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祭りの時  作者: 水瀬


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15/57

【14】

『光玉石』の放つ光の向こうの深い闇の中から何かが飛び出すのと、ラウルの剣が抜かれるのはほぼ同時だった。

 シャンッ!!

 軽い音がして、誰よりも早くラウルの剣が、転がり出た何かに突きつけられた。


「ラウル、待ってください。彼らに敵意はないんですから」


 その剣をそらすため、トゥルーはラウルの腕をつかんだ。

 ラウルは、片手でそれを振り払う。


「トゥルー、邪魔するな。殺しはしない」

「……子供……ですか」


 トゥルーとラウルのやり取りを尻目に、スコットが間の抜けた声を出した。

 『光玉石』の光の中に現れたのは、スコットよりもまだ小さな体の少年だった。


「お前、誰だ?」


 ラウルが訝しげに尋ねた。その剣先はのど元に固定されている。

 尻もちをついたまま、その少年はラウルを見上げた。碧色の瞳が驚きと恐怖に揺れている。


「ラウル、剣を引いてください。彼は丸腰です」


 エルナンが諌めた。ラウルは少し嫌な顔をしながらも、剣を鞘におさめる。

 少年は剣がしまわれるのを見て、ほうと息をついた。


「で、お前、誰だ?」


 止められて気をそがれたラウルに変って、トルドがそう少年を覗き込んだ。

 軽い口調の言葉に、少年は表情を緩める。


「ぼくは、ロス。えーと、くじ引きで負けて、貴方たちを迎えに来たんだ」

「迎え? 私たちをですか?」


 エルナンが聞き返す。

 ロスと名乗った少年は大きくうなずく。


「訳を話してもらえますか?」

「うん、いいよ」


 ロスはそう言って、立ち上がった。

 そして、洞窟の先を指差した。


「でも、それはぼくの役目じゃないんだ。村に案内するよ。そこでリジアに話を聞くといいよ」







   ☆☆☆







 慣れた足どりでロスは、洞窟を進んでいった。

 洞窟は何度か曲がり、いくつかの分かれ道を過ぎ、やがてやわらかな風と共に、強い光の差し込む場所へと出た。


「ついたよ」


 そうメンバーに声をかけ、光の中へと駆け出していく。

 トゥルーたちは闇に慣れた目をそれぞれかばいながら、その後を追う。

 むせ返るような緑の香と整備された道が、メンバーを迎えた。


「また、森か」


 ラウルがうんざりした声をあげた。

 他のメンバーも同じ思いなのだろう。複雑な顔をしている。


「ここは大丈夫だよ」


 ロスは顔をしかめてるメンバーを振り返って、そう笑った。


「ここは、何処よりも安全なんだよ」

「どうゆう意味だ?」

「うーんとね、それもリジアに聞いた方がいいよ」


 ロスは、少し足を速めた。


「おい、なんでお前が説明しないんだ?」

「……リジアの方がそうゆうの上手いんだよ。ぼくが説明するよりわかりいいし、それに村はもうそこだから」


 歩みをとめずに、ロスはそうトルドに返した。

 確かに、茂みの向こうに家の屋根らしきものが見えている。


「トゥルー、伝承にこんな場所に村があることはかかれてますか?」


 エルナンの動きにあわせて、ロスの姿を見失わない程度に距離をおく。


「いいえ、書いてなかったと思います。この山に『人』は入れないはずです」


 トゥルーたちの常識なら、この神の山に人が住むなどありえないはずだ。ここに存在するのは、植物と人間以外の動物だけのはずだ。


「化かされてる、とか」

「・・・彼らに敵意も、魔法力も感じません。我々が知らないだけで、この森に住む人もいるのかもしれません」

「リジアという人物、本当に何か知ってるんでしょうか?」


 エルナンが首を傾げる。それはトゥルーにもわからない。


「会ってみるしかありませんね」

「トゥルー、エルナン。ついたみたいだぜ」


 すっかり離れてしまった二人をラウルが呼んだ。

 いつのまにか、家がいくつか並んだ場所に出ていた。

 一軒の家のドアを開けてロスが、メンバーを待っている。


「入って、リジアを紹介するよ」

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も、よろしくお願いします。

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