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継母伝説・二番目の恋  作者: あしゅ
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継母伝説・二番目の恋 6

城での夜会は、連日催される。

特別な行事がある時は、治めている領地にいる貴族もやってくるが

普段は大臣など、国政の役目がある者や

社交目的の貴族の子弟などが、飲んで喋って踊るのである。

 

公爵家の娘にとっては、それはごく普通の日常であったが

他国から嫁いできた少女は、いつまで経っても上手く立ち回る事が出来ない。

 

他の姫は、しょっちゅうダンスに誘われるのだが

田舎娘、しかも王の寵愛を一身に受ける妃を

ダンスに誘おうという勇者はいない。

 

しかも万が一、この社交下手の王妃を傷付けでもしたら終わりである。

王の機嫌を損ねた者に、首と胴体がくっついている保証はないのだ。

恋に溺れた王は、決して “賢王” ではない。

 

 

そのような王が、事もあろうに公爵家の娘をダンスに誘った。

周囲には遠慮がちに、どよめきが起こった。

 

結婚後は、王妃以外とは踊らなかった王が

国一番の家の娘を誘う、という事は、側室への布石と考える者が多いはず。

公爵家の娘は内心は動揺しながらも、平常心を装って王の手を取った。

 

人々の目がふたりから逸れるようになった時に

公爵家の娘は、王に顔を近付けて小声で怒った。

「どういう、おつもりですの?」

 

王は、ふっ と笑った。

「相変わらず、このわしに臆する事なく物を言う。」

 

「王妃さまのためですわ。

 このダンスひとつでも、誤解をする者が出て

 王妃さまが、それでお心をお傷めになったら困りますわ。」

 

 

公爵家の娘のこの言葉は、詭弁ではあったが本心でもあった。

一番の理由は、寵姫争いに参加をしたくないからであるが

あの王妃の悲しむ顔も、あまり見たくはない。

 

王は微笑んだまま、答えた。

「だからだ。

 わしがそなたと踊るというのは

 そなたの宮廷での権力を強める事になる。」

 

 

その言葉を聞いた公爵家の娘は、少し考え込んだ。

「もしかして、あたくしを信頼なさっていらっしゃるの?」

王はそれには答えなかったが、独り言のようにつぶやいた。

 

「わしが踊るのは、我が妃とそなただけにしよう。

 我が妃は弱い女だが、そこが儚くてまた良い。

 しかし、わしの目の届かぬところで、不当な扱いをされてほしくない。

 わしも色々と忙しいのでな。」

 

 

公爵家の娘は、イラ立った。

この王は最初から王妃のためを考え、“自分” を選んだのだ。

 

国一番の大貴族の娘のあたくしに王妃を守らせようと!

恋に狂っているのに、何と言う計算高さなの!

 

 

王に権力の後ろ盾になってもらうのは、臣下にとっては光栄な事であったが

今回は、ちょっと事情が違う。

 

王妃や公爵家の娘の、こうなる苦労をわかりきっていながら

無理に南国の姫を、ふさわしからぬ場所に呼び寄せた王の

我がままの片棒を担がされる事になるのは、腹立たしい。

 

それも嫌で、王妃を避けていたのに

先日の王妃の “舞い事件” で、痺れを切らせた王が

王妃に次ぐ権力を、公爵家の娘に持たせようとしている。

 

表向きは “王の側室” としてだが

この国一番の貴人である王の相手なので、それは不名誉な事ではない。

我が娘に王妃の地位を、と狙っていた父公爵にとっては不本意で

公爵家の娘自身のプライドも傷付く流れではあったが。

 

 

公爵家の娘の結婚相手は、これで国内の貴族だと限定された。

側室を結婚相手としてあてがわれる、というのは

王からの最大の “贈り物” を貰うにも等しいので

他国の者は易々とは貰えない慣例が、大国・東国にはあるからである。

 

これを “取り引き” にしたら

その内、王が最上の相手を見繕ってくれるであろう。

 

公爵家の娘の結婚相手が

申し分のない家柄である事だけは、保証されたわけだ。

“王のおさがり” の天下り先には、相応のレベルを要求される。

 

 

まあ、他国に行く気もしないけど

王があの王妃に入れ込むのもわかるけど

でも、何だかモヤモヤするわ!

 

公爵家の娘は、王の罠にはまった気分であった。

 

 


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