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祭りの時  作者: 水瀬


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20/57

【19】

 誰も、何も言わなかった。

 リジアはうつむいたままだった。

 トゥルーたちは、言葉の意味そのものを理解しようとしていた。

 そんな中、沈黙を破ったのは、ラウルだった。


「話が、さ、何か、飛びすぎじゃあ、ないか?」


 さすがに声がうわずっている。


「なあ、トゥルー」


 話を振られても、トゥルーにもエルナンにも答える余裕はなかった。

 リジアの言ったことを考えるので精一杯なのだ。

 またしばらく沈黙が流れ、ようやくエルナンが口を開いた。


「その男の言うことは本当なのでしょうか? ここは人の入ない場所のはず、何故わざわざこの村へ?」

「貴方たちは洞窟から現れた。それで証明になるでしょ」


 答えたのは、ロスだった。

 すたすたとリジアの側まで来ると、その肩に手をかける。


「リジア、大丈夫?」

「ええ、大丈夫です」

「あのさ、外のメンバーの1人ちょっとやばいと思うんだ。話途中になるかもしれないけど、出発させたほうがいいみたいだよ」


 ロスがその顔に似合わない難しい表情で、そう言った。


「赤い髪の方ですか?」

「うん、気付いてた?」

「スコットに何かあったんですか?」


 2人の話にエルナンが割り込む。

 リジアが、ようやく顔をメンバーに向ける。


「もしかしたら場に捕まったかもしれません。脱落者以外の人がここでどんな影響をうけるのか分かりませんが、ここの癒しの力はかなり強力です」

「場?」

「……もう出立した方がいいでしょう」


 トゥルーの言葉には応えず、リジアはそう続けた。


「あんなことまで話すつもりはなかったのですが……かえって混乱させてしまいましたね」

「リジア。あの話、ぼくは教えて良かったと思うよ。だって、何の努力もしないで壊れるのを見るのは辛いでしょ」


 ロスが、トゥルーたちを見回す。


「……リジアもぼくも次の啓示があれば応えるつもりだったんだ。どんなに時が止まってても、この姿のままでいるのは結構苦しいよ。でもあの男が現れて、ぼくたちはもう少しこの姿でいることにしたんだ」


 眼を閉じ、また開く。その少しの間にロスの瞳には強い力が満ちていた。


「あの男が言ったように、貴方たちは洞窟から現れた……だから、貴方たちならできるんだ。『太陽の子』を目覚めさせることが、きっと……お願いだよ。ぼくたちを『解放』して」


 感情的な願いに満ちたロスの声は、メンバーの胸にまっすぐ届いた。

 それは、なんとかしなければと思わせて、あまりあった。

 

「……」


 3人はそれぞれ何か言いかけ、パクパクと口をあけたが結局声にはならなかった。

 勇者と言ったって、本当に神様に選ばれたわけでも、何か特殊な守りがあるわけでもない。お祭りで、命がけのイベントに選ばれた運の悪い若者たち、それが『遠征』のメンバーの姿なのだ。

 神の山に入った過去の勇者たちと同じように、自分たちだって脱落するかもしれない。

 運良く登りつめたとしても、『太陽の子』は目覚めないかもしれない。

 大陸の存亡だの、『解放』など言われたって、はいそうですかと軽軽しく答えることは出来なかった。


「ロス、やめなさい。皆さん困ってるじゃないですか。すみません。我々のことは気になさらないでください」

「リジア、でもっ!」

「あまり役に立つ話は出来ませんでしたね。もっといろいろ話せると思ってたのですが……急いだ方がいいようです。村の出口までお送りしましょう」


 リジアは立ち上がった。その顔は暗く、口はもう固く閉ざされていた。  トゥルーたちは何も言えないままその後に続いた。

 ロスも黙々と先を進み、やがて噴水のある広場にメンバーを導いた。

 タイロとトルドがこちらに気付いて、スコットを起こしにかかる。その様子を見て、


「早くここから離れた方がいいですね。こちらです」


 リジアとロスは歩き始めた。

 慌ててメンバーも歩き出す。何もない道をさらに進むと、唐突に道は切れ森が始まった。


「ここから、森です。案内できるのはここまでです」

「ぼくらはここから先に進めないんだ」

「そう、ここから出るには時が立ち過ぎてしまいました」


 ロスの言葉を受け取って、リジアはゆっくりと続けた。


「啓示を受け入れ肉体を失っても、永久の安らぎを得ても、ここからは世界の理の中には戻れないのです。それでもここから出たい、知りたい。『遠征』の本当の目的や、我々が選ばれた理由を、そして、【太陽伝承】の真偽を見たい」

「何の話だ?」


 突然出立を告げられたトルドが、トゥルーに耳打ちする。トゥルーは何かを言わなくてはと眉を寄せたが、考え付く前にエルナンの声がした。


「我々が『太陽の子』を目覚めさせることができるとは限りません。ですが、できる限りのことはします。今はそれしか言えません」

「十分ですよ。ありがとう」


 リジアは頭を下げた。

 そして、


「貴方たちは貴方たちの『遠征』を行えばいいんです。たとえ、それが失敗で終わろうとも―――貴方たちは、永遠に我々の希望なんですよ」


 そう嬉しそうに、微笑んだ。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も、よろしくお願いします。

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