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継母伝説・二番目の恋  作者: あしゅ
64/77

継母伝説・二番目の恋 64

いよいよ説明会が始まった。

進行をするのは、チェルニ男爵である。

 

集まったのは、領地の知事、各町の長、そして神官たちである。

小さな領地なので、30人もいない。

 

 

今後、領地内で蒸留酒の生産をしていく事、

それを売るルートを公爵家が手配してくれる事、

領地内に工場を建てる必要があり

そのためには領民の集落の移動なども、可能性が出てくる事などを話した。

 

「その費用は誰がお出しになるんですかい?」

町長の質問に、チェルニ男爵が答える。

「公爵さまです。」

 

「うちは公爵様の領地になるんですかい?」

「いいえ、自立できるまでの間だそうです。

 ただ、蒸留酒が高評価だったら、その事業は国営になる可能性も出てきます。」

 

「うちの領地で、よそのヤツらが儲けなさるのか?」

「いいえ、公爵家の姫さま、つまり今の王妃さまが静養なさったお礼ですので

 この事業で儲けるのは、このチェルニ男爵領だけです。」

 

 

「大貴族さまというのは凄えやなあ。

 こんだけの大きな事を、“お礼” でなさるなんてさ。」

「男爵さまが、お偉いお方々に気に入られなすったから

 わしらに運が向いてきただよ!」

 

嬉しそうにザワめく会場を、諌めるようにチェルニ男爵が言う。

「だからこそ、わたくしどもがあのお方たちのご期待に添えない場合

 一瞬で潰される、と思って気を引き締めてください。」

その表現があまりにもリアルだったので、会場が静まり返った。

 

 

「王さまやお妃さま、公爵さまは立派で慈悲深いお方たちです。

 しかし、他の貴族たちはそういうお方ばかりじゃございません。

 わたくしどもは、王さまがたに当たり前のご奉公をさせていただいただけ。

 それに対して、ご褒美など期待していませんでした。

 ましてや、このような身に余るご厚意など。

 

 ですが、こうなったら、お断りをするのも無礼。

 そして、この “王さま方の温情” を妬む輩も出てくるでしょう。

 わたくしどもは領地の民のためにも、それに負けずに

 正しく事業を運営して行かねばなりません。」

 

「わかりました。」

「わかりましただ。」

真面目にうなずくメンバーたち。

 

 

チェルニ男爵は続けた。

「これはお妃さまの、“お礼” です。

 なので、わたくしどもには選択の余地はございません。

 お妃さまから立ち退け、と言われれば立ち退き

 工場に勤めろ、と言われれば勤めなければなりません。

 ここでも、わたくしどもの忠誠心が試されるのです。」

 

「この痩せた地では、食うのがやっとの暮らしで

 これ以上、不幸な事なんて起きませんや。

 お好きになさってくださりゃ、ええんじゃないですかい?」

場内が再びザワつく。

 

「しかし、領民たちには違う意見の者もいるかも知れんぞ。」

「そんなヤツらは、よそへ引越しゃ良いんだ。」

「何もしねえくせに、文句ばかり言うヤツはいらねえだよ。」

 

 

チェルニ男爵は、しばらく黙って聞いていた。

そして手を叩いて、注目を集める。

 

「領民の意思の統一を、皆さんにお願いしたいのです。

 各人この後、各々の集落で会議を開いてください。」

 

「何故そんなに急ぐのですか?」

町長のひとりが訊く。

 

「事はどんどん進んで行きます。

 今なら、わたくしどもの要望も取り入れてもらえますが

 始まったら、もう止まらないからです。

 それに・・・、お妃さまがこの地においでになるのは、2年間だけ。

 あのお方がいらっしゃる時に、出来るだけ形作っておきたいのです。」

 

この言葉には神官がうなずいた。

あの、気絶しかけながら、結婚の儀を執り行った人物である。

 

「そうですな。

 あのお方は、心ある立派なお方。

 我々を利用しようなど、お考えなさらない。

 ここにいらっしゃって、目を光らせてくれている間に

 地盤を固めておかねば・・・。」

 

 

「早急に人々の意見をまとめられない者は、長の資格なし。

 これから、どんどん変わっていくチェルニ男爵領を

 正しく導くために、どうすれば良いかを考えれば

 おのずと答はひとつになるはず。

 皆、のんびり茶など飲んでおるヒマはないぞ!」

 

知事が怒鳴ると、一同が慌てて立ち上がった。

各自、チェルニ男爵の前でひざまずき

その手に口付けると、部屋から出て行く。

 

 

ふうむ、このような辺境の地の貧乏な “有力者” たちだから

してもらうのを、ボーッと眺める無能ばかりかと思っていたけど

チェルニ男爵は普段から上手く領地を治めていたのね。

 

公爵家の娘は、知事たちの団結力に感心させられた。

 

 


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