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継母伝説・二番目の恋  作者: あしゅ
24/77

継母伝説・二番目の恋 24

「何だと?」

王妃が気分が悪いとふせっている、という報告を受けた公爵家の娘は

口元を閉じた扇でトントンと叩きながら考え込んだ。

 

そういえば最近、食欲がなかったみたいだし

以前にも増して、部屋からも出たがらなくなっている。

これは・・・・・

 

ようやくの懐妊かも!!!

 

だったら、あたくしの役目もあと少し!

公爵家の娘は、笑みを噛み殺しながらも

期待に満ち溢れて、王妃の寝室へと急いだ。

 

 

寝室には、グッタリしている王妃だけ。

「侍医は呼んだのか?」

 

廊下に居並ぶ召使いに訊くと、頭を下げながらもお互いの顔を確認し合い

その内のひとりが、か細い声で答える。

「い、いえ、まず姫さまにお伺いをと・・・」

 

公爵家の娘は怒らなかった。

身篭っているかも知れない王妃を、怯えさせたくなかったからである。

出来るだけ、普通の口調で支持を出す。

「・・・侍医を呼べ。」

 

 

程なくして、侍医がやってきた。

公爵家の娘は召使いを残し、自分は隣室の王妃の居間で待機した。

侍医の後ろでソワソワするのが嫌だったからである。

 

王妃の部屋は、相変わらず手入れが行き届いていない。

あの処刑以来、王妃の召使いはなり手が見つからずにいて

公爵家の娘がその都度、自分の召使いに指示を出す

という有り様である。

 

 

召使い、と言っても、王族クラスの身分の側仕えともなると

国内の下流貴族の子女が召使い長になり

身元のしっかりした家の、教養のある子女が仕えるのである。

 

王族や大貴族クラスでなくとも、貴族の召使い、というのは

給金も良いし、家柄や身分の保証にもなる。

“行儀見習い” としての側面もあるので

真面目に勤めていれば、男女ともに良い縁談話も舞い込んで来る。

 

平民にとってはエリートコースであり、そのプライドも生半可なものではない。

大国・東国の宮廷勤め、ともなると、他国の田舎姫など鼻で笑う勢いである。

 

あたくしの、あの召使いたちも上級平民たちだった・・・。

公爵家の娘は、王妃のための犠牲を悔いていた。

 

 

飾り窓の桟に積もったホコリを眺めていると

意外にも早く、侍医が戻って来た。

 

「王妃さまのお具合はいかに?」

公爵家の娘の問いに、侍医が答えにくそうにしたのは

侍医もまた、懐妊を期待していたからであろう。

「・・・お風邪を召されたようですな・・・。」

 

また?

 

公爵家の娘は、思わず叫びそうになった。

まだ、木の葉の色付きもまばらな時期である。

 

ハッ、と振り向くと、暖炉は火が入った形跡がない。

東国では、まだ暖房は入れる季節ではない。

しかも、ここのところ暖かかったので

公爵家の娘も、王妃の部屋の暖房の事を忘れていた。

 

南国出身の王妃は、やはりこの気候でも寒いのかも知れない。

しかしそんな王妃を思いやる召使いは、ここにはいない。

 

召使いに厳しく押し付けて、言う事を聞かせるのは

本来なら伝統に反する事なので、もうやりたくない。

“進んで仕えられる人” になるのが、上流の義務なのだ。

 

 

どうしたものか・・・

自室でソファーに座って考え込んでいた公爵家の娘は

思うところがあったのか、おもむろに立ち上がった。

 

そして机の上の書類を適当に掴み、腕に抱えて

人通りの多い中央廊下を通り、資料室へと向かった。

 

 


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