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第19話 重なりました

「見た事ありましたか?」


 平然を装う様に、俺はそう言って目を逸らす。バレたからと言って、今となってはどうという事はない。


「もしかして……あの……」


 前田さんはそこまで言うと口を(つぐ)む。その反応の時点で俺はバレているのだと確信した。


「それじゃ俺、帰りますね」


 そう言ってギターケースに仕舞おうとすると、彼は何か考えている様にじっとそれを眺めている。その間が苦痛に感じて早く出てしまいたいと思った。


「俺はさ……なんて言うか、業界の事とかはよくわかんねぇんだけど、きっと事情があるんだろうし」

「気を使わなくてもいいですよ。こうして、俺の曲をレコーディングしてくれただけでも感謝してます」


 世間から俺がどう思われているのかなんて、とっくの昔に分かっていた。


「そうじゃなくて。俺は目の前で見た物しか信じない様にしているから」

「それなら、今目の前で歌っていたのが俺です」

「お前はそれでいいのか……?」


 前田さんがなぜそう言ったのかは分からなかった。距離を詰めたかったのか、弁解して欲しかったのかどちらにしろ俺はそれ以上の事は話さないつもりだった。


 それから一週間が経つと、何事も無かった様に完成された音源が届く。メール一つで送れるとは思えない程に完成された音源だった。


「曲が、届いたのですか?」

「うん、結構いい出来だと思う。これで、動画を作って頑張るよ」

「心なら大丈夫です!」


 アンリに曲を聴かせると、面白いくらいにいい反応を見せてくれた。それが、曲に感動したのかレコーディングのテクノロジーに感動したのかは分からないがなんとなく自信には(つな)がった。


「活動も順調ですね!」

「それなりに順調だけど急にどうしたんだよ」

「私は以前から少し気になっていた事がありまして……一つ伺ってもよろしいでしょうか?」


 彼女がふとそう言うと、予想が出来ない言葉に俺は少し戸惑う。最近は俺も彼女も仕事や活動が忙しくなり、日常的な事くらいしか話せてはいなかった。そんな彼女にはもしかしたら何か悩みでもあったのだろうかと感潜(かんくぐ)ってしまう。


「もしも、もしもの話ですよ?」

「あ、ああ」

菅野(すがの)さんに会えるとしたら会いたいですか?」

「えっ、なんでそんな事?」


 以前から彼女の境遇と少し似ている部分があると思っている。それは、彼女自身ではなく王子の心境はアイドルの立場上、離れなくてはならない俺に近かったのではないかと感じていた。


「心さんはやむおえず離れたのですよね?」

「それはそうだけど。出来る事ならそのまま仲良く過ごせれば良かったとは思ってはいるよ」

「その時は? と言う意味でしょうか?」

「アンリ、何が言いたいんだよ」


 するとアンリは仕事の鞄の中から一つのファイルを取り出す。珍しく強張った表情で見つめて来る彼女にはなんとも言えない迫力みたいなものがある。


「ここに菅野さんの資料があります。もし会いたいと思われているのなら会ってみませんか?」

「資料って、なんで? えっ、どういう事?」


 俺は何もかもわからなくなっていた。なぜそんな資料があるのかも、ましてやそれを何故アンリが持っているのかという事も。


「すみません。ずっと秘密にしていたのですが亮さんに聞いたのです」

「聞いたってまひろの事をか?」

「それも有るのですが、まひろさんの探し方です」


 アンリが言うには、元の世界には諜報員(ちょうほういん)みたいな人がいて調べる方法があった。しかし現代ではその方法は分からなかったものの、同じ様な物がある筈だと亮に聞いていたのだった。


「なんでまた。亮も何も言ってなかったのに」

「亮さんは行動した事まではしりません。彼の事ですから気づいてはいるのでしょうけど」

「探偵でも雇ったって事なのか?」

「いえ、その探偵の助手が今のお仕事なのです」


 調査の仕事……てっきり俺は街角アンケートみたいな物だと勘違いしていた。アンリの仕事は身辺や人探しの手掛かりなどを調査する探偵助手の仕事だったのだ。


「それでまひろを探していたのかよ!」

「仕事の合間に探させて頂きました。私の見当が間違いで無ければ、心はまだ……」

「ちょっと考えさせて貰っていいか?」

「はい……勝手な事をしてすみません」


 確かに俺はまひろの事で色々と引っかかっている事は沢山ある。今どうしているのかと気になっていない訳では無いのだけど、会うなんて少しも考えていなかった。


「一つ聞いていいか?」

「……はい」


 怒られると思ったのか、少し泣きそうな顔をしている。別にアンリは善意(ぜんい)の気持ちで行動してくれていたわけで、怒る様な事では無い。


「アンリは王子に会いたいのか?」

「私は、彼に伝える事が沢山ありますので」

「だから俺もそうじゃ無いかと探してくれたという事でいいんだよな?」


 アンリはコクリと頷く。いまさらまひろに俺から伝える事なんて謝罪くらいしか無い。けれども彼女が伝えたい事があるのならば、俺はそれを受け止めなければならないのだと思う。


「わかった、会うよ」

「本当ですか?」

「彼女が会ってもいいと言ったらではあるけど」

「きっと会いたいと思っているはずです!」

「それならばいいのだけど……」

お読みいただきありがとうございます!

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次回もまたお会い出来る事を楽しみにしています(*ꆤ.̫ꆤ*)

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