継母伝説・二番目の恋 55
「黒雪姫は今、5歳だ。
心配いらぬ、健康に育っておるぞ。」
5歳・・・?
あたくしは5年も呆けていたの・・・?
自分のダメージの大きさに、驚く公爵家の娘。
「静養は、もう良いであろう?
わしは王妃とそなたを同時に失って以来
愛人をひとりも作っておらぬ。
それを、わしのそなたへの誠意と受け取ってはくれぬか?」
その言葉をすんなり信じられたのは
以前の公爵家の娘が情報通だったからである。
結婚前には、時々 “お遊び” の噂を耳にはしていたけれど
このお方は恋愛に関しては、達者な方ではなかった。
だからこそ、あの王妃との恋を貫いたのでしょうし・・・。
そう思った直後に、ハッと驚く。
この5年間、考えないように思い出さないようにしていた、あの王妃の事を
こんなに、さり気なく考えられるとは!
公爵家の娘は、王の顔を見つめた。
もしかしてあたくしに必要だったのは、逃げ出す事ではなく
分かち合う事だったのかしら、同じ痛みを持つこのお方と・・・。
公爵家の娘の視線に、王は答を読み取った。
「最初から愛しているのだ。 わが姫よ・・・。」
王は再び、公爵家の娘を抱きしめる。
公爵家の娘は、王の抱擁に身を任せた。
そして目を閉じて、心を起こした。
あれから5年・・・、もう止めましょう。
あたくしの時間を再び進めましょう。
今までに起きたすべての事は
きっとこれからのあたくしに必要な経験だったのでしょうから。
このお方もお辛かったでしょうに、ひとりあの宮廷に留まり
そして、こうやって迎えに来てくれた。
“あたくしたち” は、これから始めればよいだけの事。
公爵家の娘の無抵抗に、“許し” を感じた王は
改めて公爵家の娘に口付けようとした。
「ですが、まだ2つ問題がございます!」
グイと王の顔を押し返した公爵家の娘は、鬼だった。
「ひとつは、黒雪姫がまだ正式なる王位継承権を得ていない事です。」
東国では7歳になってようやく、王位継承権を持つ事になる。
このままいけば、黒雪姫の王位継承権は1位になれる。
「黒雪姫が王位継承権を得て
その厳守をあなたが命じないと安心できません。」
王に異存はなかった。
「ふむ、それは約束した事であるから、任せてよい。
2年、子を作らねば良いだけだ。
わしは、そなたが側にいるだけで良いのだ。」
「そこで2つ目の問題ですわ。」
すり寄ろうとする王を制し、公爵家の娘が上品に微笑む。
その表情は、もう以前の誇り高き姫に戻っていた。
「あたくしを癒してくれたチェルニ男爵領に
恩返しをしたいのです。」
王は、これも快諾した。
「うむ、それも許可する。
何の問題もない。」
「では、今日のところは、おひとりでお帰りください。
2年後に迎えにいらしてくださいね。」
公爵家の娘の別れのお辞儀に、王は大慌てをした。
「な、何と申した?」




