【28】
スコットの気配を見失ったと言ってから数刻、トゥルーはひたすら魔法に集中していた。
しかし思ったようには行ってないらしく、額にうっすらと汗を浮かべ、悔しそうに顔をゆがめている。
メンバーはなすすべもなく、そんなトゥルーを見つめているしかない。
「もう……いいでしょう」
不意にそうエルナンの声がした。
「ラウル、トゥルーを止めてください」
「スコットを見捨てるのか?」
不思議そうな顔でタイロがエルナンを見た。
「見捨てる訳じゃありませんよ。少し話し合いが必要でしょう? トゥルーも少し休ませないと」
「上手い言い方だよな……まあ、トゥルーを休ませるってのは賛成だけどね」
かなり含みのある言い方をしてトルドが立ち上がる。ラウルは溜息をついて、トゥルーへ声をかけた。
「トゥルー、少し休めって」
「え、はい」
意外と早く目を開き、応じる。
「で、どんな感じなんだ?」
「何がです?」
「スコット、見つかりそうか?」
ラウルの問いにトゥルーは眉をよせ、首を振った。
「見たとおりですよ」
「そっか」
メンバーは木々間に開けた場所で、不機嫌な顔で座っていた。トゥルーとラウルはおずおずとその輪に加わる。
「トゥルー、疲れてませんか?」
「はい、おかげさまで。魔法が1つ減ったおかげで、少し楽になりましたから」
エルナンに答えて、差し出された水を受け取る。
「スコットは見つかりそうか?」
タイロが聞く。2度目の質問にトゥルーは肩をすくめた。
一瞬だけ捕まえたスコットにつながる魔法糸は、小さな衝撃とともに途切れた。そして、どんなにさぐっても気配を感じることが出来なくなった。
その上、エルナンをここに飛ばすまで存在した魔法が完全に消えてしまい、意識は伸ばしたもののお手上げ状態だったのだ。
「見捨てるっていう案も出ているんだけどね」
「見捨てる?」
嫌味としかとりようのない口調のトルドに、トゥルーは聞き返した。
エルナンが大きく溜息をつく。
「そんなこと言ってないでしょう? ただ、少し考えたことがあるんですよ……スコットについて」
「だから、置いてくんだろ。それでいいじゃねぇか」
「トルド、やめろよ」
ラウルが止める。トルドは唇をかんで顔をそむけた。
エルナンはもう一度大きな溜息をついた。
「言い方が悪かったようですね。行方についてですよ。トゥルーも考えたんじゃないですか?」
「それは……」
それは確かに考えた。スコットがもし魔法をすべて受け入れてしまっていたら、と。
「リジアたちの話を思い出していたんです。スコットが見つからないのは、もしかしたら村に戻ったせいではないのかと」
トゥルーの考えを読むように、エルナンが言った。
「スコットが『脱落』したってのか?」
「その可能性は高いでしょう」
「一体なんでっ!」
エルナンの返事に、ラウルが膝を打った。
「何でというのを考えるより、今は……」
「出発した方がいいってんだろ、スコットを置き去りにしてさ。お前は決断できるだろ、簡単にさ」
またも割って入ったトルドを、エルナンは睨み付けた。
「つっかかるのもいいですけど、少しは話を聞いてください。今すぐ出発すると言いたいですけど、それなりの理由があったほうがいいでしょう? 違いますか?」
「理由なんてどうだっていいさ、スコットを見捨てるのには変りないんだから」
ひどくいらだつトルドに、トゥルーもラウルも首をかしげた。
エルナンはそれを無視して話し出す。
「見捨てるどころか、助けるためにも先に進もうと言ってるんですよ。リジアの話を思い出してください。『脱落』したメンバーは記憶と自我を失って村にたどり着く。そして、やがて安らぎを得て、啓示を受け入れ精神だけの存在になる。スコットがもし村にたどり着いているなら、とりあえず私達より安全な場所にいることになります」
「それはそうですが」
村にちゃんとたどり着いてなかったら?
トゥルーはそう言おうとして、やめた。エルナンは続ける。
「問題はスコットがいつ啓示をうけるかです。もしスコットが啓示を受け入れるまでに村を解放出きれば」
「スコットを助けられる……」
タイロが呟く。エルナンは大きく頷いた。
「進みましょう、先へ。一刻も早くスコットを助けるために」
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