【8】
「行き止まりだぜ」
トゥルーが強い魔法の力を感じてすぐ、トルドがそう馬足を止めた。
木々と蔦の壁が石畳を砕き割り、空へむかって道を閉ざしている。
「どうしますか? トゥルー」
エルナンがそうトゥルーを見る。トゥルーは馬から飛び降りて、
「馬を戻しましょう。ここからは歩きです」
「大丈夫か? トゥルー、お前、顔色悪いぞ」
トゥルーの側に近づいて、ラウルがささやく。
軽くラウルをにらみつけて、トゥルーは続ける。
「大丈夫です。それよりめくらましをかけるので、そこに並んでください」
銀の剣の横に括りつけていた袋から、小さめの石を取り出す。
淡いピンクに見えるそれは光を当てる角度によって、色を微妙に変える。
トゥルーが石を親指と人差し指ではさんで頭上にかかげると、石はピンクから深い緑色の光を放ちだす。
「簡単な呪文ですから、どの程度この森に通用するか分かりません。十分注意してください」
言って、そのままぼそぼそと何かを唱え始める。その声が高まるにつれて緑の石の光が強くなり、やがてトゥルーの手から離れた。
『月の女神の加護を受けし聖玉よ。しばしの間対なす光より我らの姿を隠したまえ』
呪文が終わると同時に、石は純白に輝きメンバーをその光で包み込んだ。光は彼らの視力を奪うことなく一瞬に消え去った。
「なるべくオレから離れないで下さい」
そう仲間を見回して、今度は森に向かう。 空まで続くのではと思わせる木と蔦の壁に絶大な力を感じながら、トゥルーはとりあえず魔法の糸を探った。
心を落ち着けて目を細めると、絡み合った蔦の間に細かな文字が見え隠れしている。文字体は2つ。
魔法文字と古代魔法文字。
この2つの文字の組み合わせは、オーソドックスではあるが確実で強固な結界を作り出す、かなり高度なものだ。
これを解くには、文字と文字を繋ぐ結び目を探すしかない。
注意深く文字列をたどる。ゆっくりと糸のように連なる言葉を読みながら、綻びがあると思われる場所を探る。
そして、目の高さのところに巨大な蔦の塊の中の結び目をみつけた。
「これだ……見つけました、中へ入る準備はいいですか」
背後にいるメンバーが身構えるのを待って、トゥルーは結界解除の呪文を唱える。
蔦に守られた結び目の文字に、小さな隙間が生じる。
トゥルーはその隙間を狙い、『道』を通す呪文をぶつける。
ピシリ、と音がしてそこに人が1人通れるほどの穴があいた。
「さあ、行きましょう」
残った蔦をかき分けて、トゥルーはその穴をくぐった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次話も、よろしくお願いします。