表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祭りの時  作者: 水瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/57

【23】

暴力シーンがあります。

苦手な方はご注意ください。

 魔法を使う余裕がなかった。

 もうどんなにしたって、間に合わなかった。そして、どんなにしたって、自分の力では防ぎようがなかった。

 絡み合った糸が、メンバーを包み込む。トゥルーは目を閉じてそれが通り過ぎるのを待った。

 体の周りを風が通り過ぎ、体に魔法だけが纏わりついてくる。

 細い糸の塊は、何の障害もなく自然な動きで解けていく。見た目の複雑さそのものに高度な魔法なことがその動きで分かった。

 内側へと入り込もうとする魔法を防ぎながら、魔法の効力が何なのかを読み取ろうと意識を集中する。

 相手のない魔法は失敗したとき自分に帰ってくる反動は大きい。だが、対人の魔法を使うより気は楽だった。力の加減をしなくていいのがその理由だ。

 糸の動きと、その魔法列を読む。


「心に入り込むのか……嫌な魔法だな」


 蔦のように巻きついてくるからといって、体が動かなくなるわけではない。

 糸が見えれば振り払うことも可能なようだ。

 トゥルーは何個かの言葉を使い糸を断ち切ってみる。


「こんなことしても、キリがないか……」


 だからといって、入り込むのを許すのは嫌だった。

 心に作用するというのが分かってて、それを受け入れるには自分の心に自信もなかった。


「……どうしたもんか……」


 真っ白な世界を覆う魔法に、トゥルーは肩をすくめた。

 魔法の効力を読み取ろうとはしているが、その動きがあまりに速いので目が追いつかないのだ。


―――他のメンバーはどうしているんだろう?

 絡みついてくる魔法を払いながら、ふとそんなことを考える。

 魔法が見える者と、見えない者。

 どちらがいいとは言えないが、何も出来ないなら、見えないほうがいい場合もある。

 ありのままに受け入れて、流すように乗り越えた方がいい魔法だってあるのだから。


「びくついてても始まらないか……」


 一度魔法を受け入れて、その糸をたどってメンバーを捜す。それが1番手っ取り早い方法だろう。


「問題は、自分か……嫌だなぁ」


 隙あればすぐにでも絡み付こうとする魔法をしかめっ面で見やり、溜息をもらす。


「いつまでもこうしてても仕方ないし……」


 目を閉じ、体から力を抜くだけでいい。

 ただそれだけで、魔法はトゥルーを捕らえるはずだ。

 しばらく糸の流れを見つめた後、覚悟を決めて気合を入れる。

 

「さあ、こいよ」


 小さく呟いて、トゥルーは瞳を閉じた。



 ☆☆☆




 真っ暗ななかで、スコットは座っていた。

 強く膝を抱き込み、光がもれてるのとは反対側の壁に肩を押し付ける。

 ドキドキという音が口から溢れそうな気がして、何度も唾を飲み下す。

 息を潜め、震える体をさらに固くする。

 扉の向こうでは自分を探している大きな物音と、言葉になってない怒声が響いてくる。

 踏み鳴らされる足音にビクリと体が反応した。

 小さな音が上がった。


「やっぱり、ここにいたなあ」


 嬉しそうに声が告げる。

 人をいたぶることに喜びを見出してる、そんな声だ。

 スコットは、小さくした体をさらに小さくして、息を止めた。

 この災難が早く自分の上から過ぎ去ってくれることを祈って。


「出てこいよ。早く出てくれば、許してやるよ。さあ、兄さんが呼んでるんだ。出てこいよ」


 くすくす、笑う声が混じる。優しい声を作っているが、スコットは知っている。

 5歳年上の兄が、スコットを決して許すはずないことを。


「出てこない気かぁ? 母さんたちが帰ってくるのをずーとそこで、待ってるのか? それもいいよなあ。お前にはそこがお似合いさぁ」


 気味の悪い高笑いが続く。スコットは耳を塞ぎ、目を閉じた。

 しばらくして、ガタガタという音がしてきた。


「出てくる気ないんだよなあ。じゃあ、一生出てくるなよ。ていうかぁ。出られないようにしてやるよう」


 何か大きなものを運ぶ音がしばらく続いて、やがて静かになった。

 いつものように、扉の前に何かを置いたのだろう。

 狂ってるときの兄にはそれくらいのことしか思いつかないのだから。

 スコットはようやく力を抜いて、固くなった体を動かした。

 またいつ思い返して戻ってくるか分からない。だが、しばらくは安全なはずだ。

 台所の物置は内側から鍵がかかるようになっている。スコットの怪我が日増しに多くなって、見かねた両親が避難場所として作ったものだからだ。

 壊れた兄は上手くやっていると思っている。両親にも、他の誰にもスコットに暴力をふるってることがばれてないと思っている。

 だから、彼は両親が揃って出かけるのを狙って、スコットを追い詰める。追い詰めて、声も出せなくなるほど殴りつけ、満足すれば眠る。

 眠って、次目覚めれば何もなかったかのように、怪我したスコットに『大丈夫か』という言葉をかける。


「……」


 スコットは知らず何かを呟いた。

 唇が動いただけの言葉は、深い闇にのまれて、スコット自身の耳にも聞こえなかった。

 伸ばした足を引き寄せて、目を閉じた。

 この闇の中にいると、つい考えてしまう。


―――もし、自分があと2年遅いか、早く生まれていたら……と。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ