【53】
「ティラ様、その時、この人はどこにいたんですか?」
トゥルーは、ちらちらとルーの方を見ながら尋ねた。
「東の国で太陽神が呼ばれた後、すぐにルーはトルマの神殿に連れ戻されていた。
だが、ルーをそれからどうするかが決まらなくて、そのまま神殿で暮らしていた」
「暮らす? あれは監禁というんだ」
ルーが、そうティラを睨みつけた。
「ルーはある意味犯罪者だったから、それは仕方がないだろう?
私たちだって話合ってはいたのだ。
もしルーを山に戻せばまた太陽神とのつながりが深くなるのではないか、外の世界におけばまた同じようなことが起こるのではないか、と。
結局、長い間結論は出なかった。そうしているうちに、太陽神の不在を知ったのだ」
困ったようにティラは頭を振った。
トゥルーはふと山のこと思い出し、さらに尋ねる。
「そう言えば、山の神殿は太陽神の力で動いているのではないのですか?」
「あれは、太陽神の力と言うより、あの山の力だ。そして、この世界の力でもある。あぁ、なんと言えばいいのか……」
ティラは少し考えるような仕草をして、眉を寄せた。
「太陽神の力は世界にいつも溢れていて、その力は根源ではない。太陽神が封じられても何年かは世界に力は残っていた。私たちが【魔法】を使う時は、太陽神の力だけではなく、この世界の力と合わせて利用されるのだ。だから太陽神が封じられても、神殿は変わりなく動いていた」
「山の神殿は私たちが作ったわけじゃないからね。壊れることもなかったし。どうやって動くかとか、そう言った細かいことは誰も知らない。ゆっくりあの仕掛けを見るのは、神殿に選ばれて自分の力を埋め込むときくらいで、普段は意識しない。もし誰も宣託を求めなければ、誰も太陽神の力が無くなったことに気が付かないまま、いずれ山の神殿はその動きを止めていたろうね」
ルーがそう言って肩をすくめた。
「埋め込む? それで、あの石にティラ様の魔法が見えたのですね」
「そうだ。」
ティラが頷く。
「太陽神の力が無くなったことに気が付いた後、あの時代の神官たちと太陽神の力が無くとも動くよう石の魔法を編み直したのだ」
「でもなら何故、山は閉じられていたのですか?」
「それは、閉じられたのではなく、閉じたからだ」
トゥルーの問いに、ルーが答える。
「何故」
「その答えは簡単さ。ティラと私が不老不死の存在になったから」
「トゥルーたちも気が付いていたろう? 姿が変っていないことに」
「……それは」
ティラに聞かれて、トゥルーは言葉を濁した。確かにティラの姿は初めて会った時から変わっていないような気はしていた。
母・マールよりも年上だとは知っていたが、何というか昔からどこか不思議な存在だったから、深く考えることはしなかった。
不老不死、と言われれば、納得してしまう。そんな感じだ。
「そのことにしても、太陽神の力が無くなったことに気が付いてから、さらに時がたってからだ。
今までにないことばかりで、我々の行動はどうしても後手後手になってしまっていた。
ルーをどうするかも重要だったが、世界から太陽神と月の女神の力が無くなったこと、宣託の儀式をもう行えないことを人々にどう伝えるかを考え、残っていた神官たちで、すぐル・シーニ大陸を巡り人々に太陽神と月の女神の罪について広めながら、太陽神の力が無くなったことで、世界にどのくらいの影響が出ているかを調べることにした」
「ティラたちがル・シーニ大陸全土を回るにはそれなりの時間がかかった。彼らがトルマを出ている間、私は閉じ込められたままだった。ひどい目に会ったと思うよ」
ルーはそう顔を歪め、ティラをまた睨みつけた。それから、大きく息を吐くと、少しだけ笑った。
「でも、そのおかげで、私は私の中に太陽神の力があることに気が付いたんだ」
「太陽神の力?」
トゥルーは思わず聞き返した。
「そう、太陽神の力だ」
「どうして……」
「私はどうやら太陽神と相性がすごく良かったらしい。だから、すぐに『太陽の子』になれたし、神の山以外でも太陽神を呼べたんだと思う」
「ルーからその話を聞いて、まさかを思ったが、ルーの瞳が変わっていた。神が『太陽の子』に選んだ時に現れる印―――七色の瞳に」
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