【16】
「あんたがこっちにくるとは思わなかったよ」
まだぼんやりしているスコットの手を引きながら、トルドは正直な感想を呟いた。
タイロは「そうか?」と肩をすくめる。
「何か気になることでもあるのか?」
あまり素っ気なかったので、からかうようにそう聞くと、タイロは足を止め振り返った。
「何が言いたい?」
「いや、深い意味はないよ」
かなり真剣な目に、トルドは思わず身体を引いた。タイロはしばらくトルドを見つめていたが、やがて大きく息を吐き出し、頭を振った。
「……そいつのことが気になったんだよ」
「スコットのことが?」
「ああ、元気なのがとりえみたいなヤツなのに、突然その状態はおかしいだろう?」
指さされてもまったく気が付かないスコットに、トルドも頷く。
「確かに。だけどさ、あんたはあの場で話を聞いてた方がよかったんじゃないのか?」
「……話を聞くのはエルナンの方が上手いだろう。後で必要なことだけ聞けばいい」
「そりゃそうだけど……」
トルドはそのままもごもごと続く言葉を飲み込んだ。
「……それに、あそこは嫌な感じがした……洞窟からずっと感じてはいたんだが、ここに来てそれがかなり強くなってる」
「嫌な感じって奴が、か?」
「ああ、頭の中をかき回されているみたいだ」
タイロがもう一度頭を振る。トルドは目を閉じて、辺りの気配を探る。
「……何も感じないけどなぁ……あんたは、スコットのこの状態と関係あると思ってるのか?」
「いや、それは分からない」
「トゥルーたちも何も感じてなかったみたいだけど・・・」
「気のせいならいいんだが」
トルドはスコットを見た。眠たげな目が前方の一点を見つめている。おかしいといえばおかしいが、眠い時の人間はこんなもののような気もしなくはなかった。
「ラウルもだけど、あんたも感が鋭すぎるのかもな」
「そうか?」
「まあ、スコットみたいに鈍すぎるのも困るけどね」
スコットは自分が呼ばれたのに反応して、トルドを見あげた。だがその瞳はまだまだ眠いと言っている。
その様子にトルドは苦笑を浮かべた。
「あんたが『遠征』に参加するのを承諾したのも不思議だったけど、こいつが選ばれたのも不思議だよな」
「本当に、ぼくもその人がどうして選ばれたのか不思議に思うよ」
タイロが相づちを打つ前に、少年の声が割込んできた。
2人が揃って振り返ると、ロスが駆け寄ってくるところだった。
「……どっか行きたいとこある? リジアがこの村を案内しろって言ったけど、この村案内するとこなんかないからさ」
かなり失礼な言葉を言ったにもかかわらず、ロスはにこにこと3人の前に立った。
「この村って、ホント何にもないんだよね。まあ、実質で住んでいるのが2人だから、しょうがないって言えばしょうがないんだけどね」
「おい……」
ロスの言葉にタイロとトルドは顔を見合わせた。
―――今、何て言った?
「何?」
「2人って、ここに住んでるのが2人って……」
「ああ、ここに住んでるのは、ぼくとリジアだけだよ。だから2人・・・彼かなり眠そうだね。休めるとこに案内するよ。ちょっと行くと噴水のある広場があるんだ。ぼくのお気に入りだけど、特別に使わせてあげる」
タイロとトルドは呆然としたまま話続けるロスを見つめる。
「なあ、今さ、あいつ不思議なこと言わなかったか?」
「ああ、何か、言った、な」
「って、ことは……あんたの言ってる嫌な気配と、洞窟にイタっていう大勢の気配ってさ……」
「聞いてみた方がいいかもしれないな」
面白がってるとしか思えない態度のトルドを横目に、タイロは背を向けたロスの肩に手をかけた。
「そうゆうことはさ、ぼくじゃなくリジアに聞いて欲しいんだけどなあ」
「聞こえてたなら話は早い。お前、一体何なんだ?」
「……単刀直入だね……うだうだ言ってる割にはさ」
化けの皮がはがれたというのか、子供らしさってものが全くない瞳とうんざりしたような声が答える
タイロは目を細め肩を引いた。それは危険という合図だった。
スコットを背中にかばい、トルドはいつでも走り出せる体勢をとる。
「そんな敵意剥き出しにしないでよ。けんか売ったりしないからさ……」
剣にタイロの手が伸びたところで、ロスが慌てて両手をあげた。そして、笑顔で道を指差した。
「とりあえずさ、座れるとこ行こうよ」
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