【34】
ほどなくして、船は対岸についた。
小石に覆われた岸辺はメンバーが降り立つと同時に、白い光を放ちだした。
抗議も、質問さえする間もなく船からほおりだされた4人は、なすすべもなく遠ざかる船影を見送った。
「なんなんだよ、あの女」
船影が完全に見えなくなったところで、トルドがむっとして座り込んだ。
「納得いかない」
「納得がいかないのは皆同じさ。ほら、立てよ」
投げ出された荷物を集め始めたラウルが、肩をすくめる。
「納得いこうがいくまいが、先に進まなきゃないだろ」
「でもさ、ラウル」
「休んでる暇はないですよ。スコットとタイロを助けるんでしょう?」
駄々をこねるトルドを、エルナンが冷たい目で見た。
トルドは唇を尖らせる。
「でもさ、進んだからって本当にスコットとタイロを助けれる訳でもないだろ」
「行きますよ」
湖に背をむけて、エルナンが歩き出した。もう、トルドの言葉を聞くつもりもないらしい。
トルドが慌てて立ち上がり、トゥルーも後を追う。
「トゥルー、【太陽伝承】ではこの先何があるか書いてありましたか?」
「えーと、門と道だったと思いますけど」
「では、その門はあれでしょうか?」
エルナンが指差した。
前の岸辺と違い、崖があった場所に今度は岩壁が天へ向かってそびえていた。
そして、その岩壁の中央あたりに門がひとつあった。
半円形の門は船と同じ石で出来ていて、やはり白い光を放っている。だがその内側は暗く向こう側は何も見えない。
「暗くてよく見えないな」
扉の中をのぞきこんで、ラウルが言った。トゥルーも覗き込む。
「進みましょうか? 眺めててもしょうがないですからね」
「また誰か消えたりして」
トルドがそう笑った。
「冗談はよせよ……お前のそうゆう態度がタイロを危険な目にあわせてるんだぞ」
ラウルが顔をしかめて、トルドをにらんだ。
「お前だってだろ」
「何だと」
「遊んでる場合じゃないでしょう」
トゥルーが2人の間に割ってはいる。
「今は先に進まないと」
「……」
2人は顔をそむけて離れた。トゥルーは溜息をついて、門に向かった。
一応通れるかどうかを試すため、門の中へ手を伸ばしてみる。
少しの魔法を感じたが、害のあるものではなさそうだった。
「大丈夫みたいです。行きましょうか」
振り返ってそう言って、トゥルーは足を踏み出した。
重く暗い空気の中を数歩進むと、強い光がトゥルーを包んだ。
「うわっ」
手で目を覆って、ゆっくりと辺りを見回す。
どうやせ門は無事くぐれたようだった。
前方に垂直な壁に挟まれた、意外と幅広いまっすぐな道がのびていた。
舗装されていないが、平坦で小石1つ落ちていない歩きやすそうな道だ。
トゥルーは壁にそって空を見上げる。
「太陽……?」
光の発生源を目を細めて見ると、丸い大きな太陽が、壁と壁の間に暖かな色で浮かんでいた。
目が慣れ、道全体に危険がないことを確認してから、トゥルーは門の方へ振り返る。
門の向こう側に心配そうな3人の顔が見える。口々に何か叫んでいるが、何も聞こえない。
手を振って呼んだが、向こう側からこちらは見えないようだった。トゥルーはもう一度門をくぐって、3人に門をくぐるように言った。
「うわっ、眩しっ!」
門をくぐった途端、3人とも目をしばしばさせて、立ち止まる。前の場所が薄暗かったから、なおさら眩しいのだ。
「ここ安全なのか?」
「大丈夫だと思います。門以外に魔法力を感じませんから」
目が慣れ辺りを見回したトルドの言葉に、トゥルーは自信なく答えた。
「これが伝承の門と道なら、この先に『太陽の子』があるんですね。その間のことは分かりますか?」
「【太陽伝承】にはこの道以外のことは書いてないはずです。この道が伝承の道ならば、ですが……」
「……行きましょうか。少しでも先に進んだ方がいいでしょうから」
エルナンは確認するように頷くと、歩き出した。
メンバーは何処までも続く1本道を、黙々と進み始めた。
太陽はいつも頭の真上にあり、トゥルーたちと共に進んでいる。
「この道何処まで続くんだ? まっすぐなのに先が見えない、それになんか暑くないか?」
歩いても歩いても続く道に、トルドがそう呟いた。飽きているような口調ではない。
前も後ろも同じ風景が続いていて、先に進んでいるはずなのにそう感じない。
その上歩くにつれて、少しずつ気温が上がっているようだ。
「そう言えば、暑いかもな」
ラウルが太陽を見上げる。
「なんかさ、だんだん太陽に近づいてないか?」
言われてトゥルーとエルナンも空を見上げた。壁の高さも道の広さも変ったようには見えないが、太陽が壁の幅ぎりぎりまでの大きさになっている。
「この道少しずつ登っている?」
エルナンが言葉に、トゥルーは腰の袋から魔法石を1つ取り出し、歩いてきた方に向かって転がしてみた。
トゥルーが与えた力の分だけ転がった石は、そこで止まるはずだった。しかし石止まることなくゆっくりと転がり始めた。
ラウルが慌てて追いかけ、拾いあげる。
「ほんの少しだけ坂になってるんだな」
魔法石をトゥルーの方へ投げる。
「全然坂になってるなんて感じしないのに……」
「こうゆう坂って意外と疲れるんだよな」
トルドがエルナンを見ると、彼はまた空を見上げていた。
挑むような目で太陽を睨むエルナンに、トゥルーは不安を覚えて声をかけた。
「エルナン?」
「トゥルー、太陽はいつもそこにあるのに、何故私たちに証を求めるんだと思いますか?」
「どうしたんです?」
唐突すぎる質問に、トゥルーは眉をひそめた。
エルナンは片手で眉間を抑え頭を振った。
「大丈夫ですか?」
トゥルーはそう尋ねた。
「ええ、すみません。ちょっと考えことをしていたもので。この道は間違いなく山の頂上へむかっているようですね。急ぎましょう」
エルナンは、トゥルーの知っている穏やかな微笑みを浮かべた。だが、その顔色は少しも大丈夫ではなかった。
もう一度大丈夫かと尋ねようとしたが、エルナンはかまわず歩きだしてしまった。
「どうしたんだ、あいつ」
置き去りにされたトゥルーの横で、トルドが心配そうに呟いた。トゥルーはただ首を傾げるしかなかった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次話も、よろしくお願いします。




