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継母伝説・二番目の恋  作者: あしゅ
69/77

継母伝説・二番目の恋 69

「訓練ですか、黒雪姫。」

「イエッサー!」

「その “訓練” とやらは、どのようなものですの?」

 

 

黒雪姫は速やかに立ち上がって

自分の一日のスケジュールをまくしたてた。

 

食事時や就寝時以外は、全部トレーニングで

まるでアスリート選手のような一日である。

 

 

無表情で黙って聞いていた公爵家の娘は

黒雪姫が言い終わって口を閉じると、静かに言った。

 

「よくわかりましたわ、黒雪姫。

 元気に育ってくれて、何より。」

扇を開き、口元を隠す公爵家の娘の仕草は

大抵が怒りを抑えようとしている時に出る。

 

「で、政治の勉強はいつなさっているの?

 この国の歴史はもう学び終えましたか?

 貴族たちの名前や領地は全部覚えましたか?」

 

 

公爵家の娘から発せられる、逆毛が立つような怒りのオーラに

たまらず貴族のひとりが止めに入る。

「黒雪姫さまは、まだ7歳

 巷の子供は泥んこになって遊んでいる盛りでございます。」

 

公爵家の娘が、口元だけ微笑みつつゆっくりと振り向く。

「首都に程近いところに広大な領地を持つ侯爵、

 あなたの跡継ぎも地面を這いずってますの?」

 

「い、いえ・・・。」

侯爵は、下を向いた。

 

 

「“跡継ぎ” と定められた者は、たとえ幼くても

 上に立つ者としての資質を構築するような教育を受けねばなりません。

 黒雪姫、来月は何が行われるのですか?」

 

「私の王位継承権獲得の儀です。」

「それは王になる権利がある者全員が行うものですか?」

「いいえ、1位の者だけです。」

「その “1位” というのは、どういう意味?」

「・・・・・・・」

 

 

公爵家の娘は、扇をパシッと閉じた。

 

「それは、この国の次の王が確実にあなただという事ですのよーーーっ!!!」

 

久しぶりの公爵家の娘の怒声に、宮廷中がビクッとした。

 

「この国の何百万人の運命は、頂点である “王” にかかっているのですよ!

 民衆が働いて得たお金を税として貰って、貴族たちは生きているのです!

 この国を治める立場にある者には、多くが望まれます!

 幅広い知識、大きな視野、そして政治力、決断力、統治力、指導力!

 健康など、あって当たり前なのです!」

 

 

黒雪姫は、ショックを受けた。

今まで自分がする事を、否定する者などいなかったからだ。

自分は王になるのが当然だとも思っていた。

 

だが、それは “絶対” ではない。

目の前にいるこの父の想い人が、自分を “不適格” だと見なしたら

すべては終わってしまう、そんな予感がした。

 

黒雪姫は、母に似て頭はあまり良くなかったが

母とは違い、生き延びる本能は人一倍持っていた。

 

 

この継母はヤバい!

 

そう感じ取った黒雪姫は、公爵家の娘に一礼をすると

風呂にダッシュし、ドレスを着て図書室へと向かった。

 

 

「お騒がせして申し訳ございませんでしたわ。

 いやだわ、あたくしったら、山奥に長居して

 すっかり貴婦人のマナーを忘れてしまったようでお恥ずかしいわ。」

 

公爵家の娘の目が笑っていない棒読み笑顔挨拶に

貴族たちはゾーーーッとした。

 

公爵家の娘、健在なり、と誰もが思った。

 

 


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