継母伝説・二番目の恋 5
翌日の王妃は、昼食会に現れなかった。
朝食も摂らなかったらしい。
「娼婦の真似事をして、王さまから折檻されたのよ。」
そうクスクス笑う貴族の女たちを
公爵家の娘は、内心、鼻で笑っていた。
あのように美しい姿を見せられて、王が怒れるわけがないわ。
逆に人前に出したくなくなるってものよ。
王妃は王の前で泣いたに違いない。
そんな王妃を、王が慰めないわけがない。
軽微な謀略ゆえに、王の叔母上に表立っての沙汰はないにしろ
きっと王の不興は買ってしまったわね。
くだらない企みをするからよ、地位だけしかない浅薄な女。
そう見下した王の叔母にも
いつもと変わらず、うやうやしくお辞儀をする公爵家の娘。
公爵家の娘は、常に身の振り方を考えていた。
王に 「王妃の友達に」 と望まれたけど、王妃の元に行かないのは
どの位置にいたら、火の粉が掛からないかを
見極めようとしているからである。
あたくしの言動ひとつでも、隙を見せると公爵家の汚点になる。
王の王妃への熱は、当分は治まらないだろうけど
王妃があの調子では、いずれ宮廷内で
王の寵愛争奪戦が始まる可能性が高い。
寵姫、つまり側室になるよりは
東国の大貴族か他国の王族へと、“正妻” として嫁ぎたい
それは、あたくしの我がままだけど・・・。
公爵家の娘は、貴婦人たちが集うテラスに目を向けた。
午後のお茶と称して、美しく着飾った女性たちが
ティーカップを手に、噂話に花を咲かせている。
宮廷は夢のような場所。
高価な調度品に囲まれて、美しい衣装に身を包んだ人々が
優雅に社交をしている。
フルーツをふんだんに使ったフワフワのケーキ
色とりどりのキャンディーやクッキー
繊細なラインのグラスには、泡が舞うシャンパン。
そこで生まれ育った人々は、そこを永遠の楽園だと思い込む。
吹きすさぶ木枯らしに背を向けて
窓のこちら側で、自分たちは選ばれし者だと悦に入る。
私には、その世界は退屈だわ。
だけど女性に生まれてきてしまったので
せめて、参政の義務がある王妃になりたかったのだけど・・・
あの冬の日、王とふざけて越境した暖かい南国の
別荘らしき建物のベランダで歌う少女を盗み見た瞬間
・・・王妃の地位は諦めた。