草むらの正体
「だっ、誰だお前はーーっ!?」
あまりの衝撃に人目も憚らず叫んでしまう。
「あっソーセージが消えた…」
空中宙返り一転、物凄い身のこなしで投げたソーセージを咥えたかと思えばそのまま草むらへと潜る猫。そしてあっけに取られる僕、そして誰か。
「んもーうっ、そんな大きい声出すからネコさん逃げちゃったじゃにゃいの〜」
「ご、ごめん……って、」
なんで僕が謝らないといけないんだ?
「それよりお前、なんでこんなとこに? 」
「にゃ? お前とは失礼な。私にはちゃーんとマヤっていう名前があるの」
「はいはいマヤね。してマヤはどうしてこんな所に」
「日向ぼっこニャ」
「ひなた、ぼっこ……?」
確かにこのスポットは割かし陽が差し込むし、物陰よりは暖かいとはいえ……こんなとこで日向ぼっこ?
「ネコかよ」
「マヤはネコだニャ」
つい出た本音にサラリと返される。
「いやいやいや、どう見たってニンゲ」
「マヤはネコニャ。……絶対ネコなんだってば!!」
「うわっ」
ずいっと身体ごと身を乗り出してきて思わず後ずさる。僕の胸程の所でオレンジベージュの耳、じゃなかったお団子が揺れて、一瞬トラネコにのしかかられているような錯覚を覚える。
「は、離せよっ」
手を振って距離を置くと、足元に転がした弁当箱をいそいそと回収して歩き出す。
「あっ、どこ行くのソーセージのお姉ちゃん」
「なんだその呼び方は? きみみたいのが居て騒がしいから他所で食べるんだよ」
「ついてくにゃー」
すたすた、とてとて。すっすっすっ、ととととっ、たったったっ、とたたたた。足音に足音を重ねるように僕の後をネコ娘が追いかけてくる。
「着いてくんなよ、鬱陶しい」
「だって面白そうなんだもーん」
……やれやれ、面倒なものを拾っちゃったな。