【6】
道は、樹海のだいぶ入ったところまで続いているらしい。
レンガで舗装された、街道と言ってもおかしくないその道は、しかし巨大な木々と蔦の壁に阻まれて、日の光さえ通さない。 トゥルーが灯した〝光〟の魔法でようやく先の道が見える程度だ。
「トゥルー、この道どれくらい続くんだ?」
ラウルのうんざりした声が、かなり後方から聞こえる。トゥルーは溜息をついて振り返った。
「まだそんなに進んでないですよ」
慎重に、しかし遅くなり過ぎないように進んできたのだが、ラウルには、
「退屈なんだよ。樹海といったら魔物の巣窟っていう話だろ? なのに、魔物どころか虫一匹いやしないじゃないか」
「魔物……って、ここは元々神の山なんですよ。魔物なんているわけないでしょう……」
あきれたように小さく呟いた言葉に、ラウルがわざわざ隣までやってきて、
「じゃあ、もっと早く道を進んでもいいだろう?」
と、むっとした顔をする。
「ちんたらちんたら、これじゃあ日のあるうちに樹海に入れるかだって怪しいんじゃないか?」
「途中にワナがあって、何かあってもいいんですか? ここは、樹海なんですよ」
「トゥルー、お前自分の言ってる事わかってるか? 魔物もいないのに、何でそんなに慎重にならなくちゃないんだ?」
「・・・もうすぐこの道は切れますよ。そしたら、そんなこと言ってられなくなります。ここを人から護るのはまともな植物だけじゃないですからね」
「それはどうゆうことです? トゥルーさん、ここには魔物はいないんでしょう?」
トゥルーの言葉に、スコットが口をはさんだ。
トゥルーは少し顔をしかめながらも、赤い髪の少年にむかう。
「ここは神の山ですから魔物はいません。でも植物や動物、そして一般に精霊と呼ばれるものが、神が残した過去の魔法を利用して今の樹海を作ってるんです。だから、この『聖道』を出て森の中に入れば、四方八方を敵に囲まれることになるんです」
「私達が想像する魔物よりタチが悪そうですね。どうするつもりです?」
と、エルナンまでも入ってくる。
「樹海の木々にはこの剣が有効なはずです。ティラ様の力がこめられてますから」
「敵は樹木ですか……ところで、洞窟の位置はつかめそうですか?」
「ここでは無理です。まだ太陽神殿の魔法力が強すぎて……中に入らないと正確な場所を見るのは難しいです」
そう、トゥルーは肩をすくめた。
エルナンは金の髪をかきあげる。
「時間稼ぎが必要ですね。どれくらい必要ですか?」
「半刻あれば、かなり正確な位置がつかめます」
「半刻ですか」
「そんなに持つか? 相手がどんなものかもわからないのに?」
考え込んだエルナンの横からタイロが顔をだす。
確かに、入った途端からすべてが敵という状況で、戦える時間といったら限られてくるだろう。
「少しの間はめくらましの魔法を使おうと思ってます。ただこの森でオレの魔法がどの程度通用するのかは分かりませんが」
「半刻あれは確実に洞窟の場所が見つけられるんですね?」
面とむかってそう聞かれては、否定することもできない。
この神の山をまもる樹海に渦巻く魔法のなかに、自分の魔法を張り巡らすことが、本当に半刻程度で行えるのかトゥルーにも自信はなかった。だが、それ以上の時間を言ったら、戦う気力さえ失われかねない。
「はい、それくらい時間あれば大丈夫だと思います」
「じゃあ、後はどこからこの樹海へ入るかですね」
「このまま進めば神殿の力が弱まったとこで、きっとこの『聖道』は切れます。そこを入り口にしましょう」
息を大きく吐き出しながらようやくトゥルーはそう言って、少しだけ馬足を早めた。
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