【14】
『光玉石』の放つ光の向こうの深い闇の中から何かが飛び出すのと、ラウルの剣が抜かれるのはほぼ同時だった。
シャンッ!!
軽い音がして、誰よりも早くラウルの剣が、転がり出た何かに突きつけられた。
「ラウル、待ってください。彼らに敵意はないんですから」
その剣をそらすため、トゥルーはラウルの腕をつかんだ。
ラウルは、片手でそれを振り払う。
「トゥルー、邪魔するな。殺しはしない」
「……子供……ですか」
トゥルーとラウルのやり取りを尻目に、スコットが間の抜けた声を出した。
『光玉石』の光の中に現れたのは、スコットよりもまだ小さな体の少年だった。
「お前、誰だ?」
ラウルが訝しげに尋ねた。その剣先はのど元に固定されている。
尻もちをついたまま、その少年はラウルを見上げた。碧色の瞳が驚きと恐怖に揺れている。
「ラウル、剣を引いてください。彼は丸腰です」
エルナンが諌めた。ラウルは少し嫌な顔をしながらも、剣を鞘におさめる。
少年は剣がしまわれるのを見て、ほうと息をついた。
「で、お前、誰だ?」
止められて気をそがれたラウルに変って、トルドがそう少年を覗き込んだ。
軽い口調の言葉に、少年は表情を緩める。
「ぼくは、ロス。えーと、くじ引きで負けて、貴方たちを迎えに来たんだ」
「迎え? 私たちをですか?」
エルナンが聞き返す。
ロスと名乗った少年は大きくうなずく。
「訳を話してもらえますか?」
「うん、いいよ」
ロスはそう言って、立ち上がった。
そして、洞窟の先を指差した。
「でも、それはぼくの役目じゃないんだ。村に案内するよ。そこでリジアに話を聞くといいよ」
☆☆☆
慣れた足どりでロスは、洞窟を進んでいった。
洞窟は何度か曲がり、いくつかの分かれ道を過ぎ、やがてやわらかな風と共に、強い光の差し込む場所へと出た。
「ついたよ」
そうメンバーに声をかけ、光の中へと駆け出していく。
トゥルーたちは闇に慣れた目をそれぞれかばいながら、その後を追う。
むせ返るような緑の香と整備された道が、メンバーを迎えた。
「また、森か」
ラウルがうんざりした声をあげた。
他のメンバーも同じ思いなのだろう。複雑な顔をしている。
「ここは大丈夫だよ」
ロスは顔をしかめてるメンバーを振り返って、そう笑った。
「ここは、何処よりも安全なんだよ」
「どうゆう意味だ?」
「うーんとね、それもリジアに聞いた方がいいよ」
ロスは、少し足を速めた。
「おい、なんでお前が説明しないんだ?」
「……リジアの方がそうゆうの上手いんだよ。ぼくが説明するよりわかりいいし、それに村はもうそこだから」
歩みをとめずに、ロスはそうトルドに返した。
確かに、茂みの向こうに家の屋根らしきものが見えている。
「トゥルー、伝承にこんな場所に村があることはかかれてますか?」
エルナンの動きにあわせて、ロスの姿を見失わない程度に距離をおく。
「いいえ、書いてなかったと思います。この山に『人』は入れないはずです」
トゥルーたちの常識なら、この神の山に人が住むなどありえないはずだ。ここに存在するのは、植物と人間以外の動物だけのはずだ。
「化かされてる、とか」
「・・・彼らに敵意も、魔法力も感じません。我々が知らないだけで、この森に住む人もいるのかもしれません」
「リジアという人物、本当に何か知ってるんでしょうか?」
エルナンが首を傾げる。それはトゥルーにもわからない。
「会ってみるしかありませんね」
「トゥルー、エルナン。ついたみたいだぜ」
すっかり離れてしまった二人をラウルが呼んだ。
いつのまにか、家がいくつか並んだ場所に出ていた。
一軒の家のドアを開けてロスが、メンバーを待っている。
「入って、リジアを紹介するよ」
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