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祭りの時  作者: 水瀬
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【7】

「トゥルー、待てよ」


 急に先に進んだトゥルーをラウルが追いかけてきた。


「どうしたんだ? 一体、何怒ってんだ?」

「怒ってないですよ、ちょっと疲れただけです」

「トゥルー」


 そう少し困ったような顔をする。トゥルーはラウルのその心配とも同情ともとれる表情が苦手だった。

 内心で大きな溜息をついてラウルを見る。


「本当に怒ってなんていませんよ。ここは森と神殿の魔法力が対立しあってる場所なんで、少し体力の消耗が大きいんです。ここから洞窟を見つけるまでですから、体力は残しておきたいんです」

「大丈夫なのか?」


 聞かれてもトゥルーには、答えようがない。

 何を大丈夫の基準にすればいいか、分からなかった。

 森に入って、帰ってきたものはいないのだし、ティラから教わった経典からだけでは情報不足すぎる。トゥルー自身にしたって、修行中の魔法使いの中途半端な実力で、空気までの敵の場所で6人全員を守り通すなんて、出来るわけがない。


「トゥルー?」


 答えを促す声にも、トゥルーは沈黙する。

 大丈夫ですよ、と言えばすむことだとは分かっていたが、トゥルーはどうしてもその言葉を言いたくなかった。

 神殿裏でのトゥルーの言葉に、何故メンバーが笑ったのか、何故こんなにも落ち着いていられるのかの理由をようやく理解したからだ。


―――オレのせい、か……。


 魔法使いが、いるということ。

 ル・シーニ大陸での魔法を使う者の数は、どんなに多く見ても50より少ない。見習いと呼ばれる者を含めたとしても80を数えるのがやっとだろう。そんな中、『遠征』のメンバーに魔法使いが選ばれたのは、奇跡といってもいい確率だ。

 メンバーにしてみれば、トゥルーの魔法に頼ろうと思ったって不思議ではないが、魔法に頼りすぎるのはよくない。特に今回のような場合は。

 もちろん、魔法力の強い場所で、魔法を使えるものは必要だが……。


「ラウル、オレの力は……」

「トゥルーさん」


 突然、言葉を遮られて、トゥルーとラウルはそろって振りかえった。

 目の前に真っ赤な髪が飛び込んでくる。

 今度は何を言われるのかと身構えたトゥルーに、スコットはにこにこと笑っている。


「そんな顔しないでください。なんだか話にくくなるじゃないですか」


 ラウルがトゥルーとの間に場所をあけて、スコットを入れる。


「すみません。えーと、時間のこともなんですけど、とにかくあまり気にしないでください」

「えっ?」

「みんなも分かってます。そりゃあ、魔法使いっていう存在は大きいし、頼らないとは言いませんが、僕たちみんな、必ず帰ってくるつもりです。だから、出来るだけ確実な方法を見つけて進みたいんです」


 思ってもいない言葉にトゥルーは目をぱちくりさせる。


「あ、これはトゥルーさんが来る前に皆で話し合ってたことなんですけどね。なんか気分を害したみたいなので、一応言っとこうと思って……」


 スコットはそこで少し言葉をとめる。


「知ってると思いますが、サウス族は元々この樹海に住んでいたっていわれてる一族です。僕の兄も、6年前この森に入って、そのまま戻って来ませんでした。僕にも責任があるので、僕は必ず戻らなくてはならないんです・・・えーと、ああ、だからその、あまりさっきのことは気にしないでください」


 最後の方は少し照れたのか、そう頭をかいている。

 トゥルーがいない間に、きっといろんなことが話し合われたのだろう。そして、トゥルーの力は森に対してかなりの有効性があると判断された。あの笑いは、余裕というよりトゥルーに対する激励といったところか……。


「……何か誤解があるようですけど、わかりました。オレはオレなりに、この『遠征』が成功するように努力します」


 とりあえずスコットの気持ちは分かった。

 全員が同じ気持ちではないだろう。でも1人でも自分の力でなんとかしようと思ってる者がいるなら、とりあえず今はいいことにしよう。

 トゥルーはそう頷いてみせる。


「トゥルー、俺たちは……」


 ラウルが何かいいかけたが、トゥルーは無視して前方をみた。

  この安全な道が切れるのは、もう少しだろう。神殿の力が弱まって、かわりに底知れない森の力が溢れてくるのが分かる。


「神の山、か」


 ここからが本番。トゥルーは小さくそう呟いていた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も、よろしくお願いします。

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