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わたしのダンデライオン

作者: 椿乃もも

「メアリー、なんど言ったらわかるの。いいかげんにしなさい」

 

 またママにおこられちゃった。

いつもおこられた時は犬のジュリーがなぐさめにきてくれて、

わたしもジュリーにぎゅうっとしがみついて、

ママがやさしいママにもどるまで、じっとまっているの。

でもきょうのジュリーは、わたしのことなんか忘れているみたいに

そっぽをむいている。


わたしなんてジャマなんだ。

いなくなっちゃえばいいんだ。


 気がついたらドアをあけて、家をとびだしていた。

いつもママといっしょにジュリーをおさんぽをさせている道だから、

へいきよへいき。

なみだで前が見えないけれど、こわくなかった。


 みどりの草木たちがザワザワからだをゆらして、おうえんしてくれたから。

風もわたしのせなかをおすようにビュンビュンうなるから。

わたしもドンドンすすんでいく。


 ドンドンドンドン

 ザワザワザワザワ

 ドンドンドンドン

 ビュンビュンビュンビュン


「あっ! 」

木のねっこに、足をひっかけちゃった。


 ゴロンとでんぐり返しをして、ドスンと草むらにころがった。

  

 もうおきる力もなくなっちゃったみたい。

ポタポタながれるなみだの水たまりにすいこまれて、

このままいなくなればいいとおもった。

そしたらママもジュリーもしんぱいしてくれるのかしら。


 すると、とつぜんあたりが明るく、

オレンジ色に光って、目がくらんだ。

  

 しばらくして、やっとすこしずつ目をあけると、

そこにはタキシードをきたライオンさんが立っていた。

せなかがピーンとのびたライオンさんは、じっとこちらを見ている。

目をまあるくしてかたまっているわたしに手をさしだした。


「だいじょうぶですか」


 ライオンさんのやさしいほほえみに、おもわずその手をつかんだ。

 

 なんだろう、なつかしい。


 そのぬくもりにひたっていると、

ライオンさんがわたしの手をひいて、テーブルまでつれて行ってくれた。


 ナプキンをかけて、ティーカップにはラズベリーのかおりの紅茶を

たっぷりそそいでくれたの。

見たことのないおかしもたくさん。


「あなたのおはなしを聞かせてくれませんか」


 ライオンさんがひだまりのような目でわたしを見つめている。


 ママにしかられて、お家をとびだしてきてしまったこと。

大すきな犬のジュリーのこと。

大きなフネにのって、とおいところでおしごとをしているパパのこと。

 

 たくさんたくさんおはなしをして、紅茶のおかわりもしちゃった。


 それからママがいつもねる前によんでくれる、カラフルなゾウのことも。


 ママのことをおもいだして、なみだがこぼれた。


「おかあさまに会いたいのですね」


 ライオンさんは、そっとわたしをだきしめた。


「おかあさまも同じようにあなたをあいしています。

さあ、もうだいじょうぶ。おもどりなさい」


 ライオンさんのやさしくてつよい目を見てうなづくと、

またあたりが光につつまれてまっ白になった。


 ペロペロ


 ヒヤッとしてわたしは目をさました。

げんかんの前でねむっていたわたしを、ジュリーがおこしてくれたのね。


 わたしはおこられることよりも早くママにあいたくて、

おもいきりドアをたたいた。


 いなくなってしまったわたしを心ぱいしていたママは、

つぶれちゃうほど強く強く、わたしをだきしめてないている。


「ごめんなさい、ママ」


 その夜はねむりにつくまで、ママにだいてもらいながら、

ライオンさんに出会ったおはなしを聞いてもらったの。


 つぎの日ライオンさんにおれいを言いたくて、

ママとジュリーをライオンさんに会わせたくて、

きのうの道をみんなでいっしょに歩いた。


よかったね、よかったね。

草木もよろこんでくれた。

ビュンビュン風もよろこんだ。


「メアリー、どこまでいくの? 」


 ママとジュリーは、ちょっとつかれてしまったみたい。

 

「もうすこしよ」


 わたしはズンズンすすんでいく。

草木もザワザワ、風もビュンビュンおうえんしてくれた。


 ズンズンズンズン

 ザワザワザワザワ

 ズンズンズンズン

 ビュンビュンビュンビュン


 きのうころんでしまった、木のねを見つけた。

  

「あっ!! 」


 野はらいちめんにタンポポのじゅうたんが広がっていた。


「きれいね」

 ママもおどろいている。


「キャンキャン」

 ジュリーもおどろいている。


わたしがあの時と同じように、目をまあるくしてかたまっていると、


「なかなおりできてよかったですね」


 あのライオンさんの声が耳もとでささやいた。


「うん。ありがとう、ライオンさん」


 タンポポでたのしそうにはしゃぐママとジュリーを見ながら、

わたしもささやいた。





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