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それは神崎が学年一位になってからの週末の出来事だった。
「ふあ〜あ…… なんか暑くなって来たわねぇ」
「彩奈スカートで扇がないで下さいはしたないです」
「清っちが喜ぶと思ってさ」
「そんな汚い風で清人が喜ぶわけないじゃん」
「あはッ、ちょっと表にでなよ麻里」
「髪の毛引っこ抜いてやる」
「「お前ら(あなた達)いい加減にしろよ(して下さい!)」」
「わーお! ハモった」
「なんかムカつく……」
逆セクハラ受けてる気分だわ、篠原の奴大胆過ぎだろ。 高校生如きにここまで弄ばれるとは……
午前中は緩やかに流れて行き昼が過ぎてしばらくした時だった。
普段使われてないインターホンが鳴った。 誰だ? と思ったら神崎が返事をして玄関を開けると困惑した神崎の声が聞こえたのでドアを開けた。
そこには長身のスーツ姿のキリッとした感じの男が居た。 歳は40代くらいだろうか? もっといってるかな?
「お父様……」
「莉亜」
お父様? お父様とか言ってる奴初めて見たわ! どこのドラマの世界だ? というかこれが神崎の父さんか。 だけど神崎を見つめるその顔は冷淡というか父親らしい感じはしない。 もともと引き取られたからだろうけど。
「ん〜? 莉亜のお客さん?」
篠原が部屋のドアを開けて神崎と父さんを見ると神崎の父さんも篠原を一瞥する。
「なるほどな、父さんの援助を受けているからと思ってどんな所に住んでるのかと思って調べてみたがこんな小汚い古屋に住まわされているとは。 君は篠原彩奈君だね?」
「私の事ご存じで?」
「ここに来るに当たって娘と一緒に暮らしている住人くらい調べたよ、それに日向麻里君と柳瀬清人君も居るんだろう?」
「お父様、今日は何かご用がお有りでしょうか?」
神崎はガッチガチになっていた。 それはもう会いたくない人に会ったような様子だ。
「なに、学年一位になったんだろう? おめでとう。 二流の高校とはいえお前なりに努力したんだろう」
「…… はい」
称賛している割にはバカにしているとしか思えない言動だ、こりゃ溝は深いな。
というか俺も一応挨拶くらいしておいた方が良さそうだと思って廊下に出た。
「君が柳瀬君だね? 不出来な娘がお世話になっているようで」
「どうも…… いえ、寧ろ俺の方が娘さんに世話になっているというか」
「まぁそうだろうね、君のようなまともな学歴もない者はね」
ぐぐぐッ、あながち間違ってはいないのでなんとも……
「違いますお父様! 私が成績が上がったのは柳瀬さんのお陰でもあるのです、そのような言い方は……」
「ふん、まぁそういう事にしておこう」
なんつー高慢ちき、神崎が嫌になるわけだ。
「まぁそれは置いといてだ。 今日はお前に提案があって遥々訪ねて来たんだ」
「提…… 案ですか?」
「家に戻って来ないか? 拾ってあげた恩を無下にしたお前の行為は特別に許してやろう。 だからこんな低俗な輩とは縁を切りしっかりとした教育を受けなさい」
「ちょっとぉ! 低俗って私らの事?」
「君はなかなか優秀なようだね? その気になればだが」
「なぜ…… なぜ今頃になって」
「見込みはあるかもしれないと思ったからだ、一流の高校に今からでも転入させてみせよう、将来を無駄にしたくなければな」
「その一流の高校でまたお父様の期待に応えられなかったら私は用無しですか?」
「期待に応えられないと? それでは困るな、これはチャンスなんだ。 一度私に背いたお前にまたチャンスをやろうというのだ。 願ってもない事だろう?」
こいつ…… つくづく聞いててヘドが出る会話だ。 親子だなんてとんでもない。
「あんたなぁ、仮にも自分が引き取った娘ですよね? 見込みとかチャンスとか
わけわかんない事ばっかり言ってないで頑張った自分の娘を褒めてやったらどうですか? あんたは神崎の今の気持ちわかんないのか?」
「これだから底辺の言う事はズレている。 娘だからこそしっかりとした教育を受けさせてあげるのは当然だろう? さもなくば君のような末路になってしまうというのはわかりきっているからね」
「清人の悪口言わないで」
いつの間にか日向も出て来ていた。
「どうやら君はこの子達には好かれているようだがそんなものは将来なんの役にも立たない。 まぁ君にはさほど興味はないので。 さて莉亜、お前はどうするんだ?」
「………… お断りします」
「なんだって?」
「お断りします!! お父様…… お父様は私の大切な人達をバカにしました、今の私があるのはお父様に拾って頂いた恩もあります! ですがここまで私が頑張って来れたのはこの人達が居たからです、それを否定なさるのは私を否定されているのと同じ事です! ですので…… その一流の学校に転入したところで期待には応えられないでしょう、なので丁重にお断りします!」
「そうか、最後のチャンスのつもりだったんだがね。 私の父さんと母さんには甘やかされてると言ってもいつまでもそれが続くと思わない事だ、私は今後お前に一切協力しない。 せいぜい後悔するといい」
別れ際に自分の娘に後悔するといいなんて言葉を言うこいつに俺は腹が立った。 聞いていて最初から最後まで胸糞だったが。
「ちょっと待てよ! あんたの方が言ってる事ズレてんだよ、だったらなんで神崎を引き取った? 自分の都合のいいように動かせると思ったか? 奴隷になるとでも思ったのか?」
「君は部外者だろう? これ以上君には口を挟んで欲しくないのだが」
「確かにそうだし俺はあんたほど神崎と付き合いがあるわけじゃない。 でもこいつの頑張りを俺は見ている、あんたに認められたくて必死に頑張ってる姿をな! あんたのせいでこいつがどれだけ思い悩んでいたのか知ってるか? どれだけ必死になって勉強したか知ってるか? そんな娘を少しでも想ってやれないのか? 可愛いとも思えないのか?」
「ふん、見た目だけは整ってはいるがね?」
「このッ……」
カチンと来てしまった、1発ぶん殴るそう思って殴り掛かろうとした時だった。
「待って下さい!!」
神崎は俺の腕に掴まり制止する。
「神崎ッ!? こいつはダメだ、お前が言ってた事全部わかった、こんな冷酷な奴一回痛い目みないとわかんねぇぞ?」
「やれやれ、これだから低学歴は困る。 正論を突き付けられるとすぐに実力行使だ、そんなもの社会に出れば一切通じないというのに。 痛い目を見ないとわからないだって? それはそのまま返そう。 私がその気になればね、君が今働いている会社から君をクビにする事も出来るんだよ? そして君が再就職を測ろうとしてもその会社に圧力を掛ける事だってね。 言ってる意味がわかるかな?」
「バカみたい」
「うん?」
日向が口を開いた。
「莉亜に愛想尽かされて腹いせに清人に八つ当たりしてバカみたい」
「八つ当たりだって?」
「そうね、莉亜のお父さん大人気ないじゃん? ちょっと偉いからって清っちに自分はなんでもできますよー的な事自慢しちゃってさ、恥ずかしくない?」
「話にならないね、こんな所に居るからろくな人間関係も築けないらしい」
「麻里、彩奈………… お父様、私はお父様に大恩がある事には間違いありません、ですがお父様はまず謝って下さい!!」
「謝る? 何をだい?」
「私の友人達への非礼をです!」
「私は何も間違った事は言ってないよ。 だけどそうだな、騒がせてしまったのは済まない。 不出来な娘を引き揚げようとしただけだったのにこんなに反発されるとは思わなかったよ、つくづくバカになってしまったんだな」
「そうですか、私もそう思ってます。 お父様は………… 」
神崎は大きく息を吸った。
「お父様こそバカヤローです!! このッ…… この大バカヤローの分からず屋ッ!!」
「そうか」
神崎の父さんは踵を返して出て行った。
神崎は顔を伏せてしまった。 こいつがあんな事言うなんてな。 神崎の肩に手をポンと置いていると震えているのがわかった。
「神崎……」
「あはは…… 言っちゃいました、お父様に向かってバカヤローって」
「ごめんな神崎。 俺らのために怒ってくれたのに結局あんな風に……」
「いえ、柳瀬さん達が居たお陰でお父様にあんな事言えたんです。 とてもスカッとしてしまいました。 麻里、彩奈も私のお父様が失礼な事言ってしまいごめんなさい」
「別にいい。 あたしもムカついた」
「あんたのお父さんってあんなんじゃそりゃあ嫌になるわよねぇ」
「みなさんありがとうございます……」
「無理すんなよ? 俺は…… 俺達は家族なんだろ? だからいつでも甘えたっていいんだからな」
「はい……」
よしよしと神崎はみんなに頭を撫でられていると泣き出してしまった、あれでも父親だもんな。




