【56】
「ルーの提案はいつも突拍子もないのだ。ルーは止める間もなく、トルマに住む子供数人を神殿に連れてきた。彼らは「太陽の子」に選ばれる素質を持っていた。ルーは私に彼らを育て、太陽神と月の女神が出会ってからちょうど百年目の日に試練を受けさせるようにと言った」
「どうして、百年目だったのですか?」
聞いたのはエルナンだ。
ルーとティラは顔を見合わせた。
「それは、その…………感?」
ルーが、そう首を傾げながら言った。
「はぁ?」
メンバーは皆そう思っただろうが、声に出したのはトルドだけだった。
「あんたの感で、俺たちはあんな目にあったのか?」
「すまない。でも自信はあった!」
自信たっぷりにルーは胸を張る。
「感でしかなかったけど、長い時間がかかってしまったけど、私はちゃんと目覚めたじゃないか! 私の中にもう太陽神の力はない。今はまだ少ないが世界に太陽神の力が行き渡るのもそう遠くないだろう」
「長くって、その為にどれくらいの犠牲があったんだよ!」
トルドが叫んで、ルーに詰め寄る。
「分かっている。それも私とルーの罪の一つだろう」
ティラがそうトルドを制した。
「ルーは目覚めたが、数日でまた眠りに入ってしまった。
太陽神殿にはもう昔のように人を集める力もなく、神官も私一人。
私はトルマの長に協力を願い出た。トルマの長と神殿はそれから切っても切れない縁となった。
子供たちの親との調整や、希薄になった太陽神への信仰の復活させるには時間が足りなすぎた。
それでも、ルーが連れてきた子供たちとともに、百年目に二度目の『遠征』を祭りとしてを行った。その時は、やはり上手くは行かなかった。
その後は、長く一つの地にとどまることは避けるため百年の前半分ではル・シーニを周り、後半を祭りの準備に充てた。
ルーが目覚めるたびに、【太陽伝承】に新たな章を書き足したり、『遠征』に行く者を選ぶ基準を変えたり、試行錯誤を繰り返すと、何度目かの『遠征』からは数人ではあったが戻ってくるものもいたのだ。彼らの話と、概ね八十年から九十年の周期で目覚めるルーの感で、『遠征』はいずれ成功するときが来ると確信した」
「『遠征』は百年ごとですよね。いつから『遠征』は始まったのですか?」
「祭りとしての『遠征』は、十回目だ」
尋ねたトゥルーもだが、メンバーが息を飲む。
思ったより少ない数だが年数にすると千年だ。想像が出来ない長さだ。
「まさか、今回の『遠征』が本当に最後になるとは思わなかったが、今回の『遠征』はいつもと確かに違った。ルーは君たちが生まれる前に目覚め、君たちを選ぶよう言ったのだ」
「それも感なのですか?」
トゥルーは、ルーに向かって尋ねた。
「どうだろう? 今まで目覚めた時は、どうしたらいいかと考えると答えが出る感じだった。でも今回は、急に強く名前が思い浮かんだんだ」
ルーは言葉を選んでいるようだった。
「名前、ですか?」
「あぁ、そうだ。名前が浮かんだ。私はそれをティラに伝えた」
「君たちはまだ生まれていなかった。いくらルーでもまだ生まれてもいない者の名を言うのはにわかには信じられなかったが、暫くして生まれた子供に、その名をつける者が現れた。六人目まではすぐに分かった」
「それだけで、我々は選ばれたのですか?」
今度はエルナンが聞いた。
「それだけで信じたわけではない。何度か君たちに接触し調べさせてもらった。君たちは「太陽の子」に選ばれる素質を持っていた。ただ一人見つけられなかったのはタイロだった。まさか海を越えて最後の一人がやってくるとは思わなかった。だが、それが、今回最後になるのではという期待を大きくしたのだ」
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