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継母伝説・二番目の恋  作者: あしゅ
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継母伝説・二番目の恋 22

宮廷では、召使いの処刑の噂が広まっていた。

ありがちな尾ヒレが付いていたのは、言うまでもない。

公爵家の娘は、この件によって残虐さを恐れられるようになる。

 

 

「海千山千の貴族が跋扈 (ばっこ) するこの宮廷で

 おひとりでは限界がございます。」

公爵家の娘に声を掛けたのは、ひとりの中年貴族である。

 

公爵家の娘には、その男性への見覚えがない。

「そなたは?」

 

「失礼いたしました。

 わたくしはチェルニ男爵と申します。

 長男が成人しましたので、領地を任せて

 この度、宮廷に上がらせていただく事になりました。」

 

 

チェルニ男爵・・・、聞いた事がない。

あたくしが知らぬレベルの国内の貴族が、宮廷に上がれるとは解せない。

 

いぶかしんだ公爵家の娘は、その夜も寝室を通る王に訊ねた。

「チェルニ男爵なる者をご存知でしょうか?」

 

王の答は意外なものだった。

「現チェルニ男爵の母親は、わしの乳母だ。

 現チェルニ男爵の末の弟とわしは、乳兄弟なのだ。

 代々、王の馬番をしていた家系の夫の妻に

 乳母としての身分を与えるために

 当事、跡継ぎが絶えていた小さな男爵領を与えたのだ。」

 

 

「そうだったのですか・・・。」

それでは、公爵家の娘が知らないのも無理はない。

 

「その後、あの者が長男だったので男爵家を継ぎ

 結婚して跡継ぎを作ったが、奥は病気で亡くなってな。

 貧乏貴族なので、男手で子供たちを育てていたから

 今まで宮廷に顔を出せなかったのだ。」

 

 

「よくわかりましたわ。

 ご説明を、ありがとうございます。」

公爵家の娘が礼を言うと、王がつぶやいた。

 

「あの者、何かと役に立つ。

 辺境の領土で、貧しいながらも幸せに暮らしていたので

 呼び寄せるつもりはなかったのだがな。」

 

え?


公爵家の娘が思わず顔を上げた時には、ドアは閉まっていた。

 

 

公爵家の娘が資料室の奥で書類を探していると、背後で声がした。

「お探しの書類なら、ここに。」

 

受け取った書類は、確かに公爵家の娘が探していたもの。

「何故あたくしが、貴族の税収を調べていると?」

チェルニ男爵は、頭を下げたまま答えた。

 

「今のあなたさまが真っ先になさりたいのは

 ベイエル伯爵を潰す事だからです。」

 

 

宮廷での貴族たちの遊興費等は、基本的には王家が持つ。

しかし城下町での邸宅の賃貸料や維持費、滞在費、使用人たちへの給料

流行に合わせた、宮廷に  “ふさわしい” 高価な衣装代などを

捻出し続けられる貴族は少ない。

 

だから多くの貴族は、イベント時などに短期間の滞在しか出来ない。

貧乏な新興貴族であるチェルニ男爵家にも、そのような財力はない。

 

と言う事は、王がそれをすべて出している、という事。

そこまでして呼び寄せた理由が、この一瞬でわかった気がした。

 

 

公爵家の娘が、冷たい表情を崩さないまま訊く。

「そなたがしたい事は?」

 

「あなたさまのお手伝いです。」

チェルニ男爵はひざまずいて、公爵家の娘の靴に口付けた。

 

 


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