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「おい、なんて事してくれてんだよ?」
「すみません…… 咄嗟の事で柳瀬さんをフォローするつもりだったのですが」
「莉亜は慣れない事するからだよ。 いやまぁなかなか良かったけど」
「良くねぇよ篠原、お前が1番良くないぞ、なんだあれ?」
「あー、あれ? 麻里が変な気起こさないように私がブレーキ役やってあげてるんじゃないの。 下手したら実は清っちの事好きなんですとか言ったら困るでしょ〜?」
「な、なぜ私を見て言うのです?」
「んふふ〜、別に」
今日は俺含めここで6人も夕飯を食べる事になってしまった。 テーブルはちょうど6人分のスペースがあるからいいとして俺はその場に居たくないなぁ、どう見ても場違い感が……
「あー、これなら1人で飯食った方がマシだったかもしれない」
「大丈夫だって、私がしっかりと清っちの彼女役やってあげるから安心しろ!」
バンと篠原に背中を叩かれる。 お前がやるから安心出来ないんだろが。 タチの悪いマッチポンプばっかり引き起こしやがって。
「んー、じゃあどうしよっかなぁ。 私は清っちに片想いでなかなか振り向いてもらえない悲しい乙女な役でも演じようかなぁ」
「彩奈趣味が悪いです、それより早く夕飯の準備を手伝って下さい。 何のために居るんですかあなたは」
「はいはーい。 小島君もラッキーよねぇ。 私みたいに1番モテる子の手料理食べれるなんて」
「お前目当てじゃないみたいだけど?」
こういう状況になったんだし諦めるか。 俺も神崎達の料理を運んだりしていると……
「柳瀬さん、そろそろ3人を呼んできてもらえますでしょうか?」
「俺が行くの?」
「お願いします」
仕方ない…… 日向の部屋をノックすると日向が出て来た。
「清人…… あれ何?」
「あ、あれはその…… って夕飯が出来たみたいだ。 だから来てくれ」
やっぱり日向怒ってるな。 俺だって巻き込まれてるんだよ勘弁してくれ。 この後の展開を考えると更に怒るだろうな、めちゃくちゃ不安だ。
「さぁ、どうぞ!」
満面の笑みで篠原は客人をもてなす。 神崎は少し引きつった顔だ、お前も俺に飯食えなんて言うからそうなるんだ。 俺は少し様子見させてもらうからあんまり喋らずに観察してよう。
「うわぁー、莉亜ちゃんって本当に料理出来るんだねぇ凄い」
「私も手伝ったんだけどね!」
「彩奈ちゃんも凄い。 私こんなに上手く作れないかも」
「神崎と篠原の料理か。 まさか2人からご馳走になるなんて学校じゃ考えられないな」
「そんな大した事ない。 遠慮せず食べて」
日向は別に作ってないだろうに自分が作ったみたいに言ってんじゃねぇよ…… ああ、でも小島的には日向の手料理が食べたかったんだろうなぁと思う。
「ええと…… 俺ここでいいのかな?」
「あ! いいですよ、どうぞどうぞ」
小島は日向の隣に座ろうとしていたので神崎は気を利かせた。 そこは俺のいつもの席だった。 日向を見るとなんで小島がみたいな顔をするけど小島は気付いてない。
「じゃあ私はここでいい?」
「うん、いいよ」
当然小島の隣には稲葉が座る。 俺は神崎の隣に座ろうとしたが篠原に腕を引っ張られた。
「清にぃ! 私の隣でしょ!」
「う…… ああ」
「ふふッ、たーんと食べてね」
やめろよそのキャラ。 絡み辛い……
「篠原ってもしかして日向のお兄さんと付き合ってる?」
「うん! そうだよ、清にぃイケてるでしょ!」
やめろー、変な同意を求めるな恥ずかしい。
「彩奈ちゃん学校じゃ1番モテてるんですよ、なのに特定の彼氏作らないのは柳瀬さんが居たからですねか」
「そうなのか、モテそうだなぁとは思ってたけど」
「彩奈ちゃんは柳瀬さんのどこが気に入ったの?」
「清にぃ背は私より高いし顔も可愛いし大人だしいざって時に頼れるし高校のガキンチョとは一味違うところかな!」
お前こそガキンチョのくせによく言うわ! それよりひっ付いててくるなよ。
「麻里、麻里! どうかしましたか?」
「は…… な、なんでもない」
「日向もこうやって料理作ってるんだろ? 偉いなぁ」
「あたしは2人に比べてまだまだ下手だから」
「それでも麻里は随分上達しました、飲み込みが早いです」
「莉亜ちゃんが教えてるの?」
「はい!」
「莉亜ちゃんしっかりしてるからね、私も頑張って料理の勉強しなきゃ! こ、小島君に食べてもらって感想聞こうかな」
「ええ? なんで俺が」
ああ無情、その反応は知ってるこっちからしたらいただけないだろう。
「そんな嫌がらないでよぉ、傷付くなぁ」
「あたしも香奈の料理は小島君が味見してみた方がいいと思う」
「日向まで勧めるなよ」
「清にぃ、あーんして?」
「みんなの前でそんな事するなよ」
「あん! 恥ずかしがり屋なんだから。 ほら、あーん」
恥ずかしいし日向は睨んでるし神崎はドン引きしてるし他の2人も苦笑いしてるし死にたい。 俺を辱める作戦なのかこれは!?
食べない限り終わりそうにないしもういいやと思って食べると……
「あ、清にぃケチャップ付いてる」
俺の口の周りに付いた、というか付けるように食べさせられたそれを篠原は指で俺の唇をなぞりその指を舐めた。
「うふふ」
「あ、彩奈! お行儀が悪過ぎます!」
「彩……!」
「あーら、ごめんあそばせ」
「なんかギスギスしてきたのは気のせいか?」
変な空気に小島と稲葉はオロオロし出す。 もう嫌だこいつら付き合ってらんねぇ……




