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継母伝説・二番目の恋  作者: あしゅ
51/77

継母伝説・二番目の恋 51

「こ、これは姫さま、何故このようなところに・・・。」

 

うろたえたチェルニ男爵の、珍しくくだらない問いに

公爵家の姫は答える事が出来なかった。

ただ、歩いていただけだからだ。

 

供は公爵家の娘の邪魔をしないよう、遠くに控えている。

この地は、公爵家の娘が自由に過ごす場所なので

周囲を兵で固めていて、関係者以外は近寄る事すら出来ない。

 

その万全の護りに、かえって油断を招いてしまったが

あまり動きもしなかった公爵家の娘が、いきなり外に出るとは

誰も思っていなかったのも、事実である。

 

 

視線を落とし動揺する公爵家の娘を見て

会うのが早過ぎた事を、チェルニ男爵は感じ取った。

 

「わたくしは城に用がございますので、ここで失礼いたします。」

頭を下げたが、何の返事もなかったので

さりげなく城へと向かった。

 

 

しばらく歩いて、用心深く振り返ると

公爵家の娘は、うつむいたまま一歩も動かず、ただ立っていた。

 

その姿が、あの在りし日の王妃と重なって見えたチェルニ男爵は

全身が震えるほど、ゾッとさせられた。

 

 

この “やり方” が間違えていないか

何も見落としていないか

予期せぬ “狂い” が生じてないか

何度も何度も頭の中で反すうする。

 

あのお方までを失う事だけは、絶対に避けねば!

チェルニ男爵は、城に逗留する事を決断する。

 

 

チェルニ男爵と公爵家の娘は、夕食を共にするようになった。

それが時々であったのは、公爵家の娘の様子見をしながらだったからである。

 

あの社交的だった姫が、無言で少しだけ食べ物を口にするのに

チェルニ男爵の存在が、邪魔になる日もある。

 

その日の夕食をひとりで摂りたい気分と

チェルニ男爵が “いて良い” 気分を

公爵家の娘が、わざわざ口に出さなくて良いように

“チェルニ男爵がいる食堂” を決めた。

 

こういう気配りが出来るからこそ

王はチェルニ男爵に公爵家の娘を託したのである。

 

 

強制も指導もしなかったせいか、公爵家の娘の足は

チェルニ男爵がいる食堂へと向かう回数が増えた。

 

黙って食べていた公爵家の娘が

「ここのお水は美味しいですわね・・・。」

と、つぶやいた時には、チェルニ男爵はフォークを落としそうになった。

 

そして、それは良かった、と微笑んで答えた後に

フォークをわざと落として、拾いながらテーブルの陰で目頭を押さえた。

 

本来、落としたものは給仕に拾わせるのがマナーである。

「すまない、つい拾ってしまった。」

と言いつつ、フォークを手渡したチェルニ男爵の目が

真っ赤に濡れていたのを気付きながら、見ないようにした給仕も

忘れ物を取りに行くフリをして、部屋から出て涙をぬぐった。

 

 

公爵家の娘は、生きているのが不思議なぐらいに傷付いていたが

それを救おうとする周囲の気配りも、並大抵のものではなかった。

 

 


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