継母伝説・二番目の恋 18
会議での公爵家の娘の発言に、ベイエル伯爵がつぶやいた。
「どちらが王妃さまかわかりませんな。」
その言葉に、会議室がザワつく。
失笑する者もいれば、渋い表情になる者もいる。
公爵家の娘は、取り乱さなかった。
「あなたは王さまがお望みになって、他国から嫁いでおいでになったお方の
言葉の不自由さをお助けなさりませんの?」
ベイエル伯爵も、余裕の笑みで返す。
「誰もそれが悪いとは申しておりませんが?
ただ、側室さまが出すぎのような気がしましてな
いやいや、これは余計なお世話でしたな。」
“側室”
公爵家の娘をこう呼ぶ者はいなかった。
それは、王妃の地位に一番近かった者にとっては
屈辱極まりない呼称だからである。
だから王も、公爵家の娘を “姫” と呼んでいた。
しかしそれは暗黙の了解で、公的には確かに “側室” の立場なのである。
その場が静まり返る。
王も何も言わない。
自分の力量が試されている
そう感じた公爵家の娘は、表情を変えずに言う。
「王妃さまもあたくしも、王さまのものである事をお忘れなきよう、
あなたご自身のために忠告させていただきますわ。」
静まり返った湖面が見る見る凍っていくような
そんな空気を感じた。
公爵家の娘は “王の愛” を盾に、ベイエル伯爵を脅したのである。
それは、現実にはないものなのに。
もう、あたくしに後はない。
今後は、より我欲を捨てて国に尽くすしかない。
でないと、誰もついてこない・・・。
「頭が痛いので、少し寝ます。
夜会の前に起こして。
それまで誰も入らぬよう。」
公爵家の娘は、召使いにそう言い付けて
寝室に入り、布団をかぶって泣いた。
この国のものは全部、王のもの
お父さまも王の臣下
王は王妃のとりこ
あたくしには誰もいない 何もない。
王妃の代わりに公務をするためだけに存在する。
あたくしは・・・、あたくしは公爵家の娘なのに!!!
いつ走り出すかわからない馬の手綱を首に巻いて
あざけり笑う人々の前で歩かされているような
大勢の中のひとり、という想像を絶する孤独と恐怖。
感情が爆発したように、公爵家の娘は泣いた。
泣き声が漏れないように、枕を噛み締めて。




