表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アゲメン  作者: ゆかわあきら
1/2

プロローグ

出演予定者

オレ 和泉 透

妹  和泉 歩美 通称 あゆ

母ちゃん なにわ生まれのスーパー母ちゃん

父ちゃん アフリカに単身赴任中

お祖母ちゃん 未だ健在

お祖父ちゃん 中学時代に他界

女子アナ 森尾 えりこ 高梁 亜美 菅野 愛

モデル サエ あゆの知人 Aya あゆの知人

アイドル まゆこ アイドルグループでセンター経験あり

女優 トモ あゆの知人 りな トモの事務所の後輩


その他・・・。




プロローグ

自分がこんなことになるとは思いもしなかった。

何かの間違いだと思っている。

俺はこの会社のトイレに閉じこもって数十分が経過している。

一応携帯の電源は入っているが電波offモードに切り替えている。

なんだかんだ思いながら、相手から来たメールの画面を見つめ続けている。

一通だけじゃなく何通も、相手は一人じゃない。

思い返してみればこんな事になるなんてなぁと、オレは過去を振り返ってみた・・・。


オレが生まれたのは日本って当たり前だよな。あほみたいに思われるからちゃんとしよう。奈良県奈良市生まれだ。奈良といえば鹿だ、鹿と寺しか有名じゃないが自分では住みやすい土地だと思っている。でも関西人だからと言って関西弁は一切ダメだ、というのも奈良は親父の祖母の実家だからだ。うちの母ちゃんがお祖母ちゃんの実家で出産したのがオレだ、オレオレばっかりでは誰だかわからないから名前を名乗ろう。和泉 透 いずみ とおる イズミ トオル ここまで書かなくてもわかるわな。職業は・・・それは後でオイオイ話すことにしよう、何故この様なことになったのかというこれまでの歴史を振り返ってみようと思う。

1)

オレ、和泉透は先ほど書いたとおり奈良県奈良市の生まれだ、奈良市といっても結構広い、お寺や公園がある中心部より離れた西大寺というところだ。西大寺といって分かる人は関西人だろうな。近鉄の大和西大寺駅から歩いたところに和泉家の祖母の家があってそこで生まれた。祖母の家から有名な平城京旧跡は自転車15分ぐらいで行けるし散歩コースには十分だ。

オレは幼稚園まではこの西大寺で暮らした、理由は親父だ、親父は某一流商社の三友商事みつともしょうじ<何故某とつけるかは不明だ>で親父いわくしがない部長をしているようだ。偶然にも関西支店に約5年転勤になり祖母の家から近鉄奈良線で通勤していたようだ。そして辞令で東京に戻ることになり親父と母ちゃんとオレは東京になったわけだ。

ちなみに東京には元々マイホームがあり、転勤以前はそこに住んでいたようだ。東京の大田区で場所的には京急の平和島駅から近いところにある。

東京に戻ってからのオレは公立の小中学校に通った。うちは一人っ子というわけではなく、同じく奈良で生まれた妹がいて、こいつも同じ流れをたどるができは俺より上であった。ちなみに二つ違いだ。名前は・・・歩美あゆみと呼ぶが、オレは普段あゆと呼ぶ方が多いと思う。

高校はいろいろ悩んだけど都立高校に行った。理由は特になかった。ちなみに妹のあゆは母親がオレと一緒にいるとバカにされるからの理由で、中学から私立の女学院に入れた、中高一貫校のだったらアホオレのことだと比較対照されずにノビノビできるからと母親は言った。まぁ実際その女子高から一流の女子大に進学しなんとオヤジの商社に就職しやがったというオチになった。

ちなみにオレのオヤジは東京に戻ってからずーっと本社にいなくて、小学校3年の時にアフリカに飛ばされて、アフリカの各国をぐるぐる回っていて今現在に於いても海外本部の部長らしい。(ホントかどうかは知らないが、妹に聞くとお父さんはすごくえらい人になっているらしい。)

オレの趣味はというと、前記したなぜ妹の歩美がバカにされるから離した大元になるわけだが、アニメとフィギアだ、どうだまいったか。あまりにも濃すぎるので詳しくは書かない、書きたくない。でもこの奥深いこれがたまらないのだ。浸かり出したのは小学4年か5年だと思う。中学になってからさらに加速したと思う。母親から見ればそりゃそうだ、歩美がいじめられたら大変だと危機感をあらわにしたであろう。そう言うわけで将来的にはアニメを作るか、それを演出するか製作するかになれたらいいなと高校二年の頃には思うようになった。

ところがオレには致命傷が一つある。それは絵の才能が全く無いことだった。美術の成績は十段階評価で3ないし4と完全にアウトといってよかった。

そうなってくると製作はまず無理とわかったので、それを演出するかプロデュースを行う仕事がいいだろうと結論を出した。大学については高一の頃から進学予備校へ行っていたが、アニメ等を行うなら普通の大学より専門学校に通う方が実戦的に有利だと分かっていたが、いまいち踏みきれないところがあった。

2)

高二の模試テストの判定が終わり結果は出たが、現状の実力からして東大はもちろん無理で、東京の有名私立大学は何とか追い込みをかければ十分の位置に来ていたが何か一つつかみきれない何かを感じていた。

そんな時に見ていたテレビに心を動かされた。

それは何のことは無いただの旅番組で、うちの実家である(祖母ちゃんの)奈良と京都を回る内容だったが、出ていた芸能人が「ちょっと変わったところを」と紹介したのはなんと「京都大学」だった。要はその人が京大出身なだけの話だが「私の4年間の思い出です」と言って学内を回っていた。

オレはこれを見て思った。「京大は無理かもしれないけど、京都の大学には行きたい」と、その時バックで流れていた曲は「京都の大学生」(by くるり)だった。

「先生、京都の大学に行きたいのですけど」

「君、自分のレベルわかっている?」進路担当の先生は「何言っているこいつ」みたいな眼つきをしている。

「京都の大学に行きたいって言っているのですけど」

「何回も言わなくてもわかっている。でも和泉君、京大は無理だ、少し頑張れば早慶は無理じゃない、それでいいじゃないか」どうもこの先生は京都の大学=京都大学という認識しかないらしい。京都にも大学はたくさんあるのだろうが、この先生は知らないのかもしれない。そういうオレも京都にどういう大学があるか実は知らない。

「わかった、君がいいと思う大学を探してきなさい。私が判定してあげるから」と、進路担当の先生は言うと。

「わかりました、先生なら詳しいと思いましたが。明日までに資料を探してきます」といって外に出た。

後でわかったことだが、関西方面の大学行く人なんてこの都立高校から殆どいない様なので判定資料が無い様なのだ。

とりあえずと今通っている進学予備校へ足を進める。

予備校に入り進路相談の部屋へ向かう。

「すみません。お忙しいところなのですけど」

「どうかしましたか。和泉さん何かありましたか?」

「いや実は大学進学についてなんですけどね。ちょっと思いあぐねていまして、京都の大学へ行きたいと思いまして」

「京都の大学というと京都大学ですか?」

「京大は自分の実力じゃ無理なのは十分承知していますから、でも京都の大学って京大しかないのですか?」

「そんなことはありませんよ。ただ、東京から京都の大学を目指す人は京大以外多くないですよ。他県の人でも西日本の人は別でしょうですけど、早慶などいろいろ東京の一流大学を目指す人が多いですから」

「それはわかるのですが、京都の大学へ行きたいのです」

「はい、わかりました。そうなりますと、京都だけではないのですが。関西地方ではカンカンドウリツが一番人気の私立大学でして。和泉さんなら今の調子であれば秋までには十分射程権内といえます」

「そのカンカンガクガクってなんですか?」言っている内容は異なるのだが、そうオレには聞こえた。

「カン、カン、ドウ、リツ、関関同立といって。関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学を指します。京都が本校なのは後の二つになります。つまり、同志社と立命館ですね。他にも京都と名のつく大学はたくさんあって。外国語、産業、精華、文教、学園、男の人は無理ですが女子大もあります。そして仏教系もあります。その名も仏教大学、大谷大学と龍谷大学と。実は京都は大学が多い街なのですよ。で、どこの大学を考えているのですか?」そんなに多いと思ってなかったのでびっくりだ。

「そんなに多いと大変ですね?」

「専門の大学が多いので、そんなに難しくはないと思いますが。問題は志望する学科によるものだと思います」

「どうもありがとうございました。資料はどう取り寄せたらよろしいのでしょうかね?」

「それは各大学のホームページからでいいと思いますよ。それかこちらでいくつか取り寄せましょうか?」

「それはいいです」

「わかりました。ちゃんと決まったら試験対策で頑張っていきましょう」そういわれて後にした。

予備校から家に帰る途中の本屋に行き京都の大学の本があるか探したが。そこにはなかった。(京大はあった)家に帰り夕食のとき母親に話してみた。

「オレ、京都の大学行きたい!!」

「は?」「ハァ?」歩美のやつもいるわけで二人の声がステレオで来た。

「お兄ちゃん意味わかんない。何で京都なの?」

「何で京都やの、ここから通える大学でええやんか」母親の声だ、うちの母ちゃんは元々大阪の人間で、東京に来て何十年もたつのに関西弁が直らない。

「この間のTV見てさ、京都の大学はええなと思ってさ。なんか関関同立ってあるみたいだからそこにしようかと思っている」

「お兄ちゃんヤバイ奴だと前から思っていたけど、もっとひどくなっていたとは・・・」

「なんか変か?」

「普通地元に近いところ選ぶでしょ」

「わかったけどどうやって通う?」母親が聞いてきた。

「どうしようか、京都のアパート探すよ」

「ちょっと待ってね」と、母親はいきなりケータイを取り出すとどこかに電話をし始めた。

「あ、どうも私です。いや息子の透がそっちの大学に行きたいって言っているのだけど、かわろっか?」母親はケータイをオレに差し出す。

「誰?」

「お祖母ちゃん」そう聞いて受話器をとる。

「オレ透、お久しぶりです」

「ずいぶん大きくなったね、というか今年顔見せに来よったね」

「いいえどういたしまして」

「なに、トオル関西の大学行きたい?」

「関西のというか、京都の大学にいきたい」

「ほんなら京大?」

「いや京大は無理だから。関関同立があるみたいだから、そのうちの同立にしようかと思って」

「なら、うちから通ったらええねん。近鉄で一本やし。待てや、立命は遠いから同志社にしとき」

「何で?」

「立命は滋賀に行かなあかんし西大寺から通うのも大変や。同志社なら本校は今出川やし、もし田辺に行っても西大寺から一本で通える」

「今出川?田辺?どこ?」まったく聞いたこと無い地名だ。

「メンドイから自分で考えとき。どちらにしたって受かったらお祖母ちゃんが全部出したるさかい、安心して頑張ればええねん」と言って切られてしまった。

「同志社行けってさ、受かったら全部出すって言っている」

「マジで、お兄ちゃん行くの?まあがんばってね」歩美はあっさりしている。

「お祖母ちゃんがそういうなら頑張りなさい」と、母ちゃんに言われて同志社を目指すことになった。ちなみに今出川が本校で、田辺(京都府京田辺市)に田辺キャンパスと言うのが有ることが分かった。西大寺から田辺のキャンパスまでは乗り換え無しで行けるらしい。(今出川とは京都の市内であることが分かった)今後の流れは省略してしまうが、オレは何とか頑張って同志社に受かってしまった。同志社一本しか受験していないのでもし落ちていたらこの人生大きく変わっていたのであろうと思う。

3)

オレはそんなわけで、おばあちゃんの家である大和西大寺から大学に通う事になった。オヤジに大学合格したことを伝えたら「まあがんばりや」で終わった。もっと上を目指して欲しかったのだろうか。その時どこに居るのか聞いたところ南アフリカ共和国にいて、ダイヤモンド鉱山のなにやらとかをしているらしい。(オヤジのしていることはオレには難し過ぎて理解できない。)

お祖母ちゃんは住むに際しての条件があって、アルバイトをして月一万円をメシ代で渡せというので、京都市内のコーヒーショップ(大手ではないが市内では有名)で夕方からバイトしている。大学はというと   学部で、一回生と二回生は田辺のキャンパスで学び。3,4回生は上京区の今出川でということになっている。田辺のキャンパスは西大寺から電車で20分位の興戸こうどにあり、JRで行くと(西大寺の近くにJRの駅は無いが・・・)その名もずばり同志社前と言う駅から直ぐなのだが、先ほど書いた興戸と言う駅は急行が止まらないのでかなり不便だ。そういうわけでその先にある新田辺からバスを使う事が多かった。さて、関東と関西では大学生の呼び方が異なるようで、一回生・二回生なんかは関西独特の言い回しだ。普通は一年生・二年生なのに。何故かは詳しくないので調べて見て欲しい。

三回生になって就職についてそろそろ真剣に考えないといけない時期に差し掛かってきたのであるが。無論院生になるつもりは全く無い。そこまでやるために大学に入ったわけじゃないのでどういうところに入ろうかと絞り込みを始めなくてはいけなかったが、趣味を生かす職業はやはり無理がありすぎた。京都には某有名アニメ制作会社があるが、芸術美術が酷いのは以前から変わりないし。俺の周辺はそういう系統に長けている人が多すぎて一目見て内定が取れそうな感じだ。大学の就職相談室にちょっと足を伸ばしてみると色々な会社の募集予定表が所狭し張られている。

「透、決まったか?」同じゼミのヤツが話しかけてきた。こいつはオレよりアニメ等に造詣が深く。よく日本橋へ一緒に出かけることもある。なんとこの男はアニメ製作の会社を中心に受けるつもりらしいが、実際何社からか事前アプローチが来ているらしい。パソコンの動画投稿サイトに自作アニメを投稿していて、何万回視聴と、とてつもない数字を叩き出している。

「なかなか決まんなくてねぇ」

「オイ透、お前絵は下手だけどそれなりに演出はやれるじゃないかその腕生かしてテレビ局受けてみろよ」ちょっと言い方はカチンとくるがそんなの気にしない。

「テレビ局?」まったく考えていなかった職業だ。

「アニメって作るのも仕事だけど、それを流してくれる所が無きゃ商売にならねえ。トオルがテレビ局にいればトオルの一押しで放映できるし。もし視聴率が取れれば次のアニメに金掛けられて良いもの出来るし、トオルも株が上がって一目置かれる存在になるし」なんか自分中心な気もするがオレにも悪くない話だ。

「でも関西のテレビ局の募集が多いな、キー局じゃ無きゃ無理じゃねえか?」

「バカにしちゃいけないぜ、名○○コ○ンは関西のテレビ局からの全国ネットだぜ」

「あっそうか、真実一路だもんなあ」確かに言われてみればそうだと思い募集予定を見る

 なにわテレビ アナウンサー職 技術職 その他 若干名

 テレビ梅田 アナウンサー職 技術職 その他 若干名

他にも関西地区を放送するテレビ局と、関西だけじゃなく中国・四国・九州を基とするテレビ局の募集予定がいくつかあるがなぜか関東キー局の予定表が無い。

「キー局が無いのは何故なんだろうな?」

「キー局は関東周辺の大学から取るつもりかも知れないな」

「聞いてみるか?」一応そうオレは言ってみるが。

「たぶんネットからエントリーかけるようになっているのじゃねぇか」そういわれるとそういう気もするが、実際のところキー局を受けるつもりはまったく無かった。取り敢えずなにわテレビとテレビ梅田の2社と趣味が使えないときの抑えとして総合系の会社を探すことにした。

4)

エントリーシートを提出したのはテレビ局が二社と、オヤジのライバル会社である商社の糸中正商事、そして関西基盤の私鉄の4社にしたが結果はというと。


二次選考の結果のお知らせ

                             糸中正商事株式会社

和泉 透様

過日は当社の選考にお越しいただき誠に有難うございます。選考結果でございますが、十分検討を重ねました結果大変申し訳ありませんが、ご希望に沿いかねる結果となりましたことをお伝え・・・・


と、なんとテレビ局以外不採用となった。(鉄道会社は一次で不採用)明日は難波にあるなにわテレビの採用試験だ、その次の日は大阪の梅田にあるその名もずばりテレビ梅田になる。

「何で三友受けへんかったん」祖母ちゃんの声だ。

「何でオヤジと同じ会社行かなきゃいけないのだよ」

「糸中正にしたと聞いてこいつアホかと思ったぞ」

「アホで結構だ」

「テレビ局とはこりゃ受からんわけにいかんなぁ。トオル二社とも不採用やったら東京帰り!」

「えっマジ!」

「マジやで、これ以上居て貰うわけいかんからのう」かなりやばい事になってきた。受かるかどうかも自信は無い。

「受かるようになんか願掛けでもしておかないと無理かもなぁ」今までこんな事はしたことは無いけど、今年は八坂さんに北野さんと京都は有名な寺社には行ったし、それのお守りは何個か買った。

翌日、おばあちゃんが採用のおまじないと言って、お祖父ちゃんが持っていたスーツ(何故かオレにぴったりだったのは驚きだ)と、ネクタイをつけて難波まで行った。(ちなみにお祖父ちゃんはオレが中学のころに亡くなってしまった。)

会場はテレビ局ではなくとある大きなホテルを会場に実施された。オレはアナウンサーではなく技術職のそちらの会場に行った。受ける人数は見てくれで20~30人ぐらい居たと思う。この中から絞り込まれて若干名になるのだ。(まあ多分もっといた筈だがオレが数えてなかったのかもしれない、後で聞くと100人位居たらしい)

人数が多いので集団面接になった。これが一次選考で、昼の休憩を挟んで結果発表され通過者が二次選考に進む。二次選考の結果は後日通知されるようだ、三次がこの時点に於いては有るのか分からなかった。

一次選考の集団面接はなんというか分からないが通過した。合否の発表方法は昼休憩後集められた部屋から呼ばれて違う部屋に移動するわけだが、呼ばれなかったら不採用でそのままお帰りとなるという。オレは中間時点で呼ばれたのでよかったと思う。

「はい、これより二次選考を開始します。なおこれが最終選考となります。先ず筆記試験を60分間実施します。そのあとお一人ずつお呼びして個人面接を実施します。それが終わりましたら各自お帰りいただいても構いません。合否判定結果は後日郵送にて送付いたします。まもなく試験を開始いたしますので、お席にお座りいただき鉛筆、シャーペン、消しゴム以外は机の上に置かないでください。それ以外は鞄等にしまって机の横ないし下に置いて下さい。試験は60分間です、始めの合図があるまで配られた問題用紙と解答用紙は開かないでください、触らないでください」試験管の指示に従い、オレを含む受ける人はめいめいの席に座って先ずは準備をする。それから試験官が言った。

「試験は60分間ですが、30分経過後は既に終了した人は手を挙げてください。問題用紙と解答用紙は裏返して起立後退場してください。再入場は一切出来ません。不正行為、再入場は不採用の対象となります」と注意事項が言われて試験が始まった。試験内容は入試レベルとそんなに変わらなかった。一応見直しを何回かやっても15分以上あったので手を挙げて退出した。早い人は30分経過後すぐに手を挙げている人がいるように感じた。

次は個人面接で、順番的には中間ぐらいで呼ばれた。面接官は2人で交互に聞いてくる。何故オレみたいなのが来たのか不思議そうな感じの面接に思えた。

面接も無事に終わりちょっと楽になったオレは、たまにはプチ贅沢をしようと近鉄大阪難波駅から特急に乗ることにした。近鉄は殆どの路線に特急が走っていて気軽に利用できる。難波から奈良に行く特急はオレの降りる大和西大寺に車庫がある関係上、名古屋と大阪を結ぶアーバンライナー等の列車が回送ついでに客を乗せているので、いい時間にあたるとふかふかの良いシート(決して他の車両が悪いという意味ではないので念のため)にゆったり座って帰れるし、コーヒー一杯分の料金を追加するだけなのでプチ贅沢を味わえるのだ。しかも会員になると携帯で指定券が取れるので窓口に並ばなくてもいいのだ。(言っておくが近鉄の回し者ではないぞ。)

ちょうどいい時間に窓側のシートが取れたので、足早に改札を抜けてホームへと急ぐ。まぁ特急は便利なのであるが、いかんなところが一つある。それは特急の止まる駅と、特急券のいらない一番早い快速急行との停車駅は2つしか変わらない。(快速急行の停車駅は、大阪難波、日本橋、上本町、鶴橋、生駒、学園前、大和西大寺、新大宮、近鉄奈良で、特急はこのうち日本橋と新大宮を通過する)だからゆったりプチ贅沢して座るほうを選ぶか、早いうちから待って並んで乗っていくかの二つしかない。ここ最近は阪神と近鉄が直通するようになり快速急行が神戸方面に行くようになってから大阪難波でも座れなくなっている。

まぁそんなうんちく話はさておき車内に乗り込む、皆知っているのか分からないが結構混雑しているほうだ。座席指定列車なので座れないとかのトラブルはないと思う。

ちょうどオレの座ろうとした座席の通路側には女性が座っていたので。

「僕の席そこなのですけどいいですか?」と、窓側を指差すと。

「すみません」とそそくさと立って譲ってくれた。オレはかばんを網棚に載せ、先に買って置いた缶コーヒーを窓側に置く、それまで聞いていていったん外したスマホから繋がっているイヤホンを耳につける。(聞いているのは、FM放送だ。いつも南森町と京都の放送ばかりなのだな。)

そして今日頂いたTV局の資料を読んでいると発車時刻となり発車する。

「近鉄をご利用いただきまして有難うございます。この電車は奈良行きの特急、奈良行きの特急でございます。停車駅は、上本町、鶴橋、生駒、学園前、大和西大寺です・・・」

「あのー」隣の女性が何か話しかけてきた。もしかしてイヤホンかなと。

「すみません、大きかったですか?」

「いえ、違います」

「???」じゃ、なんだろう?一応ボリュームは下げておく。

「それなにわTVですよね?」今日面接行った会社の資料を読んでいるのでなにわTVの資料だ。

「はいそうです。今日採用試験だったもので、一応資料の見直しを」

「そうですか、今日ホテルで試験でしたよね。うまく行きました?」ムムッ、この女性も受けた人の一人だろうか?でもこの女性を会場で見た記憶は無い。アナウンサーの方で受けたのだろうか。

「どうなのですかねぇ、二次選考まで行って後は通知待ちなのですよ」

「へー、じゃあ大体行けそうかも知れないですよね」

「そんな簡単にうまくいくとは思えないですけどね」

「あっ、なにわ一本なのですか?」

「いやぁ、明日は梅田に行くつもりです」誰だか分からないけどチョット話が合いそうに思えたのでつい喋ってしまった。

「ふーん、面接の人に梅田も受けるって言った?」

「普通そんなこと言いませんよ」

「ならば受けない方がいいよ、あなたお名前は?」

「和泉透って言います」

「イズミ君ね、わかったイイ?明日はテレビ梅田の試験は行っちゃダメだよ。行ったら二つとも落ちるからイイ?」そう言って車内アナウンスが「学園前、学園前…」と流れてくると。

「それじゃアタシはここで降りるから、明日はゼッタイ行っちゃダメだよ。じゃあね」そう言って足早に降りて行った。列車が動き出して。

『あの子誰だったのだろうか?』と、それしか思わなかった。

『どっかで掛け持ちしたことばれるからヤメロという意味なのだろうか』

色々と考えていたら自分の降りる駅を通り過ぎて奈良まで連れて行かれてしまったのは今でも内緒の話だ。ちなみに翌日は試験受けるつもりで行ったが、昨日の言葉が気になって行く気になれず日本橋を一日中ぶらぶらしてしまった。(またフィギアが増えた)

5)

試験が終わってから数日が経ったある日オレは家にいた。この日の講義は休講なのだが、夕方からのバイトがあるのでゆっくりとパソコンでネットをしていた。しばらくしてのどが渇いてきたので冷蔵庫に飲み物をと思い開けてみると無かった。

「飲み物買いにコンビニ行かないとなぁ」と、独り言をつぶやいて出かける用意をする。祖母ちゃんは会合と言って有馬温泉へ一泊二日で出かけている。

つっかけを履いて外へ出るとちょうど郵便配達の兄ちゃんがポストに封筒などを放り込んだところだ。

「おっ、郵便が来ているな」ポストを開けてみるとなにわテレビの封筒があった。

「結果が来た、キタ」封筒はちょっと重いからもしかするとだが。重いから採用、軽いから不採用というのは簡単には決めつけるわけには行かない。実際のところ某鉄道会社から来た通知は封筒が厚かったが不採用の通知のほかは不要のエントリーシートと、おみやげ(そうではないと思うが、そうとしか思えなかった)が入っていたので今回も気が気でない。


和泉 透 様                                 なにわテレビ放送株式会社


(中略)

過日は当社の新卒採用試験にお越しいただき誠に有難うございます。当方で選考の結果技術職社員として採用することといたしました。下記の通り入社式を実施いたしますので、

(中略)

日程 20XX年XX月XX日

場所 ―――――ホテル(――線――駅より徒歩――分)

当日は参加の際、三親等以内の方との同伴をお願いします。(但し、18歳未満の男女を除く)三親等以内である証明書類を必ずご持参ください。

特段の事情により上記の条件を満たせない場合代理人を充てることが可能です。(当日受付にてお申し出ください。)

入社式後新人研修合宿を実施しますのでそれなりの準備をして参加してください。

(中略)


「やったぁー」この喜びを誰かと分かち合いたい気分だが、あいにくお祖母ちゃんは家にいない。早速家に電話だ。

「もしもしオレだけど?」

「オレオレ詐欺か?」

「あれっ、あゆに掛けてしまったか?」何故か知らんが、歩美に電話していた。

「どうしたの?何かコワレタ?あっ、すでに…」

「コワレテないよ」

「あっそう、今忙しいのよ。旅行の計画たててさ」

「どこ行くの?」

「京都!!」

「海外違うのか、普通」

「ツレが京都で舞妓さんのコスプレできるからって、それやりたいみたい」

「ふーん」確かにそういう店が市内には何軒か存在するが。

「で、用件は?」

「母ちゃんにするつもりがあゆにしちゃったんだよな。良い報告しようとしたら祖母ちゃん温泉行ってしまった」

「丁度よかったじゃん。お母さんも箱根に一泊二日でママオフとか言って夕方まで帰ってこないし、邪魔しないで電話するなって言われた」二人とも何の気が合うのか知らんが両方とも温泉行っている。

「今日採用通知が来たんだよ」

「え、どこどこ?」

「テレビ局」このあと間があった気がするけど。

「じゃあ、東京戻ってくるの?」

「いや戻らない。地元のなにわテレビって言う会社に決まった」

「なに、知らない会社だね。いわゆるローカルテレビ局?」

「そう言われるとそうかもしれないけど、結構有名なんだけどな」

「でもあんまり有名人来なさそうなTVって感じ。ローカルタレントのサインじゃ貰っても意味ないし」

「まぁ、折角決まったしあとは卒論とバイトだけだ」

「いいなあー、アタシは論文が超しんどくて、うちの大学厳しいんだもん」

「しゃーねぇだろ。てめぇが決めたんだから」

「でもさ、決まったということはヒマになるんだよね?」

「確かにそうだな、でも入社式まではそんなに間は無いが」

「京都行くから案内して」

「いつ?」

「決まったら電話する。ガイド役頼むわ、これから違うところ電話するからじゃあね」と、切られた。こちらの返事を聞きもしない。まぁいつもお願い事をするときにOK,ダメの確認を一切したことがない。

さてどうするか、まずバイト先には採用決まったから辞めることを言わないといけないし。祖母ちゃん、父ちゃん、母ちゃんには結果を言わないといけないし。全然手をつけていない論文を完成させないと・・・。そうだ誰を同伴させるべきか決めないと。と、やることの多さに頭をフル回転させ始めた。

祖母ちゃんと母ちゃんに採用の報告をし、同伴の話を切り出したらなんと、歩美が行くと言いやがった。規定には問題は無いが、唯一言「大阪行きたい」だった。TVタレントでも来ると思っているのだろうか。

バイトは辞めた。店長はまだいてほしいと思っていたらしく、全部だめだったら幹部社員に推すつもりだったらしい。

日を改めたある日の三連休、オレは京都駅の八条口にいた。約束どおり京都のガイドを務めるべくやってきた。来るのは歩美を含めて三人だという。

「お兄ちゃん待った?」

「いや」と、普通に対応する。オタオタしいのがばれるとあゆが困ると思い今風の大学生(今風って・・・)の格好でやってきた。

「はじめまして、歩美さんの友達のサエっていいます」

「はじめまして、同じくトモって言います」二人とも美人というか可愛い系だと思う、あゆが・・・。

「お兄ちゃんなんか言った?」

「何にも言ってないぞ、空耳じゃねぇか?」

「二人とも手を出しちゃダメだよ、一人はモデルさんだし、もう一人は女優さんなんだよ」

「へー、見たことないなぁ」

「あの、東京を中心にやっているからたぶん流れてないじゃないですかネ」

「この間まで映画を撮っていて、来年には公開するかなってところです」と、言う。ちなみにモデルがサエって子で、女優はトモって子だ。

「オレ関西のテレビこれから良く出るから、二人とも縁があったら呼びますよ」

「タレントさんですか?」

「いや、うちのお兄ちゃんローカルのなにわTVの社員になれたんだって。だからTVに出られるらしいよ」

「なにわTVって何チャンネル?」

「9Ch,今日泊まるなら見られるよ」

「東京だとどこのTV局だろう?」トモちゃんが不思議そうだ。

「実は私も知らないの」

「オレもな、さあ早く行こうぜ。着付けって時間かかるからパパッとしないと」と、三人を連れて駅近くのタクシー乗り場へ向かう。

「場所はどこなん?」オレは聞くと、今回の立案者であるサエが紙を出して。

「キョウトシシタキョウク××○○トオリウエル△△マチって書いてある」

「ちょっと待って、それネタ?」

「えっ、違うの?」どうも素でそう読んでいるようだ。

「ちゃんと言うと、キョウトシシモギョウク××○○トオリアガル△△マチ」

「じゃあ、トウイル、サイイル、シタルは?」

「ヒガシイル(東入る)、ニシイル(西入る)、サガル(下る)」

「京都の区の名はなんて読むの?」

東山ヒガシヤマ左京サキョウキタ上京カミギョウ中京ナカギョウ下京シモギョウ右京ウキョウ西京ニシキョウミナミ山科ヤマシナ伏見フシミだ」なんか某有名おバカタレント(思った人を想像してみよう)と相手しているみたいだ。

「あーよかった、トウザンクとかヤマカクと読むかと思った」

「とにかく行こう」と、タクシーでその場所に向かった。着いたら着いたで大はしゃぎしている、オレは別室で一人さびしく茶を飲んでいた。そして終わって移動。

「ここは?」とある通りで足をとめた。

「なにこの唐草模様のビル?」三人が上を見上げているのはただのファッションビルだ。

「オレの聞いているFMラジオの本社」

「あんまり関係なくない?」そう言われてしまえばそうだ、ここは下京区四条烏丸下ルにあるCOCON烏丸ビル。映画館等がいろいろ入っているビルだが何があるかは調べてみてくれ。

「さあ次行こう、じゃあタクシー捕まえてオレの行っている学校に案内します」そしてタクシーで同志社の本校である今出川へ。

「すげぇー」と、サエが驚いた。ちょうど御所の裏手になるので緑が多い。

「お兄ちゃん、ちゃんとした大学行っていたんだ」

「それはどういう意味ダ!」あゆをぐりぐりにしてやった。「イターイ」

「私の先輩がここの創業者の奥さんの役していました」トモが言った。

「隣は女子大もあるよ」お隣は同志社女子大だ。

「京美人のお尻でも追っかけまわしていたんじゃないの」

「そんな訳なかろう、中はいるか?」と、オレが案内役で学内を回って学食を食べたり、生協でお土産を買ったりして過ごし。夕方はおばんざいのお店で夕食にした。そしてホテルで三人と別れオレは京都駅から近鉄で帰った。(明日は三人でいろいろ回るようなのでオレはお役御免ってわけだ)

6)

日は巡って入社式の当日。歩美は前日に新幹線を使って西大寺入りしてきた。ここから会場までは近鉄と地下鉄を使って向かう。

「お兄ちゃんキンチョウするね」(お前が緊張してどうする)

「バカ言え、これからが大変なんだよ」その通りオレは全く知識がないので手探りですべてやらなくちゃいけない。他の奴らは専門系ばかりだからある意味ハンデが高い。負けたらそれはクビしかないのだ。

「どんなゲストが来るのか楽しみだな」

「お前はそれだけか?」

「だって、パンフレットに○秘ゲスト登場って書いてあるからイケメンタレントかも知れないじゃん」

「まぁ、まず無いな。ここは東京じゃないんだぞ、関西だ。しかも大阪だ、○元の芸人のネタ笑いだろう」

「なんか去年はJAPAN-Zジャパニーズの○△□が来たって書きこみが有ったって、ここ最近はお笑い芸人来ていないようだよ」一体どこから調べてくるのか、オレでも知らなかったぞ。

「しかし初めて知ったよ、いつもと流れているヤツ一緒だし。テレビ関東のネット局なんだね」そう、なにわTVは東京のTV局テレビ関東のネットワークの一つだ。これについては後でおいおいふれておくので覚えておくように。

オレと歩美は地下鉄に乗り換えてとある駅で下車し、そのホテルに向かう。なんか同じ人っぽいのが何人かいるようだ。ホテルに入り特設の受付で受付を済ませIDカードを受け取り会場内に入る。特段席の指定は無いようで適当に腰掛ける。やがて時間となり始まった。

「これより二〇××年度なにわテレビ株式会社合同入社式を開催いたします。皆様ご起立ください・・・」と、まず社長の挨拶、会長の挨拶、先輩社員の挨拶と続き次は新入社員の挨拶となる。さて誰が呼ばれるのだろうか。

「新入社員を代表しまして技術課 和泉 透君お願いします」カメラがオレに来た。えっマジ?聞いてないよ。

「お兄ちゃん呼ばれているよ」

「あっ、はい」と、ゆっくり歩いてマイクの方に向かい一礼して。

「本日はお忙しい中を私たちの入社式にお越しくださいまして有難うございます。本日この場にいられたことは大変幸福だと思います。諸先輩方にはたびたびご迷惑をお掛けするかと思いますが、何卒ご指導ご伝達のほどよろしくお願い申し上げる次第でございます。では手短ではございますがこの辺で終わりたいと思います。ありがとうございました」大歓声の中を自分の席に戻る。

「お兄ちゃん今までで一番良かった」

「うん、ありがと」と、返すのが精いっぱいだった。このあと○秘ゲストが出たがこれはオレの予想通りお笑い芸人だったので歩美はここから不機嫌になったが、二組目に出た芸人は東京でも売れている人なので楽しんでいたようだ。

さて帰りは歩美とは別々になる。オレは新人研修でどこかへ泊りで行くのだ。

「お前ちゃんと帰れるか?」

「大丈夫!!心斎橋で買い物してからそのまま新大阪から新幹線で帰るから」

「そうか、気をつけて帰れよ」オレはそう言って次の場所へ移動する。外にはバスが止まっており、このバスで行くようだ。さてこれからどうなるのかはまさに神のみぞ知ることなのだろうか。



(次回に続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ