第9話 宅飲みしました
部屋に入ると、布団を敷く為に模様替えしていたこともあり、さほど窮屈には感じなかった。亮は机の上に買って来た酒とつまみを出しているものの、何か言いたそうにしているのが分かる。
無理もない。サプライズで遊びにきたら友人が知らない美人な女の子を連れいるのだ。俺でも根掘り葉掘り聞いてみたくはなるだろう。
そして、彼の気まずいという気持ちも分かる。
彼だけじゃない、アンリも俺がこれまでの事を話始めるのを待っているのだろう。
「「それでさ……」」
亮も我慢しきれなかったのか、俺たちは同時に話しかけてしまう。彼は苦笑いを浮かべ先にどうぞと手を出した。
「彼女は気づいたら家に居たんだ……」
「いやいや、どんな言い訳だよ。せめてもうちょっとマシな言い訳しろよ、彼女にも失礼だろ?」
嘘は言ってない。けれども、納得は出来ないだろう。亮はきっとややこしい事なのだと悟ったのか軽くため息をついた。
「まあ、いいや。とりあえずは一緒に住んでるわけだろ? 良かったじゃねーか」
「亮には整理がついたら言おうと思ってたんだ。まさかこんなに早く来るとは思ってなくて」
「心が俺に嘘をつくとは思えないしな。事情があるんだろ?」
亮に隠すメリットはない。それを彼も分かってくれているのだろう。すると、それまで様子を見ていたアンリは口を開いた。
「あの……よろしいでしょうか?」
「はい。なんかすげーオーラだな……」
「まだ、お名前を伺っていないのですが」
「えっ? そこ? ごめん、俺は立花亮……亮でいいけど、心のバイト先の友達みたいな?」
「ご友人なのですね」
亮はアンリの雰囲気に押されたのか、また耳元で囁く。
「誘拐とかじゃねぇだろうな? どう考えてもいい所の子だろ?」
「だから、公女だって言っただろ?」
「公女って、ガチで?」
「ああ、ガチで!」
「……なんで?」
珍しく動揺しているのが分かる。だが六畳間の狭い部屋でアンリが聞こえていない訳もなく、彼女は覗き込む様にして言った。
「別の世界からきたのです! それで、路頭に迷っている所を心に助けてもらいました」
「ちょっ、近い! それより、クッソ美人じゃねーか。ドキッとするわ!」
「ふふふ、面白い方ですね?」
「やばっ……恋するかも?」
「亮、やめとけって」
出会った時から距離を詰めるのが上手い奴だった。いつも自然体の彼は、相手が猫だろうと公爵令嬢だったとしても、それは変わらなかった。
「あー、なるほど。処刑ってアンリちゃん死んだのかよ?」
「いえ、そこは魔法で」
「マジかぁ……俺も魔法にかけられてるなぁ」
「いえ、亮さんには魔法はかけていませんよ?」
「いや、掛けられてる。恋の魔法?」
「それは精神系の魔法でしょうか?」
「ちょっと亮。アンリがマジになってるだろ!」
やはりコミュニケーション能力が高いと、世界を超えても噛み合うのだろうか?
「それで、亮さんはなぜ今日来られたのですか?」
「それはアンリちゃんに会うため……というのは置いておいて、物件が決まったんだよ。それを心に祝ってもらおうとね!」
「物件?」
「そう、分かる様にいうならお店をだす目星が付いたって感じかな」
「素晴らしいです。亮さんは店主になられるのですね!」
「そういう事!」
「おめでとうございます!」
何故か彼はアンリと盛り上がっており、本来俺に言おうとしていた事をほとんど話してしまったのだと思う。だが、亮はやっぱり亮だった。
「アンリちゃんは心の事、どこまで知ってる?」
「どこまでとは? 一緒にストリートライブをおこないましたので、歌がとても上手い事は知りましたが……」
「一緒にライブをしたのか?」
「はい、沢山の人が胸を打たれていたのだと感じています」
彼は一瞬驚いた表情で、俺に視線を送る。正直アンリには言わなくていい事なのだと思っていたのだけど、オープンスタンスの亮にとっては言っておくべき事なのだろう。
「お前、彼女の事当分面倒見る気なんだろ?」
「まぁ……」
「なら、言っておいた方がいいんじゃないか?」
俺の為、というよりは彼女の為なのだと亮は言っているのだと思った。何も考えていない様で、鋭い問いを投げかけて来る。彼は目的や彼自身の正義の為に着実にコマを進め、王手を取るタイプなのはとっくの昔に分かっていた。
「別に秘密にしているわけじゃない」
「でも、言ってはいないのだろ?」
「それは……そうだけど」
ここまで来ると、亮の思うツボだ。たとえどんなに誤魔化したとしても彼はそれを許さないだろう。
「なんなら俺が」
「いや、自分から言うよ。まだ会って間もないのだけど、彼女の事は信じられないわけじゃない」
「そうか……」
アンリは珍しく、緊張した様子で俺の方を眺めていた。よくよく考えてみれば、彼女は最初っから一番言いにくいであろう事を打ち明けてくれたのだと今更ながらに考えた。
「まぁ、あまり気にしないで欲しいのだけど」
「わかりました」
静寂の中、開けたビールを口に含みたい気分になってはいたものの俺は缶を机に戻した。
「昔俺はそれなりに人気も知名度もあったアイドルだった。だけど、一時的な正義感から俺は全てを奪われたんだ」
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