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終局から始まる世界線  作者: マクシミリアン
7/8

ヨルとアイゼン

「それもそうね」


アイゼンの言葉に納得したのか、室内に入ってもなお脱ごうとしなかったそのフードをパサリと脱いだ。暑苦しかったと中に入れていた髪を出し頭を振る彼女。


「なんか静かね。どうしたのみんな」


ギルドの広間は凍った様に静まりかえっていた


「はははっあなたはいつ見ても美しいですね」


彼女に注目していたメンバー達が固まるのもよくわかる。先ほどまで自分より倍の体格を持つ男の前に立ち塞がり、眼を潰して最後まで追い詰めていた得体の知れない女が


こんなにも美しい女性だとは思わなかっただろう。


「傾国の美女、、」


ヴィーダのぼそりと口から出た言葉がアイゼンにも聞こえた。傾国の美女とは君主がその色香に溺れ、国を傾けてしまうほどの美人という意味。あながち間違えではないのがまた面白い。


「なに?おだてても何も出ないわよ」


「くっそー多大なるあんたの持ち金の数割でももらえたらなと思ってたのに、、」


「げすい男ね?」


本心ですよ。自分の魅力に1ミリも興味が無い彼女に対して嘆く言葉はそっと胸の内にしまっておく。アイゼン達小さな言い合いをしていると皆も気がついたのかちらほらと声が上がるようになった。その中には当然、


「よ、ヨルさん!?」


「帰ってきてたんですか!?俺、てっきりもう、、」


「おお、カラン、チッチ!お前らなんか、でかくなったなあ」


ヨルを知っている者も現れる。


「ヨルざぁああん”!おで、おで、うぐっ、じぬ”ばでにあなだにあべで〜」


「くそっ鼻水つく鼻水!泣くな!何言ってるかわからないし!」


「うええええん」


「ちょっとアイゼン!なんなのこのギルド!」


「五年も姿くらましてたんですからそれくらいの罰は受けてください」


泣きついてくるむさい男の対応に困って焦るヨルの顔がいつもの冷静沈着な綺麗な顔とは違ってアイゼンはうれしくなった。実は自分もあの酒場前の道で、変わらないヨルを見たとき泣いてしまいそうになったのを思い出す。


「ほんと、帰ってくるのが急って言うか、相変わらずと言うか、」


「もーお前ら無駄にでかくなってるんだから辞めろそういうの!」


「そりゃ五年も経ちましたから!」


「ヨルさんは何も変わらないですね!何も!」


「それは喜べないぞカラン」


この五年で大きくなったアイゼンワークスは期待の新人がぞろぞろ入り、長年者は何人か引退していった。八割くらいは何が何やらと言った表情で、謎の女に泣きつく先輩達を見ている。決まりが悪い居心地のアイゼンだったが、やはり慕われている彼女を見るのはとてもうれしくなるものだ。他愛もないじゃれ合いが続き鳴き声から笑い声へと変わっていくギルド内。つられて唖然としていた事情の知らない奴らも、ヨルから先輩達を剥がしなだめながら笑っていた。


どうですか俺のギルドは、良いところでしょう。そう胸を張れる事がアイゼンはとても誇らしかった。


「マスター」


「おお、ヴィーダか」


「あの人は?」


しびれを切らして俺に聞いてきた若い優秀なメンバーの一人。その後ろにはヨルの奇行を始終見ていた三人。


「あー気になるよな。わかるわかる。あの人はな俺の恩師なんだ」


「え!?あんな若い人が!?マスターの師匠!?」


バルドの言葉に他の三人も頷く。どう見ても成人したての少女のようにしか見えない。


「あははっそう思うよな。まあ年齢のことを話すとあの人に俺怒られるから聞かないでくれ。でも本当に師匠なんだ。俺はあの人から生き方も戦い方も教えて貰った」


「じゃ、じゃあマスターより強いって事ですか、、」


「ああ、俺はあの人に未だ一本もとれたことがない。すげぇぞ。そんな俺の師匠は五年前にパッと姿を消してな。それより前はこの街で普通に暮らしてたんだが、、」


これまで、対峙してきたどのモンスターや人間より自分たちの実力はまだまだだと思い知らされる自分のギルドのマスターが1回も傷を当てれないと言う言葉に少なくともシューウェイとヴィーダは納得ができなかった。


「そんな風には全く見えないが、、」


「なるほどそれでカランとか、昔から居るメンバーはあの人のこと知ってんのか!!」


「って事は、彼女も戦士なんですか?なにかとても大きな依頼を?」


「いや、あの人は戦士じゃない。どこのギルドにも属してないし、モンスター討伐も自分からしに行くことはない。俺たちもなにも聞かされないまま居なくなって五年が過ぎてた。あの人はな研究者なんだ」


「研究者?と、言うとラボに籠もっているイメージですが、、」


「籠もって、その場に立ち止まって、何が生産できる!って他の研究者に暴言吐いてたよ」


「す、すげぇ、」


「なんか納得できちゃいました、、」


「あはははっそうだろうな!あんなん見たら何でもありだと思うもんな!」


そう言う自分たちの会話が何故かとてもうれしそうなアイゼンに四人も頬がほころぶ。尊敬するマスターがまた尊敬の眼差しを向けるその少女に彼らはとても興味がわいた。

アイゼンはいくつか嘘と、省略しすぎている部分はあるが、ある程度を教え、目を輝かせながら彼女を見る4人を見て笑う。


「じゃあね。私行くから」


「えええええ!もういっちゃうんすか?またどっか行っちゃうんすか?」


「馬鹿ね。家に帰るのよ。」


「じゃあ!またこっちに住むんすね!?」


「まあ、当面はその予定」


「今度俺の新必殺技見てください!」


「お、俺も俺も!」


「いいよ。その代わりしょうも無い技だったらぶっ飛ばすわよ」


「おい、死に急ぐのはまた今度にしようぜ」


「確かに、、まだしたいこと一杯あるもんな」


「おいおい!お前ら俺が稽古つけてやってんのにそんな尻込みしてるとはどういうことだ?」


「マスター、、」


「だってヨルさんにぶっ飛ばされたらたぶん北の海まで飛ぶっす」


「そんなことないわ。せいぜいカルロスの墓地くらいまで飛ぶぐらいよ」


「隣の国まで飛ぶのは確定なのかあ、、」


「ぶっ」


「「「あっはははははは!!」」」


「ったくどいつもこいつも私をなんだと思ってるのかしら?」


ヨル嬢、帰ってきてくれてありがとうございます。あなたにこのギルドが、街が、見せれて本当に良かった



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