【55】
ティラはふいと手を振った。
足元に広がっていた景色が消え、神殿の石でできた床が現れる。
「トルマの神殿でも、太陽神の力が消えたことに気が付いていた。私が戻ると恐ろしいほどの騒ぎになっていた。それからは、何年も話し合いの日々だった。
このまま永久に山を閉じた状態にしておくわけにはいかないと皆思っていたが、どうすればいいのか、誰も分からなかった。
そのうち、だんだん神官の数が減っていった。神官の数はもともと少ないが、太陽神の力が無くなってから魔法を使える者が少なくなり、宣託が無くなり子供たちを集める必要が無くなったこと、さらに、宣託がない太陽神殿に人々が関心を向けなくなったことで、神官のなり手がいなくなっていたのだ。
このままでは太陽神殿の存続の危機だ、と私たちは話し合いで出た案をやってみることにしたのだ」
「それが『遠征』ですか?」
トゥルーは思わず聞いていた。
「そうだ。最初は『遠征』なんて名前もなかった。なだかろうじて残っていた子供たちや、山で教育を受けた者たちに、宣託の試練を受けてもらうことを協力してもらった。それが始まりになる。だが、彼らは誰ひとり試練を乗り越えられず、山から戻らなかった」
「戻らないって、どうして……それは失敗じゃないか!」
悲痛な声でトルドが言うと、ティラが頷く。
「そうだ、失敗だった。彼らを犠牲にするつもりはなかった。彼らは少なくとも神の山を知る者たちだったから、戻らないとは思わなかった。私はすぐに山に向かったが、魔法をかけて山を閉じたのは私の筈なのに、魔法が強く絡み合い私ですら入れなくなっていた」
「彼らを山に送る前に調べなかったんですか?」
「調べた。調べたが、その時は分からなかったのだ。私が最後に森を出た時と同じように感じたのだ」
トゥルーの問いに、ティラは首を振った。
「そして、また何も変わらぬまま時がたち、人々に忘れられつつあったトルマの神殿に、気が付いた時には私だけが残っていた」
「年を取らないと気が付いたのはいつなんですか?」
「そうだな。たぶん、最後の一人を見送った時だったと思う」
精一杯だったのだよ、とティラは薄く笑う。
「私自信、あの頃は少しおかしくなっていたかもしれない。いつも何かに追われているような、そんな気がしていた」
「……なら何故『遠征』をはじめたんですか?」
「それは、私が一人になり十年ほど過ぎたころ、ルーが目覚めたのだ。ルーは目覚めると、トルマの神殿へ降りてきた。さっき君たちが見た方法で、だ」
「どうして自分が目覚めたかは分からないけど、目を覚ましたら自分の中の太陽神の力の使い方が分かっていた。だから上手く利用して、山から出てみた。神殿にはもうティラしかいないし、太陽神殿は荒れ放題だし、驚いたよ。そしてティラから『遠征』の話を聞いて、その方法は意外といけるんじゃないかと思ったんだ。何故なら【太陽伝承】で世界を創る神はこの地に住む人を守れと言っているだろう? なら神を人々が求めれば、太陽神をまたこの地に戻してくれるのではないかって思ったんだ」
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