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醒めない夢  作者: なつな
6/21

5

今回はエマの母親目線の話になります



――私の娘は一体どうしてしまったのだろう

エマの母親のマリーは頭を抱えていた。



数か月に一度行っていたケリー家への訪問。

オーウェンの母親のソフィアといつものようにお茶をしながらお喋りしていると、慌てた様子のオーウェンがエマを抱えてやってきたのだ。

四阿でいつもの様に休んでいると、突然エマは意識を失い倒れたという。



そのまま眠り続けるエマを、ソフィアやオーウェンはケリー家で見てくれると言ったが、丁重にお断りして家に連れて帰ってきた。



それからは気が気ではなかった。

高熱を出し、ひどくうなされながら眠り続けるエマ。

医師に見せても原因がわからず、祈るように目が覚めるのを待つしかなかった。



エマは倒れてから三日間も眠り続け、ようやく目を覚ました。

目を覚ましたことに安堵していたのも束の間、エマは突然嗚咽を漏らしながら号泣し始めた。



医師が言うには、高熱で記憶が混乱しているのだろうという事だった。

どうする事も出来ず、しばらくは様子を見守る事しか出来なかった。



しかし、それからというものエマはあまり眠れていないようだった。

ひどい夢でも見てしまうのか、夜中に突然泣いたり叫んだりする事もあった。

だんだんと精気を失っていく娘を見るのは、胸を潰されるように辛かった。



ある日、昼間にエマが珍しく熟睡していることがあった。

最近はなかなか眠ることが出来ていなかったので、そっと寝かせたままにしていた。



目が覚めると、今度は突然わっと声を上げて泣き始めた。

エマは何を聞いても無言で頭をゆっくり振るだけで、それ以外の反応はない。

視線は何処か一点をぼんやり見つめたまま、時々何かを思い詰めるように顔を歪め、静かに涙を流している。



――本当にこの子に何が起きているのだろう

あの日も特にいつもと違う様子はなかったのに、突然倒れて目が覚めてからは様子が明らかにおかしい。

オーウェンにも聞いてみたが、倒れる前は変わった様子はなかったと言っていた。



昔から控えめで、自己主張をあまりしない子だった。

幼い時にあまりにも内気だったので少し慣れさせようと、貴族の子供たちが集まるお茶会に連れていった事があった。

それなのにそのお茶会で走り回ったあげく、怪我をした時には大変驚かされた。



それがきっかけでケリー家との繋がりができた。

夫のジェームズは喜んでいたが、マリーは少し気が重かったのも事実だ。

貴族の繋がりができる事は喜ばしいことだが、怪我を負わせたのはオーウェンのせいではなく、手当てをして運んでくれたのに、それを利用する形になってしまったのは不本意だった。



ケリー家を訪れた時、あまりのお屋敷の立派さに思わず息を飲んだ。

ジェームズはケリー家とあわよくば縁を繋ごうとすらしている様だったが、それはさすがに無理だと思ったので、失礼のないように無難に過ごそうと思っていた。



オーウェンの母親のソフィアに誘われ、子供たちと共に庭に出てお茶をすることになった。

ソフィアは格下相手になるのに奢った様子など全くなく、お話好きなのもあって、思いのほか楽しい時間を過ごすことが出来ていた。



次第にずっと座っているのに飽きてきたオーウェンは、庭を案内すると言ってエマを誘い庭の奥へ行ってしまった。

エマはまだ緊張しているようで、少し困ったような表情を浮かべていたが、そのままオーウェンに付いて行った。



その間にもソフィアとはたくさん話をした。

明るい金髪に透き通るように白い肌、そしてなにより青空を切り取ったような青く美しい瞳。

見た目も美しいが、気取った様子もなく気さくな対応をするソフィアに、マリーはすっかり彼女のファンになってしまった。



ソフィアの話によると、オーウェンは少し気難しいところがあるのだという。

あまり愛想もよくないので怖がられることも多いのだというが、エマを助けてくれたこともあったので本当はとても優しい性格だとマリーは思っている。



そんな話をしていると、オーウェンとエマの二人が戻ってきた。

最初はあんなにぎこちなさそうにしていたのに、なんと二人はお互いに笑みを交わしながら歩いている。

それを見て思わずソフィアを見ると、ソフィアもマリーを見ていて、二人はお互いに顔を見合わせ驚き合っていた。



それからは見せてもらったダリア庭園にとても感動したエマが、どれだけ素晴らしかったかをまるで夢を見るようなうっとりとした表情で語っていた。

確かにケリー家のダリア庭園と言えば、とても美しいと有名であちこちで噂になっているのを聞いたことがある。

ダリアはとても珍しい花で、あまり見かける事がないが、それが一面色とりどりに咲いているのはまさに圧巻だろう。



あまりにもエマが褒めるので、帰り際にソフィアはわざわざエマにダリアの花束を贈ってくれた。

それを嬉しそうに抱え、馬車の中でも延々とダリア庭園について語っていた。



それにしてもエマはダリアを見たのは今回が初めてだったはずなのに、ダリアが大好きだったなんて一体どこで見かけたのだろうと不思議に思っていた。

それがそのまま口に零れていたらしく、それを聞いたエマはなぜかムスッとした表情を浮かべていた。



それから何がどうなったのだろう。

ケリー家と縁談を組むと聞かされた時には、天地がひっくり返るほどに驚いてしまった。



ジェームズから聞かされた当の本人のエマは、私以上に驚いたに違いない。

そんな事もあったが、そこから今まで二人は穏やかに婚約関係を続けている。



エマはあまり自己主張をしないが、口に出さなくてもオーウェンを慕っているのがわかる。

今も数か月に一度の逢瀬の時間を心待ちにして、会える時は心から嬉しそうにしているのを知っている。

そもそも最初からエマはオーウェンに惹かれていた様で、それが日増しに深く募っていっている様に思えた。



いつもの様に出かけたエマが急にこんな事になってしまうなんて何が起きたのだろう。

もしかしたら何か酷いことをオーウェンに言われたのでは?と疑ってしまった事もあったが、オーウェンはエマにとても誠実に対応してくれている。

今も寝込んでいるエマに対して大好きなダリアの花をお見舞いに贈ってくれる程で、そんな心配は杞憂だろう。



オーウェンは目の前でエマが倒れたのを見たのもあってか、ひどく心配して頻繁にこちらの様子を聞いてきている。

もうひと月近く経とうとしているのもあって、直接お見舞いしたいとの申し出もあったが、今のエマに会わせても余計に心配をかけてしまう。

丁重に不自然じゃない理由をつけてお断りしている状態だ。



一体エマはどうしてしまったのだろうと心配していたが、それからしばらくすると、少しずつ食事をとれるようになり、日に日に落ち着きを取り戻しているように見える。

最近は話しかけると、ほんの少しだが会話ができるようになってきていた。



マリーは心から安堵した。

このままエマが消えてしまうのではないのかと不安にかられる事も多くあったからだ。

そんな時にオーウェンからまたお見舞いの花と手紙が届いた。



エマはよくオーウェンから贈られたダリアの花を眺めている事があった。

今回も喜ぶだろうと、マリーはさっそくダリアを花瓶に飾ってもらい、手紙と共にエマの元へ届けた。



ダリアの入った花瓶の手前に手紙は置いた。

エマは新しく飾られたダリアを見つめ、オーウェンからの手紙に視線を移すと、何かを考える様に黙ってじっとしていた。

きっと手紙を読むなら一人でじっくり読みたいだろうと思い、マリーはそっとその場を後にする事にした。




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