた?彼女が出勤してくるとき、エレベーターは降りてきてたんだよ」

「……それが、何か?」

 エレベーターが降りて出勤してきたってことは、事務所はこのビル、しかも上の階にあるということ。

 このビルは5階建て、つまり事務所は5階にあるということ。

「……なるほど。でもそれが何か?ロッカールームに行ったとしても意味が無いでしょう?」

「無人なら、ね。もし店の責任者が居るんだとしたら」

 そう、そもそも客認識されないためにはプライベートで出会うしかない。

 しかし、出勤前や退勤後につけたりしたらそれこそ警察のご厄介になってしまう。

 だったら、責任者に話を通して紹介してもらったほうがまだ可能性は高いだろう。

「だからさっき、説明の許可を」

「まぁ、その人が信じるかはわからないけどね」

 もっと言えば、責任者がいるかもわからない。

 だが10日という短い期間で治療するならこういう裏技で攻めないと。

「さて、行きますか」

 今しがた出てきたエレベーターに乗り込むと、5階のボタンを押すのだった。

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