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祭りの時  作者: 水瀬


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29/57

【28】

 スコットの気配を見失ったと言ってから数刻、トゥルーはひたすら魔法に集中していた。

 しかし思ったようには行ってないらしく、額にうっすらと汗を浮かべ、悔しそうに顔をゆがめている。

 メンバーはなすすべもなく、そんなトゥルーを見つめているしかない。


「もう……いいでしょう」


 不意にそうエルナンの声がした。


「ラウル、トゥルーを止めてください」

「スコットを見捨てるのか?」


 不思議そうな顔でタイロがエルナンを見た。


「見捨てる訳じゃありませんよ。少し話し合いが必要でしょう? トゥルーも少し休ませないと」

「上手い言い方だよな……まあ、トゥルーを休ませるってのは賛成だけどね」


 かなり含みのある言い方をしてトルドが立ち上がる。ラウルは溜息をついて、トゥルーへ声をかけた。


「トゥルー、少し休めって」

「え、はい」


 意外と早く目を開き、応じる。


「で、どんな感じなんだ?」

「何がです?」

「スコット、見つかりそうか?」


 ラウルの問いにトゥルーは眉をよせ、首を振った。


「見たとおりですよ」

「そっか」


 メンバーは木々間に開けた場所で、不機嫌な顔で座っていた。トゥルーとラウルはおずおずとその輪に加わる。


「トゥルー、疲れてませんか?」

「はい、おかげさまで。魔法が1つ減ったおかげで、少し楽になりましたから」


 エルナンに答えて、差し出された水を受け取る。


「スコットは見つかりそうか?」


 タイロが聞く。2度目の質問にトゥルーは肩をすくめた。

 一瞬だけ捕まえたスコットにつながる魔法糸は、小さな衝撃とともに途切れた。そして、どんなにさぐっても気配を感じることが出来なくなった。

 その上、エルナンをここに飛ばすまで存在した魔法が完全に消えてしまい、意識は伸ばしたもののお手上げ状態だったのだ。


「見捨てるっていう案も出ているんだけどね」

「見捨てる?」


 嫌味としかとりようのない口調のトルドに、トゥルーは聞き返した。

 エルナンが大きく溜息をつく。


「そんなこと言ってないでしょう? ただ、少し考えたことがあるんですよ……スコットについて」

「だから、置いてくんだろ。それでいいじゃねぇか」

「トルド、やめろよ」


 ラウルが止める。トルドは唇をかんで顔をそむけた。

 エルナンはもう一度大きな溜息をついた。


「言い方が悪かったようですね。行方についてですよ。トゥルーも考えたんじゃないですか?」

「それは……」


 それは確かに考えた。スコットがもし魔法をすべて受け入れてしまっていたら、と。


「リジアたちの話を思い出していたんです。スコットが見つからないのは、もしかしたら村に戻ったせいではないのかと」


 トゥルーの考えを読むように、エルナンが言った。


「スコットが『脱落』したってのか?」

「その可能性は高いでしょう」

「一体なんでっ!」


 エルナンの返事に、ラウルが膝を打った。


「何でというのを考えるより、今は……」

「出発した方がいいってんだろ、スコットを置き去りにしてさ。お前は決断できるだろ、簡単にさ」


 またも割って入ったトルドを、エルナンは睨み付けた。


「つっかかるのもいいですけど、少しは話を聞いてください。今すぐ出発すると言いたいですけど、それなりの理由があったほうがいいでしょう? 違いますか?」

「理由なんてどうだっていいさ、スコットを見捨てるのには変りないんだから」


 ひどくいらだつトルドに、トゥルーもラウルも首をかしげた。

 エルナンはそれを無視して話し出す。


「見捨てるどころか、助けるためにも先に進もうと言ってるんですよ。リジアの話を思い出してください。『脱落』したメンバーは記憶と自我を失って村にたどり着く。そして、やがて安らぎを得て、啓示を受け入れ精神だけの存在になる。スコットがもし村にたどり着いているなら、とりあえず私達より安全な場所にいることになります」

「それはそうですが」


 村にちゃんとたどり着いてなかったら?

 トゥルーはそう言おうとして、やめた。エルナンは続ける。


「問題はスコットがいつ啓示をうけるかです。もしスコットが啓示を受け入れるまでに村を解放出きれば」

「スコットを助けられる……」


 タイロが呟く。エルナンは大きく頷いた。


「進みましょう、先へ。一刻も早くスコットを助けるために」


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も、よろしくお願いします。

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