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第12話・馴染みの街へ

 電車を降りると、そこは見慣れた街並みだった。

 昨晩、遅くまで……というか明け方まで悩みに悩んだ挙句選んだターゲットがいる街に降り立った。

 運転手の寺井さんは今回お休み、なぜなら車より電車の方が楽だから。そしてこの街でリムジンは目立ちすぎるから。

「……ここが、秋葉原。初めて来ました」

 エリカは駅に降り立った瞬間、呆然と立ち尽くしていた。

 オレにとっては見慣れた街だが、エリカにとっては異境なんだろうな。

 しかし見慣れた街、といったのはここがアキバだからじゃない。

 それは街を歩く人たちが皆服を着ていたからだ。

「ここでは病気の感染が進んでないの?」

 人類は今性欲が無くなるという変な症状が蔓延している。

 それはオレが異世界転生し損ねたっていう訳のわからない理由で起きている現象なのだが、その大きくわかりやすい症状のひとつに羞恥心が無くなり、服を着ないということがある。

 しかし、この街を歩く人々は目渡す限り服を来ている。

「……良かった、オタクの裸なんて見たくなかった」

 というか、需要もないだろ。

「さすがに地域で感染差がある報告は受けていません。もしそうならこの土地由来の治療薬が完成しているはずです」

「そりゃそうですよね」

 オレがわざわざひとりひとり口説いて治療に回る必要なんてない。

「やっぱり、推すことは性欲じゃないってことか」

「は?」

 エリカはぽつりとつぶやいたオレを信じられないものを見るような目を向けてきた。

 それは、人に向けていい目じゃないぞ。

「何を、おっしゃって、いるのでしょう?」

「ほら、尊敬している人に会う時って不愉快にさせたくないじゃん?」

 風呂に入らない阿呆がいるのは知っているがそれは一部と……一部だと信じたい。

「そう考えると、霞が関で服を来ている方が多いのは社会的地位と認識していましたが……もしかして、推しがいるから?」

 エリカさん、暴走せず戻ってきて下さい。

 しかし、人類から性欲が消えてもこの街の雰囲気は変わっていない。

 相変わらずホビーショップもあるし特定税率販売店もある。

 そして、コンカフェも。

「実際来てみるまで信じられなかった。この前見た街はほとんど飲み屋とかなかったのに」

 目覚めた時に言われた「人間の性欲はすべてに繋がる」という総理の言葉、そのせいでいろいろ悪影響が出ているという話だったが、この街は例外なんだろうか。

「……その話を受けると確かにこの街は性欲ではない何かで動いているのかも知れませんね」

 エリカは諦めたような目でこちらを見ている気がした。

 気付かないふりをしてオレは進むことにした。

「ここか」

 古びた雑居ビルの前に立つ。うん、住所もビルの名前も間違いない。

「ここにターゲットが居るんですね」

「うん、そう書いてあります」

 お互いに頷き合うとエレベーターに乗って4階のボタンを押した。

 ごうんごうんと揺れながら登っていく。

 そしてチンという安い音がするとゆっくりと扉が開いていく。

「おかえりなさいませ、サイバーメイドラボへ。ご主人様、お嬢様のご帰宅は初めてでしょうか」

 一行で矛盾しないで欲しいものである。

 出迎えてくれた女の子は確かにメイド服であった。

 メイド服であるのだがモノクルを付けて、肘当てを付けて。

 そんでもって胸の部分は丸い円盤状の胸当てをふたつ付けているなんとも奇妙な出で立ちをしていた。

「そ、そうです……」

 どもりながらどうにか言葉を返すエリカ。

「そうでしたか。今おふたりが乗っていたのはエレベーター型時空転移装置、ここは現代ではなく近未来のサイバーな世界になっております。認証を行いますのでこちらにどうぞ」

 エリカが軋んだブリキのようにカクつきながらこちらを見る。

(帰りましょう、今すぐに!)

 そんな風に目で訴えているが、あいにくオレは言葉に出してもらわないと理解できない性質でして。

「いかがなさいましたー?」

「いえ、今行きます」

 ここまで来たんだ、覚悟を決めるしかないだろう。

「それでは生体登録を行います。まず呼んで欲しい名前は?」

 お姉さんは名刺サイズの紙を2枚取り出す。

「ススムで」

(生体登録なのにアナログなんですか?)

(そういう設定です。なんでもいいので)

「え、エリカです……」

「ススムさまと、エリカさまですねー。誕生月を教えてくださーい」

「1月です」

「く、9月です」

「ありがとうございますー。誕生月にご帰宅されると特別チェキが撮れますのでぜひご帰宅くださいー」

 エリカは「帰宅?来店じゃなく?え?」と小さく混乱している。

 そうか、彼女にはこの時代が早すぎたのかも知れない。

「はい、こちらが帰宅証明になります。1回の帰宅に付き1つスタンプを押させてもらいます。10個全部溜まるとノベルティガチャが引けますのでー。それではお席にご案内しまーす」

 お姉さんに連れられて店内に入って行く。

 中には8つほどテーブルがあり、半数は埋まっていた。

「こちらにどうぞー。お席は60分チャージ制となってます。お時間の管理はご自身でお願いします」

「ありがとうございます。……今日ってすみれさん出勤します?」

「はい、ですがメンテナンス明けが15時になりますので、しばらくお待ちいただければ」

 今の時間を確認すると14時半。

 まぁ、会うことはできるか。

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください」

 そういうとお姉さんはエレベーター前に戻っていった。

「新井さん、帰りましょう。ここは日本ではありません。何ひとつ理解できませんでした」

 ですよね。オレもこの文かはほとんど理解できん。

 やはり自分のウチでフィギュアを愛でている方が……じゃなくて。

「そうは言っても、ここでしか接点ないんだから」

 そう、先ほど尋ねた「すみれさん」

 彼女が今回のターゲット。

 難易度Eランク。攻略は一番簡単とされるカテゴリの人間が、コンカフェで働いているなら会うことは簡単だ。

 問題はあと10日で治療にまで発展できるかというハードル。

 一般的にコンカフェで働いている人間とプライベートの、たとえ友人関係ですら取り持つのは難しいとされる。

 何をもってEランクになっているのかわかったものではないが、他の人間は会社員や学生と会う難易度が高すぎた。

 時間があるならそちらでも良かったのだろうが今回は速攻を決めないといけない。

 そのため、確実に会うことのできる人間を選んだわけだ。

「でも会えたとして、どうやって接近するおつもりで?」

 それは、オレじゃなく作者に聞いてくれ。



 ターゲットファイル・1

 「すみれ」

 カテゴリランクE

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