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祭りの時  作者: 水瀬


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42/57

【41】

 神殿というものはどんな場合でも神聖な空気が流れている。

 たとえ長い間捨て置かれ人が立ち入ることがなくとも、その神聖さは失われることなく場を支配し、訪れる者の心に安らぎと敬虔さを与えてくれる。

 トゥルーたちが足を踏み入れた場所にもそれは存在した。


「ここは、太陽神殿で、いいんでしょうか?」


 室内を見回していたエルナンが、誰にともなくそう尋ねた。


「間違いなく太陽神殿、ですよ」


 トゥルーはそう大きくため息をついてから、正面の太陽紋に向かって礼を捧げた。


「左右に扉がある。行き止まりではないみたいだ」


 トルドが指差す場所、トゥルーたちが入ってきた通路と太陽紋とをちょうど分けるような形で左右に扉が1つずつ見える。


「どうする? 行ってみるか?」

「ここは太陽神殿だそうですから危険はないと思いますが……」

「どっちでもいいさ。気をつけるに越したことはないからな」


 両手を上げてトルドは言い、右側の扉に近づいた。そこではラウルがすでに扉を押し開いている。

 鍵もない扉は音も無く開く。トゥルーとエルナンもとりあえずその後に続いた。

 薄暗い中を軽く湾曲して伸びる廊下の両側に、いくつもの扉がならんでいる。


「居住区だろうな」


 ラウルがいいながらその扉の1つを開くと、寝台と小さな机が1つ置かれただけの小さな部屋があった。

 中をちらりと見ただけで、ラウルはすぐに隣へと向かい扉を開く。それを幾度か繰り返して、


「中はみんな同じだな」


 と、足を止めた。


「神殿の部屋なんてどこもこんなものですよ。自分の部屋なんて寝る以外に用がないですからね。……一応全部の部屋を見てみますか?」

「そうですね。誰かいるようには見えませんが、何か手がかりがあるかもしれません」


 トゥルーの言葉にエルナンが頷いた。

 メンバーは左右に並んだ扉をかわるがわるに開きながら廊下を進んだ。

 思ったよりも数はあったが、中の様子は皆同じで特に手がかりとなるようなものも無かった。


「これで最後か」


 廊下の終わり、突き当たりの壁にある扉の前で、トルドか言った。

 見た目は今までの扉と変わりないのだから中身だって一緒だろう、という諦めに似た声で。


「とりあえず入ってみようぜ」


 ラウルが言って、トルドは扉を開いた。

 不意にとびらから溢れ出すのは光。


「うわ」


 思ったより眩しい白い光に、トゥルー達は声をあげた。

 光に目が慣れるまでの一息、ようやく慣れた目でメンバーは部屋を見回した。


「ここは?」

「やけに散らかってますね」


 トルドが首を傾げ、エルナンが部屋の様子に感想を述べた。

 白い光にあふれた部屋は、はじめに入った神殿と同じくらいの広さがあった。壁は明るい色の絵で埋められ、足元には何か細かなものが床を覆っている。

 ラウルが足元に落ちているものを拾い上げる。


「玩具だ……」

「おもちゃ?」

「ああ、これ積み木だ」


 ぽん、と手に持っていたものをトゥルーへと投げる。

 掌にひやりとした感覚。さわり心地のいい木のそれは、まさしく積み木だった。


「こっちには剣だ! 昔はよくこれであそんだんだよなぁ」


 トルドがやけに嬉しそうに剣の玩具を振り回す。

 トゥルーは、トルドの脇をすり抜けて、奥の方へと進んだ。

 壁の一角の本棚の前、10人は座れる机でエルナンが真剣な目で何かを見ていた。


「エルナン、何を見てるんですか?」

「ああ、トゥルー……これですか? 絵本ですよ」

「絵本?」

「ええ、【太陽伝承】の絵本です。年齢ごとにあるんですよ。ほら」


 言ってエルナンは見ていた本を机に置く。細かな文字が並んだ本には絵があまりなく、絵本という感じがしない。

 トゥルーがまじまじと本を見ていると、エルナンは次々と本棚から本を出していく。

 一冊ごとに文字が少なくなり、かわりに濃い色使いの絵が増える。


「ちゃんと見たわけじゃないので、断言は出来ませんが、最初に出した本とこれと殆ど内容に変化はありません」


 エルナンが指差す2冊。1冊は字の多いもの、もう1冊は絵のみのもの。

 ちらりと見ただけだが、その2冊の内容はまったく同じものだった。


「私の覚えている【太陽伝承】よりもずっと簡略化されて―――」


 そこで一度言葉を切り、トゥルーを見る。


「簡略化というのは間違いですね」

「エルナン?」

「リジアさんの話からすれば、私達の知ってる【太陽伝承】とは違うと」


 パラパラとページをめくる。


「改竄の話ですか?」

「ええ、でも改竄というのも違うと思います。この本の内容は私の知ってる【太陽伝承】と同じです。まあ、違うといえば、主要な話だけで構成されているということでしょうか」


 エルナンは【太陽伝承】の中でも太陽神がこの地に降り立つという一番有名な場面を開く。

 山の上に太陽を背負う太陽神が降り立ち、麓からその姿にひれ伏すたくさんの人々が描かれている。


「この絵……」


 トゥルーは絵を見ての色使いに眉を寄せた。


「この絵どこかで……」


 呟いてふと本から顔を上げる。と目の前に本と同じ色使いの絵が壁に描かれていた。

 部屋中を見回して、それがすべて【太陽伝承】の場面だとようやく理解する。


「エルナン、この壁の絵。【太陽伝承】ですよ」

「ああ、本当だ。この絵本の絵ですね」


 自分が開いた本と壁をならべて見比べる。


「子供部屋に【太陽伝承】の絵なんて、神殿らしいといえばらしいよな」


 不意にトルドが現れて壁の絵を見上げ、そう言った。

 エルナンは本を閉じると、机の上の本と一緒に棚に戻す。


「遊び場というよりは、勉強の場なんでしょう」

「『太陽の子』の、か?」

「それは……」


 エルナンは、トルドの問いに肩をすくめた。『太陽の子』が何を意味するのか分からない今、答えようのない問いだった。

 トゥルーは壁に近付いて、絵に触れてみた。

 ざらざらとした絵の具の感触に混じって、指先を刺激する何かに首を傾げる。


「どうしたんだ?」


 様子を見ていたラウルがそう尋ねてくる。


「魔法を感じるんですが……」

「魔法?」


 トゥルーは目を閉じて流れを読もうと試みる。

 絵の奥のほうで絡まる魔法糸。ひとつじゃない力の流れはどこかで感じたことがあった。


「この感じ……」


 たくさんの違う力の集まりに眉をよせたトゥルーは、森に入る前にティラの力を感じた石を思い出す。

 石の中にあったいくつかの力を、絵の中に感じたのだ。

 ただ、あの石と違いこの絵の中にある力は反発しあうことなく見事に調和し、つけこむ隙さえ与えない。手を触れ、感覚を研ぎ澄ましてはじめてその力が存在するのが微かに分かる。それほどに緻密な魔法がかけられている。


「トゥルー?」


 肩を叩かれて、トゥルーは顔を上げラウルを振り返った。


「少し待っててもらえますか?」

「それはいいけど」

「もうちょっとこれ、調べたいんです」


 そう、絵を指差す。


「こんなことなら、あの時もう少しあの石を調べておくんでした」

「石?」


 トゥルーの舌打ちに眉をよせて、ラウルが聞き返した。


「ええ、森に入るときあったでしょう。大きな石が」

「……あ、あれか。あれとこの絵とどんな関係があるんだ?」

「それを今から調べるんですよ」


 首を傾げるラウルにそう言って、トゥルーは絵を見直した。

 トルマの中心に降りたったと伝わる太陽神。太陽神は月の女神に出会い、愛し合いやがて別れた。いつかまた出会う日を願って。

 だけど、太陽神がこの地に降り立った時はまだ月の女神のことも、そんな出会いがあることも分からなかっただろう。

 そして、この山の上の神殿がこんな風になることも。


「とりあえず、調べてみます」


 言って、トゥルーは絵に集中しはじめた。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も、よろしくお願いします。

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