第1話 朝チュンしちゃいました?
久しぶりの連載です!
良ければ最後までよろしくお願いします。
この世界は見えない何かに支配されている。それは権力であったり、陰謀であったりするのだろう。そんな事はさておき、問題はたった六畳しかない俺の部屋で起こっているという事だ。
低いベッドから落ちそうになり目を覚ました。明らかに普段とは違い、布団からはみ出た足が冷えている。昨日飲み過ぎたからだろうか、嫌な頭痛が耳の上の当たりで悪さをしているのが分かる。喉が乾いている事に気づき起きあがろうとすると、背後に温もりと気配を感じた。
「えっ!?」
慌てて振り返ると、人が寝ているのが見え目が冴えた。まるで銀髪のお姫様の様な女の子が、ネグリジェの様なものを一枚纏い横になっているのだ。
いやいや、本来お姫様というものは空から落ちて来たり、魔王を倒した時のご褒美として現れたりする物。まぁ、例外として観客はみんなお姫様という事もあるのだけど……決してこんなふうに二日酔いの朝、隣で寝ているなんて状況はあり得ない。ましてやこの格好……着ていた服は一体何処で、どのタイミング脱いだんだ?
ベッドから出ると、その答えはすぐに見つかった。机の隣りに脱ぎ捨てられたドレスの様なものがあり、その上にコットン地の紐パンツが無作為に乗っているのが見えた。
まさか……やってしまったのか?
前日の状況が推理出来るほど言い逃れが出来ない物的証拠。これは俗に言う『朝チュン』というものではないだろうか……いやまて、まだ雀は鳴いていない。そもそもそんな事があったのなら例えどれだけ飲んでいようと覚えていないはずが無い。
落ち着け俺。まだ決まったわけじゃ無い。
そもそも彼女は何故家にいる?
鳴り止まない頭痛を抑え記憶をたどる。昨日飲みに行った後、飲み足りない俺はコンビニでビールを買った。そこまで一人だったのは間違いなく覚えている。直後に500mlを一本飲み干しゴミ箱に缶を捨てた……。
そういえばその時、ぼんやりとコンビニを眺めているとやけにクオリティの高いコスプレイヤーがいた。それから確か話しかけられたのか、話しかけたのか……。
間違い無い。脱ぎ捨てられたドレスからしてもあの時の女の子だ。とはいえ何故家にまで連れて来ることになったのかまでは思い出せなかった。
ここまで来たら俺の良心を信じるしかないのか。
念の為、ハニートラップではない事を確かめておかなくてはならない。フリーターの俺に仕掛ける理由は無いにしても念の為だ。しかし、鞄の様なものは見当たらず脱ぎ捨てられた服にもスマートフォンらしき物がある様子はなかった。
今時スマホを持っていない人がいるのか?
もしかしたら、無くしたり盗られたりしたのではないだろうか。だから俺は……そうか! 帰る事が出来なくなった彼女を家にまで連れて来たんだ。多分そうだ、そうに違いない!
彼女を連れて来た理由を推理しながら、もう一度布団をめくる事にする。現れた彼女の顔はとても小さく日本人離れというよりは日本人では無い。ヘアカラーをした様な銀色の髪も、まるで地毛であるかの様にムラも無く肌馴染みもいい。
それにしても無防備すぎやしないか?
その割に寝相はよく気品が感じられる、さらには小道具にみえた高そうなネックレスもまるで本物にしか見えない。
「んん……っ?」
その瞬間、彼女の大きく緑色の瞳が開いたのが分かった。
「いや、違うんだ……」
「どうかされましたか?」
丁寧な言葉遣いにこの反応、彼女は俺の事を認識している。真っ直ぐに見つめ、オーラのある姿に嘘はつけないと悟ると記憶がない事を正直に話すことにした。
「す、すみません……昨日の事覚えてなくて」
「やはりそうなのですね……」
意外にも怒っているわけではなく、まるでイタズラをした子供にでも向ける様な余裕のある柔らかい表情で笑顔をみせ、ゆっくりと起き上がりベッドの上に座った。
「お忘れの様ですので、自己紹介させていただきますね。私はアンリエッタ・ヴァン・ランスロット。ランスロット公爵家の第一公女です」
え、もしかして俺、公爵令嬢を拾いました?
しかし今は、そんな事を考えている余裕はない。
「あ、えっと俺は荒良木心。元アイド……まぁ、それはいいか。ただのフリーターです」
「アララギ様?」
「えっと、心が名前。同じ風に言うなら荒良木家の長男の心って感じなのかな?」
「そうなのですね……失礼ですが、その家名はどちらの国の貴族でしょうか?」
「日本の一般市民だよ。だから心って呼んでくれればいいのだけど……」
正直、ここまでのオーラが無ければ頭のおかかしな女の子だ。しかし、慣れている様な対応と一つ一つの所作が相まって凄まじい説得力を感じる。
「その、つまりは公女様?」
「いえ、私はもう断頭台に送られた身なのでお気遣いなく。気軽にアンリエッタとお呼び下さい」
いやいや、今さりげなく凄い事言わなかったか?
「えっと、アンリエッタさん……」
「はい!」
「あの……凄く言いづらいんですけど」
「でしたらアンリと」
「そうじゃなくて、その……」
「でしたら、お気になさらず申して下さい!」
世の中には言っていい事と言ってはいけない事、それと言わなくては後々問題になりそうな事がある。
彼女の様子を見るに気がついていないだけの後者なのだろうと思った俺は覚悟を決めて言う事にした。
「あの……その服、透けているんですけど、あんまり気にされない文化とかですか?」
その瞬間の彼女の顔がピンク色を帯び口を一の字に結び、断頭台に送られた時を超えたのではないかと思えるほどの表情を見せた。
つまりは、俺はせっかく打ち解け始めたという最悪のタイミングで公爵令嬢を名乗る女性の不埒な格好を指摘してしまったのだった。
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