【4】
トルマ最大の建築物で、このル・シーニ大陸絶対の信仰を集める太陽神殿は、太陽神と月光神の出会いをモチーフに作られている。
中は3層になっていて、1階はあらゆる祭典を行うための天井の高いホール、2階は居住区と個人的な儀式のための聖室。そして、3階は正神官のみが入れる部屋があるといわれている。トゥルーはまだ見習いなので、3階に何があるのか知らない。
トゥルーたちは神殿裏から続く暗い通路を通って、ようやく神殿内にでた。 いつも締め切られた扉だったのでトゥルーもそこに通路があったことをはじめて知った。
深い闇から抜けた目に光が飛び込んでくる。手で目をかばいながらあたりを見ると、そこはティラやローサンがいた祭壇の上だった。眼下にひれ伏す人々の姿が見える。
「ここは?」
つぶやいたのはライグ=スコットだった。赤い髪と瞳を持つサウス族の数少ない生き残りの1人。サウス族は成人しても7・8歳の子供と同じくらいの身長しかないのが特徴だ。スコットもトゥルーより頭2つ分背が低い。
「ここは太陽神殿の祭壇の上です」
子供のようなスコットにそう耳打ちするのと、人々が顔を上げるのは同時だった。
「これより、『遠征出立』の儀式を始める。勇者たちよ、神の前に敬意を示しなさい」
ティラの声がそう促した。
どうしたらいいのか分からず戸惑うメンバーに、トゥルーが先になって祭壇の上にあるレリーフにむかいひざまずいた。
「人の子よ、聞きなさい。彼ら6人が我らの心を神に運ぶ者たちである。アルマイエ家のエルナン。ホーマン家のラウル。サウス族ライグ家のスコット。ケネクエス家のタイロ。アーネイス家のトルドヴァール。そして、バトラー家のトゥルー。彼らが神に選ばれし勇者であり、我らの心である」
人々の間になんとも言いがたいざわめきが広がる。同情と羨望と、自分にその不幸がめぐってこなかった事への安堵が含まれているのを、祭壇にいた者たちは感じとった。
「さあ、立ちなさい。勇者たちよ」
ティラは言って、両手を天井へむけて伸ばし不思議な言葉を唱える。
古典文字と呼ばれるル・シーニに伝わる最古の言葉。
簡単な祝福の言葉が終わると、ティラはその手をメンバー1人づつの頭にかざす。それで、儀式は終了だ。
「さあ、行くがいい、我らが希望よ」
高らかに宣言すると、トゥルーたちが通ってきた道への扉が音もなく開いた。
そこは光で溢れていて、さっきと同じ道とは思えないほど広く見えた。
メンバーは揃ってその道へ足を踏み入れた。
「すげぇ」
ラウルが感嘆の声をあげた。トゥルーも初めてみる光景だったが、壁に刻まれた絵と文字には見覚えがあった。
「……【太陽伝承】5-18『太陽の子』の成長をテーマにしたものですね」
「『太陽の子』…… 過去の『遠征の勇者』たちはこれを見て、何を思ったんでしょうね」
トゥルーの言葉にエルナンが寂しげにそう言った。
足を止めて壁を見上げていたメンバーが一斉にエルナンを見た。
皆その言葉の意味に声も出せずにいる。
「……今俺たちが考えてることと、同じことさ……」
沈黙を破ったのは、タイロだった。長い黒髪をゆったりと編んで、ほつれかけた赤いリボンで結んでいる。エルナンとは違った優雅さと気品、そして人を引きつける独特の雰囲気をもっている。
5年ほど前からこのトルマに住み着いた、いわくつきの人物だ。
「そう、……ですね」
スコットがそううなずく。それから微笑んで、
「ああ、でも、僕たちほど希望は持ってなかったと思いますよ」
「それは言える」
ラウルが相づちを打って、仲間たちは和やかに笑い出した。わけが分からずにいるのは、どうやらトゥルーだけらしい。
トゥルーが遅刻したその時間の分、彼らは彼らで何か交流があったのだろう。
穏やかな雰囲気のまま、メンバーは神殿の外を目指した。
神話の道は、まっすぐに彼らを危険な旅へと誘っている。
それがどんな危険な旅かも、知らされずに……。
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